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第5話 庇う声

 週明けのホームルーム。文化祭の係決めで教室はざわついていた。

 黒板に名前が書かれ、各係が埋まっていく。だが最後に残った「備品係」の欄には、誰の名前もなかった。先生が「じゃあ、誰かやってくれる?」と問いかけると、気まずい沈黙が流れる。


 そのとき、後ろの方から小さな声。

「……僕、やります」

 澪は瞬時に振り向いた。遥斗が、目立たないように手を挙げていた。


 だが教室の空気は冷たかった。

「えー、佐伯っていつも一人でしょ?備品とか大丈夫なの?」

「この前も連絡係のプリント、消えてたじゃん」

 誰かの何気ない言葉が、誤解を大きくする。黒板がきれいになっていたのは、彼が残って片づけていたからなのに。

 ざわめきは次第に笑いを帯びて、彼を矢面に立たせていく。


 澪は立ち上がった。椅子が勢いよく床を鳴らす。

「待って。佐伯くんは、ちゃんとやってるよ」

 声が教室に響いた。空調の冷風が一瞬止まったかのように感じられる。

「黒板をきれいにしてくれてたの、私、見てる。プリントも揃えてあった」


 ざわつきが収まる。誰もが澪を見ていた。

 遥斗は目を伏せたまま動かない。けれど、その肩がわずかに強張っているのが分かる。


 先生が咳払いをした。

「じゃあ、備品係は佐伯で。宮原、補佐をお願いできる?」

「はい」

 澪ははっきりと答えた。


 授業後、廊下に出ると、旧館へ続く窓が開いていた。湿った風が吹き込み、クチナシの香りがふわりと漂う。

 澪は呼び止めた。

「さっきはごめん。でも、間違ってることは、黙ってられなかった」


 遥斗は眼鏡を押し上げ、少しだけ息を吐いた。

「……余計なこと、したね」

 そう言った声は硬かったが、その奥に、どこか戸惑いの揺れが混じっていた。

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