表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/13

第6話「王子様の勘違いと、氷姫の沈黙」

王子様とヒロイン――

誰もが憧れるような絵面ですが、そのヒロインが“距離感ゼロの天然お花畑”だった場合、話は大きく変わってきます。


今宵の学園は、そんな乙女ゲームのような構図を、本気で誤解し始めた王子様の思考と、冷徹公爵令嬢の沈黙でお送りします。


それでは、甘さゼロの“恋愛勘違い劇場”、第6話をどうぞ。

学園祭の余韻が冷めやらぬ月曜の朝――。

王立アルセリオ学園では、ある一人の青年が静かに考え込んでいた。


彼の名は、セドリック=アルフォンス=リオネス。

この国の第一王子にして、生徒会長、そして学園内人気ナンバーワンの正統派王子様である。


そんな完璧な彼が、祭の後からずっと悩んでいること――


「……まさか、ルミエール嬢が、私に……?」


先日の学園祭、“恋する喫茶フィオナ♡”で、彼はほんの軽い挨拶のつもりで「お似合いですね」と声をかけた。


フィオナは瞳を輝かせて、 「きゃ~♡ 王子様って、やっぱりそういう運命なんですねっ♡」 と返してきた。


……その時の笑顔が、妙に眩しくて忘れられない。


「いや……待て。これはきっと、そういう演出だったのだ……」


「いいえ、殿下。あれは本気でしたよ」


「やめろ、クロード」


呆れ顔で背後から現れたのは、側近にして冷静な助言役、クロード=ヴァン=カリスタ。


「殿下は勘違いされる側ではなく、“勘違いさせられてる側”です。よくあるテンプレというやつです」


「……テンプレとは、何だ?」


「異世界転生者の持ち込み概念です。最近は文化干渉の影響で、この学園でも流行しているようです」


「異世界……? まさか、ルミエール嬢は……?」


「その可能性は“高確率”と目されています。なんせ、昼休みに空へ向かって“マジカルパワー充填完了!”と叫んでいたそうなので」


「……すごいな。何がとは言わんが」



---


その昼休み。

当の本人はというと――


「リュシー、あのねっ、今日もセドリック殿下に会ったの!」


「……でしょうね。あちらが避けようとしているにも関わらず、全力で突撃していましたから」


「ふふっ、やっぱり恋の導きって、止められないのよね~♡」


「その導き、妄想と図々しさでできていると思います」


「でもね、リュシー? たとえ私が王子様と結ばれても、リュシーとの親友契約は永遠不滅だよ!」


「まず“親友契約”など結んだ覚えはありませんし、そもそもあなたは何を目指しているのですか」


「世界平和と、恋愛成就!」


「それ、だいたいの乙女ゲームの最終目標ですね……」



---


その日の放課後。


生徒会室で、セドリックはもう一度考えていた。


(ルミエール嬢……あの人は、何を考えているのだろう)


普通の女子生徒であれば、自分と接するときはどこか緊張するものだ。


だがフィオナは、むしろ距離を詰めてくる側だった。

しかもまったく悪気がなく、むしろ善意とときめきに満ちている。


(まさか、本当に……?)


「リュシエンヌ嬢。少し、話ができるだろうか」


そこに現れたのは、氷の公爵令嬢――リュシエンヌ・フォン・アルセリオ。


「殿下。何か問題でも?」


「ルミエール嬢についてだ。あの子は……私に、恋をしているのだろうか?」


リュシエンヌは、しばし無言。


そして、紅茶を一口飲み干したあと、ゆっくりと口を開いた。


「――恋、ですか」


「うむ」


「……フィオナの中での恋の定義は、相手が笑ってくれたかどうかで決まるもののようです」


「……え?」


「つまり、殿下が微笑んだだけで、彼女にとっては“運命の証明”なのです」


「そんな馬鹿な……」


「ええ、わたくしもそう思います。毎日思っています」


沈黙が流れる。

セドリックは頬を押さえ、軽く目を伏せて呟いた。


「……ルミエール嬢。あの子は、恐ろしい子だな」


「殿下、そのセリフ、今朝も教師が言っていました。流行っているのですか?」


「いや、つい……言いたくなるのだ」



---


その日の夜。


「リュシー、今日ね、セドリック様が私の目を見て話してくれたの!」


「それは“お願いだから早くどいてくれ”という目でした」


「でも目が合ったのは事実っ♡ やっぱり運命なのよねぇ~♡」


「あなた、明日には婚約の噂を広めかねないわね……」


「じゃあ、婚約者ごっこしちゃおっか♡」


「……やめなさい。本当に怒りますよ」



今回もご覧いただきありがとうございました。


とうとう王太子殿下まで、フィオナの“天然無自覚乙女パワー”に巻き込まれてしまいました。

当のフィオナはまったく気づかず、相変わらずの恋愛モード全開。

そしてリュシエンヌは、またしても“火消し役”として疲弊していく日々を送っています。


しかし、フィオナが他人に“ときめき”を向けるたび、わずかに変化し始めるリュシエンヌの心。

その静かな揺らぎこそが、今後の鍵となるかもしれません。


次回は、氷のような彼女に、小さな“嫉妬”が芽生える瞬間――

どうぞ、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ