第一話:普通の学園生活(たぶん)
ごく普通の高校生活。
雨の日が続く街。
少し変わったクラスメイトたち。
これは――
ただの学園ラブコメ、のはずだった。
記憶が欠けている少年。
すべてを知っているような少女。
物語に話しかけてくる“友人”。
笑っていたはずの世界は、
気づかないうちに、もう歪み始めている。
※最初はコメディ寄りです。
※安心して読んでください。
(たぶん)
俺は教室の隅、窓際の席に座っていた。
今日も雨だ。
何日続いているのか、もう覚えていない。
窓ガラスを叩く雨粒をぼんやり眺めながら、俺は小さく呟く。
「はぁ……今日も雨か」
不思議と、嫌じゃなかった。
むしろ、この感覚に慣れてしまっている自分が少し怖い。
その時、教室のドアが開いた。
一人の少女が入ってきて、入口近くの席に座る。
――ユナ。
漆黒の髪に、赤い瞳。
可愛らしさと綺麗さが同居した、不思議な雰囲気の少女だった。
偶然、目が合う。
彼女は、ほんの少しだけ微笑んだ。
心臓が、跳ねた。
俺は慌てて視線を逸らす。
(落ち着け、フリ。
今のは偶然だ。たぶん……)
もう一度だけ、そっと彼女を見る。
ユナさんはすでに前を向いて座っていた。
……よかった。
さっきのは、きっと気のせいだ。
そう思った直後だった。
眠そうな目をした、茶色のくしゃっとした髪の少年が教室に入ってくる。
右目の瞳孔は、鋭い三角形。
左目は、重なり合った歪な三角形。
妙なのは――
彼が最初に見たものが、俺でも、ユナさんでも、黒板でもなかったことだ。
彼は、こちらを見た。
いや……
カメラの向こうを。
(……語り手?
読者?
それとも――パシャ?)
自分で考えて、自分でゾッとする。
少年は俺の前の席に座った。
続いて、一人の女性がやってくる。
母性を感じさせる、柔らかな雰囲気。
彼女の視線は俺に向いている。
――正確には、俺が必死に隠している“何か”に。
彼女は少年の隣に座り、微笑んだ。
「こんにちは〜。セラです。よろしくね」
そして、静かに言う。
「でも……
あなた、あの子の前では、ずっと隠れていられないわよ」
彼女は、ユナさんを見る。
胸がざわつく。
「え……」
俺が口を開こうとした、その瞬間。
「今は言わなくていいよ」
前の席の少年が、眠たそうに言った。
「いつか、セラさんの言葉の意味がわかるから」
彼は少しだけ振り返る。
「あ、俺はヨヨ。よろしく」
「……よろしく。アドバイス、ありがとう」
「どういたしまして」
二人は、まるで示し合わせたみたいに言った。
その時、再びドアが開く。
若くて、整った顔立ちの男が、教室に入ってきた。
視線は鋭く、声は冷静。
「俺の名前はヤドク。
ヤドでいい」
「今日から、このクラスの担任で、社会科を担当する」
クラスの空気が変わる。
尊敬。
恐怖。
服従。
――でも。
俺は違った。
ヨヨも、セラも、ユナさんも、違った。
俺は教室を見渡す。
高校生活の初日。
それだけのはずなのに――
なぜか、
この光景を、何度も見たことがある気がした。
その時。
ヨヨが、もう一度こちらを見た。
いや――
あなたを見た。
「以上、プロローグでした」
彼は、薄く笑う。
「この物語を読んだ時点で――
もう、あなたは関係者だよ」
※次回
第一話
「普通のラブコメ(たぶん)」




