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第2話「ヒロイン、恋の始まりを勘違いする」

完璧すぎる公爵令嬢と、恋に夢見るお花畑ヒロイン。

今日も、王立学園は“天然トラブルメーカー”の登校により、朝から騒がしい空気に包まれております。


恋の始まりはすべて「勘違い」から――。

……いえ、彼女の場合、それはもはや“仕様”のようです。


波風立てたくないリュシエンヌと、運命の出会いを量産するフィオナ。

恋と騒動が交差する第2話をどうぞご覧ください。

「リュシー、聞いて! 今日ね、運命の出会いをしたの!」


登校早々、抱きつく勢いで机に身を乗り出してきたのは、もちろんフィオナ=ルミエール。

その“ピンクの暴走列車”に、教室の空気は一瞬でざわついた。


「そう、今朝の廊下でぶつかったの! わたし、転びそうになってね? そしたら彼が支えてくれて――!」


「……フィオナ。それは、隅で掲示板の張り替え作業をしていた補佐の生徒を、あなたが一方的に押し倒しただけです。しかも相手、腕に包帯していましたけれど」


「え、でもでも! ほら、彼、赤面してたし……目、逸らしてたし……あれは恋の予感ってやつじゃないの?」


リュシエンヌは静かに目を閉じ、深く長い溜め息をついた。


「フィオナ。あの表情は羞恥ではなく、恐怖です。あなたの勢いと髪色がトラウマ級だった可能性が高いですね」


「ふふん、リュシーってば相変わらず厳しいな~! でもその冷たさが好き!」


「感情的な同意を求めないでいただけるかしら。あと、机の上で頬杖をつくのはやめなさい。見苦しい」


教室の他の生徒たちは、もはやこのやり取りに慣れつつあった。

しかし今日は、一人の男子生徒が思わぬ一石を投じた。


「ルミエール嬢。今朝はお怪我ありませんでしたか?」


声の主は、ヴィンセント=クロード。男爵家の次男で、成績優秀・温和な性格の“好青年”。

ただし、運が非常に悪いという致命的な属性を持つ。


「ヴィンセント様……!」


フィオナの目が、きらめいた。まるで新しいヒロイン展開の幕開けでもあるかのように。


「あの時、さりげなく“お気をつけて”って言ってくださったの、わたし、ちゃんと聞こえてました!」


「い、いえ、それは誰にでも言うもので……」


「でも、それって“特別”って意味ですよね? 目が、優しかった……気がしたんです!」


「気のせいです!」


横から即座にツッコミを入れたのは、当然リュシエンヌ。


「リュシー、また邪魔しようとしてるでしょ? これはね、ヒロインの宿命なのよ。出会い→接触→優しさ→恋、っていう黄金ルート!」


「それ、どこかの乙女ゲームか恋愛指南書の受け売りでしょう」


「違うの! 私の心が、そう言ってるの!」


「……さようで」


呆れと諦めの間に漂う、わずかな“情”。それが見える者はほぼいない。

だが、フィオナだけはそれを無意識に察知していた。


「でもね、リュシーが一番なのは変わらないよ? 何があっても親友第一主義だから!」


「そんな宣言は不要です。むしろ迷惑です」


「えへへ、でも今日も一緒にお昼、いい?」


「……仕方ないわね。あなたが他の誰かに迷惑をかけるくらいなら、私の視界内にいた方がマシというだけです」


「やった〜っ、今日もリュシーの隣、ゲット〜♡」


その後――。


フィオナが「ヴィンセント様の瞳は空のよう」と詩を詠み出し、ヴィンセントが苦笑いと青ざめを同時に繰り出し、リュシエンヌは静かに紅茶を淹れていた。


こうして今日もまた、

氷の公爵令嬢とお花畑ヒロインの、騒がしくもどこか平和な一日が過ぎていくのであった。


今回もご覧いただきありがとうございました。


「出会い→接触→優しさ→恋!」という黄金ルート(※フィオナ基準)により、また一人、誤解に巻き込まれる犠牲者が生まれてしまいました……。


フィオナの突拍子もない妄想に、冷徹かつ淡々とツッコむリュシエンヌの構図は、これからも続きます。

……いや、続いてしまうのです。本人たちが止まる気配を見せませんので。


次回も、氷の公爵令嬢とお花畑ヒロインの温度差をお楽しみいただければ幸いです。

それでは、また第3話でお会いしましょう。

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