66話 アイテムの返却と証明書
夕暮れ時、「黄金の鷲魔宝具店」の奥部屋。アリアと遥斗が、店主エルトロスと向かい合っていた。
遥斗が、おずおずとテーブルの上に三つの小瓶を並べる。
「最大MP増加ポーション」「最上級HP回復ポーション」「加速のポーション」。
それぞれが美しく輝き、その存在感は部屋の空気さえ変えているようだった。
「こ、これは...まさか本当に返してもらえるとは...」
エルトロスの目が、まるで子供がおもちゃを見つけたかのように輝いた。
遥斗は少し戸惑いながらも、丁寧に説明を始めた。
「はい、約束通り返却させていただきます。お借りしたアイテムとアリアさんたちのおかげで、みんな無事に生き延びることが出来ました」
アリアは腕を組み、少し誇らしげに言った。
「ああ、『奈落の破壊者』は確かに手強かったな。遥斗の力を借りて何とか倒すことができたが」
エルトロスは両手を広げ、感激の声を上げた。
「素晴らしい!さすがはシルバーファングの団長!アリアさん、あなたの活躍は王国の誇りです!」
彼は熱心にアリアの功績を褒め称え始めた。その様子を見て、アリアは少し照れくさそうに首を掻いた。
「んんっ、まあな。それより、エステリアが無事で良かったな」
エルトロスの表情が和らぎ、安堵の色を浮かべた。
「本当に心配したんですよ。アリアさん、遥斗くん、お二人には感謝してもしきれません」
「エステリアさんが無事で本当に良かったです」
遥斗は微笑みながら言った。
エルトロスはゆっくりと立ち上がり、慎重に三つのポーションを手に取った。
「では、一応全てのアイテムを鑑定させていただきますね」
彼は細心の注意を払って、一つ一つのポーションを詳しく調べ始めた。その手つきは、まるで宝石を扱うかのように繊細だった。
しばらくして、エルトロスは満足げに頷いた。
「驚きました。全て完璧です。まるで新品同様...いや、それ以上かもしれません」
遥斗は少し申し訳なさそうに言った。
「あの...『中級MP回復ポーション』は大量に生成することができません。その代わりに...」
彼は「加速のポーション」をさらに2つ、テーブルの上に置いた。
自分の速度を素材にして1つは生成し、残りはエレナとトムに協力してもらって生成していた。
3人ともしばらくは速度が落ち不便していたが、それはまた別のお話...
エルトロスの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
「『加速のポーション』を2つ!?これは...これは制作難度、有用性から考えて、1つ金貨50枚はする代物ですよ!」
遥斗は少し困惑しながらも、真剣な表情で言った。
「これで『中級MP回復ポーション』の代わりになりませんか?」
エルトロスの目が、まるで漫画のように金貨の形になった。しかし、すぐに我に返り、真剣な表情で尋ねた。
「証明書はありますか?」
「なんの証明書ですか?」
遥斗は首を傾げた。
エルトロスは深刻な表情で説明を始めた。
「このレベルのアイテムは、戦争時に戦局を左右しかねない代物です。どの国も厳重に管理しているんですよ。アイテムには『製造した人』『製造した場所』『製造日』『製造材料仕入先』など、細かく書かれた証明書を付けなければなりません。それがないアイテムは闇取引扱いで、厳しい罰則があるんです」
「そんな...」
遥斗の表情が曇った。
エルトロスは申し訳なさそうに「加速のポーション」2つを遥斗に返した。
「残念ながら...」
遥斗は深く考え込んだ後、エルトロスに言った。
「中級MP回復ポーションはしばらく待ってください。必ず用意します」
「いや、エステリアが無事だったお礼だよ。気にしなくていい」
「でも...」
その時、アリアが間に入った。
「遥斗、もういいんじゃないか?エルトロスの好意だ」
エルトロスは真剣な顔つきの戻り、口をはさんだアリアに言った。
「そうそう、アリアさんが壊した魔道具は弁償してもらうので」
アリアは不満そうに顔をしかめた。
「おい、あれは緊急事態だったんだぞ!」
「緊急事態だろうが何だろうが、壊れたものは、ね?」
エルトロスは軽く肩をすくめた。
「わかった、わかった。弁償してやる。ガルスがな!」
「いや、ガルスさんじゃ話にならないでしょう!」
遥斗は二人のやり取りを見て、なんだか可笑しくなってしまった。
エルトロスが口を開こうとした瞬間、部屋のドアが勢いよく開き、エステリアが息を切らせて飛び込んできた。
「大変よ!」エステリアの声は切迫していた。
「遥斗くんに城から呼び出しがあったの!至急登城するようにとのことよ!」
その言葉に、部屋にいた全員が驚きの表情を浮かべた。
アリアは即座に立ち上がり、鋭い眼差しでエルトロスを見つめた。
「エルトロス、遥斗のことは?」
アリアの声は低く、緊張感に満ちていた。
エルトロスは真剣な面持ちで答えた。
「誰にも話していません。約束は守っています」
「そうか」アリアは少し安堵の表情を見せた。
「他言無用で頼む」
「もちろんです」エルトロスは固く頷いた。
しかし、アリアの表情はすぐに曇った。彼女の頭の中では、様々な可能性が駆け巡っていた。
(情報が漏れたのか?それとも別の理由があるのか...)
遥斗は困惑した様子で周りを見回し、おずおずと尋ねた。
「僕は...どうすればいいんでしょうか?」
エステリアが慌てて答える。
「もう表に迎えの馬車が来ているわ。急がなきゃ」
「なっ...!」
アリア、エルトロス、遥斗の3人は驚きの声を上げた。事態の急展開に、誰もが戸惑いを隠せない。
「私もついていくぞ」
アリアは凛とした声で宣言した。
「勝手にそんなことして大丈夫なの?アリアさん」
エステリアは心配そうな表情を浮かる。
「なぁに、嫌なら力づくでやめさせればいいんじゃないか?」
アリアは意味ありげな笑みを浮かべ、腰に下げた剣に手をやった。