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第1話「氷の公爵令嬢、学園に立つ」

ようこそ、異世界の学園へ。


本作は、感情を表に出さぬ完璧すぎる公爵令嬢と、転生者でありながらどこまでも前向きなお花畑思考のヒロインが織りなす、ちょっとズレた学園の日常譚です。


恋愛?バトル?ざまぁ?

――いえ、その前にツッコミをください。


氷のような公爵令嬢が、ただ一人「対処不能」と認めた少女との物語が、ここから始まります。

春の陽がやわらかく石畳に降り注ぎ、新設された王立アルセリオ学園の門前には、すでに多くの貴族子弟たちが列をなしていた。


その中でひと際目を引く姿があった。


銀糸のような髪が風に舞い、淡く透き通る氷の瞳がまっすぐに門を見つめる。完璧な立ち姿に一分の隙もない。彼女の名は――


リュシエンヌ=フォン=アルセリオ。


由緒正しき公爵家の令嬢にして、幼くして魔導学・政務・礼儀作法すべてにおいて頂点に立つ、「氷の公爵令嬢」と呼ばれる少女である。


彼女が一歩足を踏み入れた瞬間、周囲の空気が一瞬にして凍りついたようだった。


「お、おい、あれが……アルセリオ家のリュシエンヌ様だぞ」 「目を合わせただけで、心が凍りそうだった……」


ざわめく生徒たちをよそに、リュシエンヌは一切の感情を表に出すことなく、淡々と学園内へと歩みを進めた。


入学式の席でも彼女の美貌と威厳は際立ち、誰もが気圧されて近寄ろうとしなかった。教職員すらも、その眼差しを真正面から受け止めきれず、言葉に詰まる場面すらあった。


だが、彼女は慣れていた。


誰かと深く交わることはない。期待もされ、恐れられ、そして孤独であることが彼女の“常”だった。


ところが、その静寂を打ち砕く存在が――


「リュシーっ!!」


突如、校門前を駆けてきた少女の声が、春の空気を破る。


ピンクブロンドの髪が陽光を跳ね返し、瞳はまるで熟れた桃のように甘く輝いている。目立ちすぎる髪色に、薔薇のようなフリルの制服、そして何よりその全身から滲み出る「ヒロイン力」。


フィオナ=ルミエール。

本日付で編入してきた男爵令嬢であり、リュシエンヌの“幼なじみ”――そして、前世からの知り合いだと主張する、超お花畑少女である。


「会いたかったよリュシー! 今日からまた一緒だね! 学園生活、夢がいっぱいって感じ!」


「……その腕を離して頂けるかしら、フィオナ」


冷ややかに告げるリュシエンヌ。が、しかし。


「ふふ、照れてるんだよね~! リュシーって昔から素直じゃないんだからぁ!」


「そうではなく、不快であると申し上げているのだけれど」


「えへへ、懐かしいなぁ、その言い方! 私、全然気にしないから!」


――通じない。


目に涙を浮かべながら喜ぶフィオナに、周囲の生徒たちがあんぐりと口を開けた。


「え、えぇ!?」 「あの氷姫にあんな距離感で!?」 「腕組んでる! 馴れ馴れしい! でも公爵令嬢、まんざらでもなさそうに……いや、まさかね?」


教師陣も混乱していた。


「リュシエンヌ様、その方は……ご友人、でしょうか?」


「……親友だと、本人は申しております。私としては、放っておくと事故を起こすので監視しているだけです」


「りゅうちー! 照れちゃってぇ〜、可愛い!」


「勝手に名前をつけて呼ばぬように。あと、語尾が緩すぎる」


こうして、王立アルセリオ学園に新たな騒動の種が蒔かれた。


一方は冷徹無慈悲、完璧超然たる公爵令嬢。

一方は天然お花畑、恋愛脳爆発系ヒロイン。


だが、本人たちは至って自然体。

この**対照的すぎるふたりの友情(?)**が、これから幾度となく学園を揺るがしていくのだった――。


ご覧いただきありがとうございました。


第1話では、氷のように完璧な公爵令嬢リュシエンヌと、テンプレ全開のお花畑ヒロイン・フィオナの出会い(再会?)を描きました。


距離感ゼロのフィオナと、それを冷たくあしらいつつ実は受け入れてしまっているリュシエンヌ。

この絶妙な温度差とギャップを、今後も笑いと皮肉を交えながらお届けできればと思います。


次回もどうぞ、よろしくお願いいたします。

――さて、ヒロインの恋愛妄想が、早速暴走を始めるようです。

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