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小話その3 本日天気晴朗、風さやか


 絶対に決行するリエラ様との星空デートのために、無い知恵をふり絞る。


 便利魔法の『浮遊』と言えば。

 よく使うのが、二階の窓とか階段の一番上から飛び降りる時、それか二階や三階の空いてる窓に外から直接入る時。

 めっちゃ便利。


 だけど『浮遊』は横移動できなくて。

 使い勝手良く、とするには助走という慣性の法則利用が必須だったり、窓枠に手を伸ばして自力で体を移動させる必要があったりする。

 ほんっとーに『浮遊』はゆっくりと上下に浮くだけ、っていうのがネック。

 子供の頃、泥だらけになったその帰り。見つからないようにって思って、俺は窓からこっそり部屋に入ろうと……。

 いや、うん、なんで俺、そんなことできると思ったのかな?


 当然のごとく、俺は落ちた。


 だってちょっと考えただけでも、『浮遊』の術を維持しつつ、窓に手を掛けて開ける、というダブルタスク。子供には難度が高い。

 慣れた大人なら、『浮遊』に意識を割きつつ別の――例えば窓を開けるとか、枝に手を伸ばして体を木に寄せるとか――軽い作業ぐらいできるけど。


 目の前のことにすぐ飛びついてしまう、子供あるある、おバカな話。

 窓枠に手をかけた所で、やったーっと喜んでやり遂げた気になって、無意識に術を切ってしまったんだよな。


 で、腕だけで宙ぶらりん状態――からの、落下。

 たまたま箒を持って玄関を掃いていたラン姉が、絶叫して文字通り飛んできて拾われなかったら、現在の俺はここにいない。

 その後は当然、泣いて泣かれて、さんざん叱られて――なんでだか、安全に一人で飛べるようになるまで練習させられた。

 もう二度と落ちないように、って言われて飛べるようになるまで、猛特訓。


 今考えたら、普通、叱る内容は「もう二度とこんなことしないように」、だよな。なんでラン姉は危ない行動する幼い俺の背中を押した、謎だ。

 ……甥っ子、大丈夫かな。折を見て会いに行って、義兄さんに様子を聞きに行こう、そうしよう。

 ラン姉には内緒で。


 ちなみになんでラン姉が玄関の掃除なんかしてたのか聞いたら、「レレレおじさんのシチュをやってみたかった」、だそうだ。

 これ、ラン姉のすることなんていちいち理解しなくていい、っていう良い事例だと思ってる。


 で、過去を振り返っていたら、なんとなく分かって来た。

 ラン姉から特訓されたのは、『一人で飛べるように』だ。リエラ様と『二人分の飛行』を、俺一人で実行しようとするから行き詰まってるんだ。


 俺が絨毯で『飛行』して、リエラ様には『浮遊』してもらって、絨毯に乗ってもらう。

 これでいけるんじゃ?


「いいわね、試してみましょう! じゃあ、私が『飛行』するわ、ハリーは『浮遊』だけしてみて」


 絨毯の前にラン姉、後ろに俺がすちゃっと座る。

「飛ぶわよ!」


 ラン姉の声と同時に、俺も『浮遊』。

 結果。


「やったわ! 後は任せるわね、ハリー! お待たせ、旦那様、今帰るから!」

「待った。ラン姉、そのまま飛んで行かないで。っていうか、手紙の下書きぐらい手伝え?」


 逃がすか!

 俺は『浮遊』を解いて、そのまま飛んで行きそうなラン姉を地面に引きずり落とした。



~・~・~



 身だしなみオッケー、髪型もばっちり。


 デートの服装は、金の月、つまり金の騎士っぽい服装が良いのでは、と義姉上からアドバイスを受けた。ラン姉からは、中二病全開だけどかっこいいの定番! と叫ばれて、金を大胆にあしらった黒衣が用意された。


 着てみたら自分でもなんとなく、普段よりもかっこいい気がする。

 真っ当にセンスの良い義姉上からも褒められたから、今の俺の顔面点数は底上げされているはず。


 練習用のボロい絨毯は片付けて、綺麗で色鮮やかな壁掛け用のタペストリーを用意。大きめのタペストリーだから、二人乗りには十分。

 モチーフは夜の空。

 銀月の女王に金月の騎士が付き従うことになった童話があるんだけど、それを織ったタペストリー。王領大湖の魔獣討伐で一緒に肩を並べた王太子軍の仲間が、結婚の祝いにくれたやつ。


 ありがとう!

 こんなロマンチックなもの、俺の持ち物には一つも無かった!!

 もらった時はなにに使うのかさっぱり分からなかったけど、こういう時に使うんだな。さすが既婚者、頼りになる!!!


 さぁ、リエラ様を誘いに行こう。

 検証の報告は逐次(ちくじ)入れていたし、お誘いの事前連絡もしておいたし、了承の返事もちゃんともらって抜かり無し。

 ちなみに、ラン姉が昔言ってた「さぷらいず」はしなかった。

 だって、それって、リエラ様に黙ってこっそり『飛行』の練習をするってことだろ。

 無い無い。


 ほんとなら、二人乗りの練習だってリエラ様としたかったんだ。これはだめだったー、次は成功したーって、試行錯誤した思い出を重ねていきたかったんだよ。

 まあ、さすがに安全を考えて、『飛行』ができるラン姉と俺との二人での練習にするしかなかったけど。

 だから。

 逐次報告で、こんな工夫した、これはだめだった、これならできそう、とか。話して相談の態を取って意見を聞いて、何となく、一緒に頑張った、って感じにした。


 もし仮に、万が一にも「さぷらいず」なんてことをしてしまった場合――これだけの思い出が丸っと一切合切、なくなるってこと。

 リエラ様との思い出を、増やすことはあれど減らすことは絶対にしたくない。

 それに「さぷらいず」は結果はどうあれ、途中経過はどうしても隠し事になってしまう。

 リエラ様に隠し事?

 え、それって、不信に繋がるよね。嫌われる可能性が出て来るよね。


 却下で。

 即断するよね、一瞬も迷わない。 


 だからこれからのデートは、一緒に考えて成功しましたよー、っていうお祝いでもある。今日の夜は窓を開けておいてくださいね、って約束したから、待っていてくれてるはず。


 タペストリーの上に乗って、屋敷の外からリエラ様のお部屋にまで『飛行』する。大きく張り出た出窓は開かれ、人影が月の光に照らされていた。


 白に銀の混じるフリルとレースが幾重にも。細い身体に沿った白のドレスは、膝下から足元にいくほど黒に近い濃紺へと変わるグラデーション。銀の刺繍が月光にちらちらと瞬き、濃紺色の後ろに長く流れる裾(ロングトレーン)は、まるで足元から星空が流れるよう。

 流れる髪は銀の月光そのもの、凛然とした青い眼差しは夜闇でさえ鮮やかで――銀月の女王が窓辺で微笑んでいた。


 はい、見惚れました、恋に落ちました(定期)。


 もう何回目だかわからない一目惚れ。

 この先一生、俺は生きている限り、この人を見た瞬間に何度だって恋に落ちると確信できる。


「今宵、雲は散じて月は明るく、嵐は過ぎて今や花が盛りです」


 震えないよう、声を張った。

 童話の金の騎士も、こんな気持ちだったんだろうか。触れるなんて畏れ多い――でもそれでも、どうしても望まずにはいられない。

 (あきら)め切れないと諦めた、その心ごと差し出した。


「お手をどうぞ、リエラ様」

三話「本日天気晴朗、風さやか」 ようやく、星空デート決行でした!

まだ続きます。


最後らへん、今宵銀河を盃にして、、、ってフレーズが頭の中をぐるぐる回ってました。あの作家の題名って、どうしてああも格好いいのでしょう。

でも、飲酒運転だめ、絶対。飛行前、飛行中は禁酒です。

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