後日談 第1話「親友という名の絆は、変わらずに」
学園での日々が過ぎ去り、それぞれの人生を歩みはじめたふたり。
けれど、距離や立場が変わっても、“親友”という絆だけは、あの頃のまま。
政務に携わる公爵家の次女リュシエンヌと、隣国の侯爵夫人となったフィオナ。
後日談の始まりは、再会と紅茶の香りが交差する、懐かしくも温かなひとときから――。
あれから数年――
かつて王立アルセリオ学園で名(迷?)コンビと称されたふたりの少女は、それぞれに立派な淑女となり、それぞれの道を歩み始めていた。
リュシエンヌ=フォン=アルセリオは、名門アルセリオ公爵家の次女として、政務や外交の補佐役を担いながら、知性と美貌を兼ね備えた“社交界の氷華”として注目を集めていた。
一方で、フィオナ=ルミエールは、隣国の若き侯爵と電撃的(本人曰く「運命的♡」)な婚約を経て、結婚し華やかな貴族社交界を騒がせていた。
けれど――
「リュシー! 会いたかったぁ~っ♡」
「また突然来るの、やめなさい。何の予告もなく……しかも昼休みに合わせて来るとは、相変わらず計算高いわね」
「えへへ、だって、リュシーのお昼は絶対に美味しいって昔から決まってるもん!」
訪れたのはアルセリオ家の政庁執務棟の庭園。
今や一国の外交官としての顔も持つリュシエンヌの元に、何の前触れもなく“お花畑令嬢”が姿を現したのだ。
「で、今日はどういう理由で夫を置き去りにしてここまで?」
「ん~? だって最近、お手紙だけだったからさ。たまには“肌で友情を感じたい”って思って!」
「そんなもの、文通で十分でしょうに……」
呆れながらも、リュシエンヌは庭園のテーブルに紅茶を二つ置いた。
そして当然のように、フィオナの好みをちゃんと覚えているあたり、彼女の“変わらなさ”が滲んでいた。
「ふふっ……やっぱり落ち着く~。なんかね、結婚しても、お屋敷でちゃんと過ごしてても……こうしてると、学園の頃を思い出しちゃう」
「あなたは当時から落ち着きがなかったけれど」
「それを見守ってくれてたリュシーがいてくれたから、いまの私があるんだよ?」
「……お世辞にしては、随分と感情がこもっているわね」
「本気だもんっ!」
そう言って微笑むフィオナに、リュシエンヌはそっと目を伏せてから、静かに答えた。
「わたしも……時々、あなたの“面倒くささ”が恋しくなるのよ」
「……えっ、ええっ!? 今の、今の録音したいっ!」
「そういうところが、相変わらず面倒なのよ」
ふたりの関係は、変わっていなかった。
それぞれの家庭を持ち、それぞれの責任を担っても――
この“親友”という名の距離感だけは、あの頃のまま、心地よく保たれている。
「……あっ、そうだ! 次回のお茶会、うちのお屋敷でどう? 旦那様、今月も長期出張だし、泊まり込みで友情合宿っ♡」
「……はあ。では、着替えを持って行くとしましょう」
「やったあっ!!」
咲き乱れる初夏のバラに囲まれながら、
ふたりの笑い声が、昔と同じように風に揺れた。
今回もお読みいただきありがとうございました。
結婚という人生の転機を迎えながらも、リュシエンヌとフィオナの関係は、変わることなく穏やかで、少しだけ騒がしくて。
お互いが“自分のままでいられる相手”として、あの日の学園の風景が、今も心に息づいています。




