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第3話「氷姫の沈黙、学園の誤解を招く」

距離感ゼロのお花畑ヒロイン・フィオナと、完璧超然な氷の公爵令嬢・リュシエンヌ。


そんな正反対の二人が日常を共にすれば、当然、周囲が勝手に“勘違い”し始めます。


本人たちは至って普通――にしているつもりですが、

「沈黙」は時に、何より雄弁。


本日は、学園内に流れる“妙な噂”と、それに巻き込まれる二人の静かな戦い(?)をどうぞ。

「……最近、思わぬ風評が流れているようですね」


昼下がりの中庭、日陰の石造ベンチに座るリュシエンヌは、紅茶を一口含みながら淡く言った。


「えっ、なになに?また恋の話!?」


フィオナ=ルミエールはというと、隣の芝生に寝転びながら、風に舞う花びらを両手で追いかけていた。春の妖精かと思えば、単なる話題逸れの天才である。


「私とあなたが、“そういう関係”なのではないかと噂されているそうです」


「そういう……?」


「貴族的な表現で言えば、“特別親しい友情以上の情”を通わせているのでは、という意味でしょうか」


「……あっ!」


ぱあっと目を輝かせるフィオナ。


「ようやく気付いた!? わたしたちって、運命の絆で結ばれてるのよ! もはや魂のレベルで繋がってるっていうか!」


「……本当に、口を閉じていていただきたい」


リュシエンヌは、こめかみに指を添えながらため息をついた。

なぜ自分がこのような人物に懐かれているのか、毎日数秒は考えているが答えは出ていない。


「で、で? 誰がそんな噂してるの? まさかセドリック様とか?」


「王太子殿下は関係ありません。噂の出所は、どうやら“観察同好会”と称する謎の集団のようです」


「そんな会あったの!? 何それ楽しそう! わたしも入っていいかな!?」


「……フィオナ。あれは“観察される側”が入るものではなく、“観察する側”の趣味で成り立っているものです。つまり、あなたは既に“観察対象”なのです」


「えっ、まさか……リュシーと私の“濃厚な学園生活”が、記録されてる……?」


「やめなさい。言葉の選び方に問題があるといつも言っているでしょう」



---


その頃、観察同好会の活動室では。


「……というわけで、あの二人は絶対“そう”に違いない!」


「冷酷無比の氷姫が、唯一心を許す存在……そこに萌えない者などいるかっ!!」


「ツンとデレが並列で歩いてるとか、奇跡か」


彼らは何かと勘違いしていたが、熱意は本物だった。



---


午後の講義中。

リュシエンヌが提出した答案があまりに完璧で、講師の言葉が詰まる。


「え、ええと……模範解答を遥かに超えた“答えの構築”が……これは……」


「必要でしたか? 時間が余ったので書き加えただけです」


「いえ、もう、あの……すごいですね」


そんな中。


「さすがリュシー! 頭脳まで完璧! ちょっと怖いくらいっ!」


講義中にひそひそ声で話しかけてくるフィオナの“距離感ゼロ”行動に、後列からまたもざわめきが。


「ほら見ろ、あれは絶対にただの友情じゃない……」 「フィオナ嬢って、まさか氷姫を落とした!?」 「恐ろしい子……!」



---


放課後。噂に不穏な尾ひれが付き始めていることを知った数少ない友人でもあるシャーロット=ラミュールが、リュシエンヌに言った。


「……言いにくいのだけれど、リュシエンヌ様。少し彼女との距離を置くこともご検討なさっては?」


「無理です。放っておけば道端で花に話しかけて通報されかねません」


「……想像できるあたりが、もう色々終わっているわね」



---


夜、リュシエンヌの私室。


「リュシー、明日も一緒にお弁当食べよっ!」


「……ええ。あなたが他の生徒に迷惑をかけるよりは、私が見ていた方が安全でしょうから」


「うふふ、ありがと♡ ほんと、リュシーって優しいんだから~!」


「……優しくなどありません」


どれだけ否定しても、なぜか伝わらない。

だけど――それでも、いつもそばにいるこの存在に、どこか少しだけ……心が緩む自分がいるのも、また事実だった。


今回もご覧いただきありがとうございました。


フィオナの全力天然ぶりと、リュシエンヌの絶妙に否定しきれない態度が相まって、まさかの「百合説」が学園内に流れるとは……本人たちが一番困惑しているかもしれません。


それにしても、噂というものは、なぜ一度広まると、勝手に脚色されていくのでしょうね。


次回は、そんなフィオナがまたも“婚約者持ち”の男性に天然接近。

そしてリュシエンヌの冷気が、再び学園を凍らせる――かもしれません。


どうぞ、次回もお付き合いくださいませ。

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