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第一章〜エピローグ〜

あの事件から1週間が経った。


ドリームシティでは未曾有の脅威を防いだということで、いまだにお祭りムードである。

街には出店が並び、生き残った冒険者たちは街の英雄として住民たちから多大なる尊敬を受けている。


しかし一方で、命を落とした冒険者たちも少なくない。

冒険者ギルドでは連日ギルド職員たちが遺族たちの対応をしているらしい。

この傷が癒えるにはまだ当分かかりそうだ。


ナシトゲはあけぼの亭の2階で、何をするわけでもなく小窓から外を覗いている。

眼下に見える子供たちのはしゃぎ様は、彼を一層憂鬱にした。


『なぁセイジン』


『なんでしょうか』


『今カトレア何してるんだっけ』


『彼女は現在冒険者としての活動に従事しています』


『呪いは?』


『ノコミサの死により、呪いは解けています』


後味が悪い結末だったが、ノコミサは仲間であるはずのローロロに刺殺された。

ノコミサの遺体はギルドが調査し、間違いなくダガーナイフで刺された傷が致命傷だったらしい(ちなみにナシトゲが殴打したことにより、顎の骨が折れていたそうだが)。


何故ローロロはあのような行動をとったのか。

パラティマはローロロについて「あのまま続けていれば確実に俺は殺されていた。ちっ、まさか息一つ乱さずに負けるなんてな」と悔しがりながら、その目の奥に炎を宿しながら語っていた。

彼もまた冒険者なのである。


『カトレアは復調。ドリームシティの危機も救った。なのに…なのになんで俺は元の世界に戻れてないんだ!!』


ナシトゲはこの問いをこれまでセイジンに幾度となくぶつけてきた。

そしてセイジンは決まってこの話題になるとダンマリを決め込む。

このお決まりのパターンにナシトゲは深いため息を吐いた。


今の生活に不満があるわけではない。

街では英雄ともてはやされ、あけぼの亭でアケボノやマリサに食事を出してもらいながら、時たまにギルドの依頼を受けたりと気は紛れていた。


だが、ナシトゲには現実世界で成し遂げなければいけないことがあるし、離れて暮らす両親や、先日産まれた甥っ子にも会いたい。

大抵の異世界転生漫画の主人公たちがあまりにもすんなりと受け入れる異世界への永住を同じようにすんなり受け入れられるほどナシトゲは大人ではなかった。


このままこの世界に取り残されたら現実世界ではどうなるのか。

自分という存在は無かったことになるのか。それとも死んだことになるのか。

考えれば考えるほどに言いようのないぐちゃぐちゃの感情に押しつぶされそうだった。


「あのバカ女神…どうするつもりなんだ」


「誰がバカ女神よ!!」


振り返るとそこには2週間近く前に見たままの、身なりに分不相応な荘厳な羽を携えたメィリオが頬を膨らませてナシトゲを睨んでいた。


セイジンと同じ声だが、彼女の声にはAIにはない抑揚がある。

ナシトゲはあまりの衝撃に言葉を失ったままメィリオを凝視した。


「あら、どうしたの?まさかこのメィリオ様の美貌に言葉を失っちゃった!?」


「なぁにほったらかしにしてんねんボケェ!!」


「いったぁぁーーい!!」


ナシトゲのチョップがメィリオの脳天に炸裂した。

頭を摩りながらしゃがみ込むメィリオにナシトゲは文字に起こすことを憚られるような言葉を浴びせかける。

関西人特有のマシンガンの様な言葉数は、女神でさえもたじろがせた。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!なんで怒ってんのよ!」


「アホか!世界救ったのになんで1週間もほったらかしにされなあかんねん!はよこいや!」


「私にだって色々あるのよ!ははーん?あんたそんなだから結婚できないんでしょ」


「ぐっ…!!いやそれとこれとは関係あらへんやろ!」


怒りのおさまらないナシトゲを見てメィリオはやれやれと首を振る。


「まぁいいわ。確かにあんたの言うとおり今回の転移はカトレアを救ってくれたことでクリアよ。なので今からあんたを現実世界に戻すわ」


「え?まじ?いつ?」


「だから今!まぁ初めてにしてはよくやったわよ。色々イレギュラーもあったみたいだけどね。女神の加護も渡しておいてよかった。死なれたらいくらあんたでも寝覚め悪いから。じゃ、転移始めるわよ」


そう言うとメィリオは一度眼を閉じ、再び開けるとあのモードに入った。

彼女の身体が白く神々しく光を放つ。


「え、ちょっと待って、この世界の人たちに挨拶とかする暇ないの!?」


「女神メィリオの名において、彼の者を元いた世界へ移します。今回の転移、大義でした」


「いやだからちょっ!!」


先程までナシトゲがいた窓際には誰もいない。

そこに、カトレアが階段を駆け上ってきた。


「ねぇ、ナシトゲ。今度のクエスト…ってあれ??」


カトレアは辺りを見回すが、やはりナシトゲの姿はない。

どこほっつき歩いてるのよ、と彼女は一言呟き一階へと降りてゆく。


その後ドリームシティでナシトゲの姿を見た者はいない。

少しの間捜索されたが、事情を知るパラティマ達によって捜索は打ち切られた。

彼は何者だったのか。本当に英雄ファラオの再臨だったのか。

そんなことを口々に噂しながら、ドリームシティでは今日もまた人々が夢を追いかけるのであった。



第一章 不憫のカトレア 完










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