9話 ポーションの力
「遥斗くん、そのポーションを持って前に来てください」
アルフレッド先生の声に、遥斗はドキリとした。
(え? 僕が?)
緊張しながら、遥斗は生成したばかりの小さな青い瓶を手に教壇へと向かった。
クラスメイトたちの視線が背中に突き刺さる。
「はい、そこに立っていてください」
アルフレッドは業務的に言うと、突然ベルトのホルダーからナイフを取り出した。
「ひっ!」思わず声が出る。
教室に小さな笑い声が広がる。
「大丈夫です。怖がることはありません。左手を前に出してください」とアルフレッドは言った。
遥斗は恐る恐る左手を差し出した。
「そうです、そのまま」
アルフレッドはナイフを遥斗の腕に近づけた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」遥斗は思わず目を閉じる。
「遥斗くん」アルフレッドの声に、遥斗はおそるおそる目を開けた。
「ポーションの効果を実演するだけです。少し痛みますが、すぐに治りますから」
クラスメイトたちは、まるで日常の光景を見ているかのように平然としていた。
「は、はい...」
遥斗が覚悟を決めたように頷くと、アルフレッドは素早い動きでナイフを動かした。
「あっ」
かすかな痛みと共に、遥斗の腕に小さな傷がついた。赤い血が少しにじみ出る。
「さて、ポーションを傷口にかけてみてください」
アルフレッドの指示に従い、遥斗は恐る恐るポーションを傷口にかけた。
するとー
「わっ!」
傷が見る見るうちに塞がっていく。数秒後には、傷があった場所が分からないほどきれいに治っていた。
「す、すごい...」遥斗は自分の腕を信じられない様子で見つめた。
「はい、これがポーションの効果です」先生は淡々と説明する。
「初歩的な回復効果ですね」
クラスのみんなは、当たり前のことを聞かされているかのように軽くうなずいている。
「遥斗くん、もう1本ポーションを作ってみてください」
「は、はい!」
遥斗は、さっきの感覚を思い出しながら集中する。
「ポップ!」
また小さな青い瓶が現れた。
「よくできました。では、さらにもう1本お願いします」
(もう1本? でも、さっきと同じようにすればいいんだよね)
遥斗は再び集中する。しかしー
「あれ?」
何も起こらない。
「おかしいな...」
遥斗は首をかしげた。先ほどまで簡単にできたはずなのに、今は全く反応がない。
「どうしましたか?」先生が尋ねる。
「すみません...なぜか生成できません」
遥斗は困惑した表情で先生を見上げた。
「これがMPが足りなくなった状態での生成です」
「MP...?」遥斗は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
アルフレッド先生は黒板に向かい、簡単な図を描き始めた。
「MPとは、魔力ポイントのことです。魔法やアイテム生成には、このMPが必要になります」
教室の生徒たちは退屈そうに聞いているが、遥斗は真剣な表情で先生の説明に聞き入っていた。
「ポーションの生成には4MPが必要です。遥斗くんの現在の最大MPは10。さっき2回生成したので、残りは2MPしかありません」
遥斗は自分の中にあるという「MP」を意識しようとしたが、よく分からなかった。
「注意事項として、アイテム生成には失敗の可能性もあることも忘れてはなりません。MPが足りていても、確率で失敗することがあります。その時もMPは消費されてしまいます」
クラスの生徒たちからため息が漏れる。彼らにとっては当たり前の知識らしい。
「さらに」アルフレッドは続けた。
「難度の高いアイテムになるほど、消費MPが増えていきます。だから、錬成士や錬金術師は戦闘職ではありませんが、レベルを上げないと高度なアイテムは生成できないのです」
遥斗は驚いて聞いていた。
「そのため」アルフレッドの声が厳しくなる。
「魔道具科にも戦闘実技の授業があります」
その言葉に、遥斗は思わず体が強張った。
(戦闘...? 僕が?)
クラスメイトたちの間でざわめきが起こる。
「みなさん、大丈夫ですよ」アルフレッドは優しく言った。
「基礎から教えますから」
しかし、遥斗の不安は募るばかりだった。
(僕、戦うなんて...無理だよ)
アルフレッドは黒板に戻り、さらに説明を続けた。
「MPは時間とともに自然回復します。また、MPを回復するアイテムもあります。遥斗くんも、これから色々なアイテムを学んでいくことになりますよ」
遥斗は必死に頷いた。