小話その1 ROUNDⅠ FIGHT!
政略結婚した二人のその後の話です(本編「これは政略結婚です」)。本編を読んでいなくとも、端的に言うと、政略結婚した二人のその後の話、ということで読めるかと思います。
内陸の豊かな農地を持つ、伝統ある侯爵家と。
今までは水棲魔獣による被害で、物流が死に絶えていた水運。それを一気に推し進めて力をつけようとしている、成り上がりの泥臭い伯爵家。
格式高い侯爵令嬢を、田舎貴族の伯爵家が妻に迎える――つまりは、陸運と水運の合併、国を支える貴き血の融和の象徴。
誰が何と言おうと。
どこの誰が横やりを入れようとも。
俺とアマリエラ様の結婚は、国是による雁字搦めの政略結婚です!
だからいくら謀略を巡らして離縁させようったって、無駄なので悪しからず。
ぜんっぜん、これっぽっちも、悪いとは思ってないけどな!!!
~・~・~
結婚式を恙無く……そう、大した騒動を起こすことなく、つ・つ・が・な・く、終えて!
あの人数、しかも、身分の高きも低きも入り乱れたカオスなごった煮を、上手く仕上げたアマリエラ様、すごい! と惚れ直した回数も二桁の大台に乗って。
『アマリエラ様』
『ハイネハリ様……旦那様』
いまだに俺たちは、お互いを、そう呼び合っている……旦那様呼びは嬉しいけど。
今は子爵領にいるラン姉からは、マイスウィートハニー♡、ダーリン♪、とまでは言わないけど、硬いわねー、なんて言われた。
いや、俺だってわかってる。というか、結婚式の夜、リエラ様って呼んでもいいですか、って聞いたのは俺だ。
でも、花束渡して、昔から好きだったことを伝えたら……アマリエラ様、驚いて……すごく、とてもとても、すごーく驚いて。
なんか、返事を聞く状況じゃなくなってしまったんだよ!
で、時機を逸してしまった結果。
『アマリエラ様』
『ハイネハリ様……旦那様』
いまだに、フルネーム呼び。
もう一度、聞く? 聞いてみる? リエラ様って呼んでもいいですかって、言っちゃう?
でもさ。
たとえ、誰がそう思わなくとも。
他でもない、俺が知ってるんだよ。
それって、俺が、アマリエラ様を、愛称で呼びたいだけだよな!!!
うおぉぉぉっ、恥ずい!
なんかこう、恥ずいっ!!!
普通、『アマリエラ』なら、アマーリエとか、エメリーだよなっ、知ってる!
そこを、あえての『リエラ』様。
独占と威嚇の一挙両得な、『リエラ様』呼び!!!
結婚式の夜の、あの浮かれた気分と、勇気をかき集めてようやく言えた台詞を――素面で、繰り返せと?
もう一度、正気で、再現しろと?
頭を抱えてうつむきかけて――いつもの習慣で、部屋の外、空を見上げた。
青が広がる、果てしなく澄み切った、青い空。
ぽかりと浮かぶ白い雲の端は、太陽の光を弾いて少し銀色に見えて。
アマリエラ様から、勇気をもらえた気がした。
~・~・~
身支度を整えて、朝食の用意された食堂へ。
少し早めについて、気持ちを整え……いや、気合を入れる。
脳内で予行演習。
侍女の先触れがあってー、扉が開かれたらー、アマリエラ様が入って来てー。
顔を上げて目を合わせて、にっこり笑って朝の挨拶、と、間を置かず、さりげなくスマートに、いかにも『今までもそうでしたよね』的な感じで、リエラ様呼び!
オーケー、オーケー、ばっちりだ。
愛称呼びは、夫である俺の当然の権利、誰からも文句は――アマリエラ様が、ヤダって顔したらどうし……いや、だから、怖気づくな、俺!
……って、侍女の先触れっ、いや、待って、もうちょっと待って!
今、なけなしの勇気を箒でかき集めてるところ!
焦る俺の目の前で扉が開き、アマリエラ様が入ってくる。
焦っていたのも忘れて、今日も麗しいご尊顔に、思わず見惚れてしまった。
アマリエラ様の視線が俺に向いて、目が合って。
思慮深げな目元が、俺を見て和らいで。
朝の光が差し込む中、口元が花のつぼみが開くようにほころんで。
「おはようございます、ハリー様……旦那様」
瞬間、天上の調べが響き渡った。
勝者、アマリエラ様!
アマリエラ様、WIN!
ハイネハリ、KO!
今話は、活動報告に掲載した御礼小話でした。これだけだと既にご存じの方もおられるかと思いますので、もう少し続きを用意しております。全四話、一日一話投稿。




