7話 魔道具科
朝日が窓から差し込み、遥斗の目を覚ました。
(ここは...そうか、異世界だ)
現実感のない思いで身を起こす。ベッドの脇に置かれた新しい服に目が留まった。
「これ、着ればいいのかな...」
戸惑いながらも、遥斗は支給された服に袖を通す。鏡に映る自分の姿に少し驚く。
(まるで、ファンタジー小説の主人公みたい)
身支度を整えた遥斗は、おそるおそる部屋を出た。
「おはよう、遥斗くん」
廊下で美咲と鉢合わせた。
「お、おはよう、美咲さん」
「一緒に食堂に行きましょう」
美咲の優しい笑顔に、遥斗は少し緊張が解けるのを感じた。
食堂に入ると、昨日とは違う朝食メニューが並んでいた。
「わあ、これ、パンみたいだけど、紫色...」美咲が不思議そうに見つめる。
「うん、でも、いい匂いがする」遥斗も興味津々だ。
二人は席に着き、おそるおそる紫色のパンを口に運んだ。
「おいしい!」二人の声が重なる。
「ねえ、遥斗くん」美咲が真剣な表情で言う。
「これからどんな訓練があるんだろう。少し不安...」
遥斗は自分の不安を押し殺しながら答えた。
「大丈夫だよ。みんなで頑張れば...」
その時、にぎやかな声が聞こえてきた。
「二人とも朝が早いな」
涼介がさわやかな声で近づいてきた。その後ろには千夏の姿も。
「おはよう、みんな」千夏が眠そうに言う。
「千夏、まだ寝ぼけてるの?」美咲が心配そうに聞く。
「うん、ちょっと...」
「おはよう」さくらもやってきた。
「あら、この紫のパン、見た目は怪しいけど香りはいいわね」
最後に大輔が現れた。
「よし、みんな揃ったな。しっかり食べて、今日に備えよう」
6人が食事を楽しんでいると、一人の兵士が近づいてきた。
「おはようございます。そろそろ出発の時間です。学舎まで案内しますので、準備ができたらお声かけください」
みんなは顔を見合わせた。
「じゃあ、行くか」大輔が立ち上がる。
兵士に導かれて外に出ると、朝もやの中に大きな建物群が見えてきた。
「あれが学舎です。皆さんはそれぞれ異なる科に配属されています」兵士が説明する。
「え? 別々なの?」千夏が不安そうに聞く。
「はい、それぞれの適性に合わせた教育を行うためです」
学舎に到着すると、兵士は一人ずつ異なる建物へと案内していく。
「じゃあ、がんばろうな」涼介が笑顔で言う。
「うん、また後で」美咲も微笑む。
次々と仲間たちが別れていき、最後に残ったのは遥斗だった。
「佐倉遥斗さん、あなたは魔道具科です。こちらへどうぞ」
遥斗は緊張しながら、兵士の後について歩き出した。
「魔道具科...」遥斗は小さく呟いた。
大きな扉を開けると、そこには既に多くの生徒たちが集まっていた。40人ほどだろうか。
(すごい...みんな服装がバラバラだ)
庶民らしき簡素な服装の生徒もいれば、きらびやかな服を着た貴族の子弟らしき生徒もいる。その中で、遥斗の着ている騎士用の学生服が妙に目立っているように感じた。
(僕だけ浮いてない?)
不安な気持ちで教室を見回していると、前方で先生らしき人物が咳払いをした。
「はい、皆さん。静かに」
ざわついていた教室が一気に静まり返る。
「魔道具科へようこそ。私はこのクラスの担任、アルフレッド・ワイズマンだ」
アルフレッド先生は、温厚そうな中年の男性だった。しかし、その目には何か複雑な感情が垣間見える。
「これからみなさんと学んでいきますが、まず知っておいてほしいことがあります。魔道具科の修業期間は一定ではありません。各自の能力に応じて、早期卒業も、また長期の在籍も可能です」
教室内でざわめきが起こる。
(能力次第...か)遥斗は少し不安になった。
アルフレッド先生は続けた。「この科では、魔道具やアイテムの生産、開発、そして運用について学びます。戦闘職とは異なり、直接戦場に出ることは稀です。しかし」
先生は一呼吸置いて、強調するように言った。
「武器の開発や製造も担当する、非常に重要な職務です。国の防衛に欠かせない存在なのです」
しかし、その言葉とは裏腹に、生徒たちの反応は今ひとつだった。遥斗は周りの様子を窺いながら、この職業があまり人気がないことを感じ取った。
(でも、僕には向いているかもしれない...)
「さて、今日は自己紹介から始めましょう。名前と、魔道具科を選んだ理由を...」
アルフレッド先生の言葉が続く中、遥斗は先生の表情をよく観察していた。どこか疲れたような、少し投げやりな雰囲気が感じられる。
(先生、本当は大変そうだな...)
そして、ふと気づいた。先生の視線が、遥斗つまり異世界からの転移者に向けられるたびに、わずかに眉間にしわが寄る。
(もしかして、僕のことを...面倒に思ってる?)
遥斗は、自分たちが特別な存在であることを改めて実感した。それは期待されているという意味でもあり、同時に多くの労力を要するということでもあるのだろう。
「では、前列から順番に...」
遥斗は自分の番を待ちながら、これから始まる魔道具科での学びに、期待と不安が入り混じる複雑な思いを抱いていた。