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第二章〜ドリームカード〜

「しょっぱい…」


煌めく太陽、白い砂浜、波の音。

潮の香りがふわっと香り、爽やかな風が頬を撫でる。

これがバカンスだったらどれほど最高のロケーションだろうか。


ビーチボールを楽しんだり、バーベキューなんかしてみたり。

そんな妄想が頭の中を駆け巡る。


ガバッと身を起こしたナシトゲは目の前に広がる水平線に目を奪われた。

辺りには誰もいない。

波の音だけがナシトゲの耳を刺激する。


『ナシトゲ』


「うわっ!」


抑揚のない無機質な音声が急に頭に流れたことに不意を突かれたナシトゲは素っ頓狂な声を上げた。

それと同時に彼は自分自身が上半身裸で、黒い短パンスタイルの水着だけが身を覆っているという事実に気が付いた。


『…久しぶりだなセイジン』


『お久しぶりです。今回もよろしくお願いします』


今回も目の前をふわふわと浮かぶ白い綿飴のような物体。ナシトゲにしか見えておらず、メィリオによって生み出されたナシトゲサポートAI、通称セイジンと頭の中で会話する。


『さてナシトゲ、今回は事前にクリア条件を伝えても良いとメィリオ様から言伝をいただいています。内容を聞きますか?』


『メィリオが?なんで!?』


前回の転移のクリア条件、冒険者カトレアにかけられた呪いの解呪は冒険を進める中で発覚した。

今回も前回同様まずはクリア条件を探すことが第一だと考えていたナシトゲは、驚きを隠せない。


『どういう風の吹き回しだよ…』


『任海堂の存在が大きいようですね。早速ですが、今回は”海人を満足させること”です』


『海人?』


『はい。前回の転移で出会ったミノシも同様に“人“の称号を持っていました。16の称号は資格を持つ者が生まれた時にメィリオ様より賜りし称号であり、さらに“人“たちはそれぞれが特殊な技能を持ち、世界の安定に大きく影響します』


その説明を聞いて、ナシトゲの脳裏にあの老人が浮かんだ。


前回の転移で出会った鍛治師のミノシ。 

確かにミノシが造った装備に、どれだけ多くの冒険者が救われたか。そして冒険者が強化されることでどれだけ多くの人々が救われた事だろうか。

彼は鍛治師として、この世界を平和に導いていると言っても過言ではないだろう。


『しかし…』


セイジンが珍しく言葉に詰まる。


『どうしたんだ。珍しいじゃないか』


『ここからはわからないのですが、“人”たちは自分に宿命づけられた生き方に疑問を持ちません。ただ愚直に、自分たちの使命を果たすのです。満足するとかしないとか、そんな考えすら浮かばないはずなのです。それなのになぜ海人が満足していないとはいったい…』


『うーん。まぁでも任海堂みたいなイレギュラーがいるぐらいだ。メィリオの思い通りにならないことがあっても不思議はないだろ』


任海堂という女神ですら把握できていないイレギュラーに今この世界は侵されている。

彼らは何者なのか、何が目的なのか、真相を知る者はいない。


ナシトゲの言葉に納得したのかそれとも議論をしても無駄と判断したのか、セイジンはそれ以降何も言わなかった。


セイジンにも分からないことがあるのかとナシトゲは不思議に思っていた矢先、それらは不意に現れた。


「おい!半裸の男が寝そべってるぜ!!」


「ほんとだ!村の人間じゃねえぞこいつ!」


「怪しいな!怪しすぎる!」


変声期も迎えていない、年端もゆかない子供たちの声が口々に聞こえたかと思うと、ナシトゲの背中に鈍痛が走る。

どうやら蹴られたらしい。


「ちょっ!えぇ!?なんでぇ!?」


ナシトゲは咄嗟に頭を両手で防御しつつその場にうずくまる。

大した威力はないが、何人いるか分からない子供達は怪しいぞ怪しいぞと繰り返しながら、丸まって亀のようになっているナシトゲの背に攻撃を加え続けた。


「おいっ!何をしてるんだ!」


遠くの方から、男の怒声が轟く。

その声を聞くや否や子供達は「やべっ!逃げろ!」とナシトゲへの攻撃をやめ散り散りに逃げていった。


「た、助かった…」


ナシトゲは声がした方に顔を上げる。

そこには絵本で見た浦島太郎のような格好の青年が立っていた。見えている肌は全て日焼けで浅黒く、後ろで一つに束ねられた黒い髪は肩にかかっている。


彼は持っていた釣具を傍に置くと、ナシトゲに駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


まだ顔にあどけなさが残るものの、先ほどの子供らとは違い低い声、それに細身ながらも腕にはしっかりと筋肉がついている。

年齢は16、7歳ぐらいだろう。


「助かりました。なぜか急に攻撃されて」


「アイツらは村の悪童どもです。この前も浜辺に打ち上がった亀を虐めていたことを注意したところなのですが…」


「本当に浦島太郎じゃないか…」


「うらしま?なんですそれは。それに…あなたは村の人間ではなさそうですがどうしてここに?」


青年はナシトゲの格好をジロジロ見ながら怪しむように言った。


「あ、いやこっちの話です。俺はナシトゲ。気付いたらこの砂浜にいて」


口に出してから判断を誤ったとナシトゲは後悔した。

半裸の男が気付いたら砂浜に寝そべっているなんてことはまずない。

これでは更に不信感を抱かせてしまうだろう。


ところが青年はナシトゲの手を両手で握り込む。


「そんな…記憶が!?それは本当に大変でしたね。僕はタイ、ここプクプク村で漁師をしています」


「え?いや、ちがっ…」


予想外の反応にナシトゲは怯んだ。

タイと名乗る青年に全く悪意や疑念などはなく、どうやら本心からナシトゲのことを心配しているようだ。


「ナシトゲさん、とにかく僕の家に来てください。ここに寝そべっているままだと、幾ら夏とはいえ風邪をひいてしまいます。さぁ!」


ナシトゲは差し出されたタイの手を取る。

力強く引っ張られたせいで、起き上がった後にまた倒れかけたが、ナシトゲはなんとか踏ん張った。


そして、タイに案内されるがままナシトゲはプクプク村に向かうのであった。

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