後日談 第3話「花嫁ヒロイン、隣国に咲く」
結婚後、隣国の侯爵家に嫁いだフィオナ。
そこでも彼女は変わらず、お花畑で、朗らかで、恋愛体質で……そして何よりも、愛されていた。
王国を離れても、彼女の毎日は“ときめき”と“笑顔”で満ちている。
今回はそんなフィオナの結婚後の生活と、彼女らしさ溢れる愛すべき日常をお届けします。
リュシエンヌの結婚から数か月――
季節は秋を迎え、王国の南にある穏やかな隣国《レノーア侯国》では、紅葉の風が街を包んでいた。
その中心部にある、美しい湖畔の館。
そこが、フィオナ=ルミエール=ルシフェ侯爵夫人の新しい住まいだった。
「ご主人さま、朝ですーっ!」
「フィオナ……私は侯爵ですが、朝から“ご主人さま”呼びはやめてくれぬか……」
寝室の扉を乱暴に開け、眩しい笑顔でカーテンを引くのは、やっぱり彼女だった。
夫は20代後半、真面目で文武に秀でた侯爵家の当主・レイモンド=ルシフェ。
フィオナとは対照的に落ち着いた物腰の彼は、毎朝彼女に振り回されている。
「だってぇ~、こっちの方が愛があるって感じしない?」
「それは“ペットに懐かれた主”のような印象だ……」
「それって、最高じゃないっ♡」
今日も、侯爵家の一日はフィオナの“恋愛脳”と“天然癒やし爆弾”によって、予定より15分早く始まるのだった。
朝食後、邸宅の書斎。
「ねえレイさん、私、今日ちょっと広場まで行ってくるね!」
「また占い師のところか? 最近やけに通っているようだが」
「違うの! 今日は、町の人に恋のアドバイスをする日なの! “フィオナの恋愛相談室 in 市場広場”!」
「勝手に看板まで作ったのか……?」
「もちろん♡ “恋に迷ったら、ピンクの看板を目指して!”って書いてあるよ!」
「まるで詐欺師の誘導文句だな……」
「えへへ、私、ちゃんと妻もしてるもんっ! お弁当も用意したし!」
「……弁当はありがたい。だが、なぜハート型の米に、ピンク色の卵焼きなのだ……?」
「“愛を伝えるにはかたちから”って、リュシーが言ってた気がするの!」
「……言ってないだろう、それは」
町では、フィオナはすっかり有名人になっていた。
「また旦那様と喧嘩してしまって……」「プロポーズの仕方が分からない……」
そんな相談に、フィオナは例によって「恋はね、ときめいたらGO! でも礼儀も大事っ♡」などと全力でアドバイスしていた。
「……ああいう“光の騎士団”みたいな娘さん、うちの国にひとりは必要ね」
「いや、あれ“爆弾処理班”だろ……」
住民の評価はまちまちだが、誰もが彼女に“元気”をもらっていた。
夜、館の庭。
「今日も楽しかった~。あのね、リュシーから手紙が届いてたよ。旦那様と山荘に行ったんだって! “落ち着いた場所で紅茶を淹れる時間は、心の整理に良い”って、やっぱりリュシーは名言メーカーだよねぇ」
「ふふ……君がそうしてリュシエンヌ嬢のことを話す顔を見ると、私も安心する」
「うん。リュシーは、私の“親友枠”永久指定席だから♡」
「では私は、どの席にいるのだ?」
「もちろん、“旦那様枠”でしょ?」
「枠じゃなくて、もっと普通の言い方をしてほしいのだが……」
「じゃあ、“私の人生の運命ルートその2”ってことで!」
「……ルート制なんだな、我々は」
ふたりは笑い、手を重ねる。
華やかで、少し騒がしくて、でも確かに幸せな日常。
フィオナは今日も、誰よりもまっすぐに人を愛し、支えられ、そして笑っていた。
たぶん、どれだけ年月が経っても。
彼女の“ヒロイン力”は、家庭の中でも、町でも、そしてリュシエンヌの隣でも――変わらない。
その夜の手紙の最後に、フィオナはこう書き添えた。
> 「ねえ、リュシー。
あなたも、私も、それぞれ違う道を歩いて、
ちゃんと“誰かの隣”にいるのに――
やっぱり、親友って不思議だよね。
隣にいなくても、ちゃんと隣にいる気がするんだもん。
次は、あなたの方に遊びに行くね!
紅茶は、いつものブレンドでよろしく♡」
こうして、ふたりの“変わらない友情”は、人生を重ねてもなお、微笑みとともに続いていく。
今回もお読みいただきありがとうございました。
お花畑ヒロインとして学園中を騒がせていたフィオナも、今では一国の侯爵夫人。
けれど、誰よりも真っ直ぐに人を愛し、信じ、笑うその性格は、今も変わることなく彼女の周りを明るく照らしています。
そして――彼女の人生において、変わらないものがもうひとつ。
それは、“リュシエンヌという親友”の存在でした。
たとえ離れていても、手紙ひとつで心が通い合い、昔と変わらぬ笑顔を交わせるふたり。
この後日談3部作は、そんなふたりの“変わらぬ絆”を描く静かな締めくくりとなりました。
今後も、ふたりの未来が温かく穏やかでありますように。




