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第三話 『消えない妹』

――家に帰れば、少しは落ち着けると思っていた。

だが、その予想は甘かった。

「ねえねえ、フリお兄ちゃん! 学校どうだった? 楽しかった? 誰と話したの? きっと女の子の友達もできたんでしょ? 私を置いていったりしてないよね?」

玄関を開けた瞬間、ユメが矢継ぎ早に問いかけてくる。

その笑顔は明るい。けれど、どこか必死だ。

「……まあまあ、かな」

セラさん。ヨヨさん。

そして――ユナさんの顔が浮かぶ。

「どうして女の子の友達ができたって分かるんだ?」

「顔を見れば分かるよ。フリお兄ちゃんのこと、ずっと見てるもん」

一瞬だけ、ユメの表情が翳った。

だがすぐに、何事もなかったように微笑む。

「先にお風呂入ってきて? ご飯、作っておくから」

「分かった」

シャワーの音が浴室に響く。

(……やっと一人になれた)

それなのに、頭の中にはあの教室が浮かぶ。

ユナさんの赤い瞳。

セラの意味深な言葉。

ヨヨの視線。

そのとき――

ガチャ。

浴室の扉が開いた。

「フリお兄ちゃん、私も一緒に入るね」

「なっ――!?」

振り向いた瞬間、視界に入ったのは無防備な妹の姿。

慌てて顔を背ける。

「どうしたの? 病気?」

からかうように近づき、体温が触れる。

「ち、違うから……!」

慌てて浴室を出る。

その瞬間、鏡が視界に入った。

――俺しか映っていない。

(……あれ?)

背後にはユメがいるはずなのに。

だが、鏡の中には俺一人だけ。

「……気のせい、だよな」

食卓には豪華な夕食が並んでいた。

「誰が作ったと思ってるの?」

湯上がりのユメが得意げに言う。

食事を終え、夜。

「今日だけ、一緒に寝てもいい?」

甘えるような声。

断れなかった。

布団に入ると、ユメは背後から俺を抱きしめる。

「ねえ、フリお兄ちゃん。嫌いなものってある?」

「……虫。特にゴキブリとクモ」

脳裏に焼きついている。

あの日。

倒れていた家族。

その周りを這い回っていた黒い影。

「それと――大切な人を失うことが、一番怖い」

沈黙。

やがて、震える声が聞こえた。

「もしも……私が消えたら、どうする?」

言葉に詰まる。

答えられない。

すると、ユメは小さく笑った。

「冗談だよ。心配しないで」

その夜、ユメは強く、強く俺を抱きしめ続けた。

「……苦しい、って」

それでも、俺はその腕を振り払えなかった。

俺はまだ、あの日を見ていない。

見ないふりをしている。

そして――

“彼女”は、まだ消えない。

【第三話 終】

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