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64話 帰還

挿絵(By みてみん)

 夕暮れ時、小さな町フロンティの門をくぐる5人の姿があった。

 涼介、美咲、大輔、千夏、さくらの5人は、疲れた表情を浮かべながらも、達成感に満ちた笑顔を見せていた。


「やっと着いたな」涼介が深いため息をつく。

「新緑の試練洞窟」を踏破し、この町まで戻ってくるのは、疲れ果てた美咲たちにとって容易でなかった。


 フロンティは、ダンジョンに挑む冒険者のための町だ。

 宿屋と酒場が一体となった「冒険者の憩い」、様々な道具を扱う「トリック商会」、武器屋「黒鉄の意志」、そして食料品店「大地の恵み」など、必要最小限の店舗と娯楽施設しかない小さな町だった。


 5人は「冒険者の憩い」に向かい、テーブル席に座った。

 マスターのゴードンが、にやりと笑いながら近づいてきた。


「おお、遅かったな、やっと帰ってきたか。無事で何よりだ!」

「ゴードンさん、久しぶり。いつもの特製シチューを5人分頼むよ」

 大輔が笑顔で答える。


 食事が運ばれてくる間、5人はダンジョン攻略の苦労話に花を咲かせていた。


「あのキラーマンティスには本当に危なかったな。あいつの鎌状の腕、すごい鋭さだった」

 涼介が思い出し笑いをする。

 大輔が頷きながら答える。

「ああ、俺の盾もあのヤロウの前ではあんま効果なかった。美咲の魔法がなかったら、今頃俺カマキリの餌になってたかも」


 美咲は照れくさそうに微笑んだ。

「私だって必死だったもの。でも、ファイアブリッドが効いてくれて良かった」

「そうそう!」

 千夏が身を乗り出して言う。

「私なんかサクッといかれたからね、サクッと。回復魔法がなかったらマジやばかったわー」


 さくらは珍しく柔らかな表情を浮かべる。

「るなが頑張ってくれたおかげ。でも、みんなで力を合わせたから...」

 さくらの膝の上のルナフォックスも,、嬉しそうにしっぽを振っている。


「それに何と言っても」涼介が真剣な表情で言う。

「最後のグランド・ベヒモスには参ったな。あんな巨大な敵、初めて見たよ」

「ああ、俺なんか吹き飛ばされて、壁に叩きつけられたんだぜ。千夏の回復魔法がなかったら、そこで終わってたかもな」

 大輔が笑う。


「私の魔法も全然効かなくて...でも、涼介くんのサンダーブレードが決まった時は本当に感動したわ」

 美咲が嬉しそうに涼介を見つめる。


「やっぱ涼介だよね!勇者なだけあるよ!うん!」

 千夏も嬉しそうに頬を染める。


「ところで」さくらが千夏の言葉を遮る。

「このダンジョン攻略でレベルが一気に上がった。私は80」


 涼介が頷く。

「ああ、俺は81まで上がった。みんなはどうだ?」


「私は75」美咲が答える。

「77だよ!」千夏が嬉しそうに言う。

「俺も75だ」大輔が胸を張る。


「みんなよく頑張ったよ」涼介が満足げに言う。

「正直、あのダンジョンから全員無事に帰ってこれたのは奇跡だ」

「そうね。何度も諦めそうになったけど、みんながいたから...」

 美咲が静かに頷く。


「ああ、俺たち、本当に良いチームだと思うぜ」

 大輔が大きく頷く。


 5人は互いを見つめ、心からの笑顔を交わした。その瞬間、彼らの絆がより一層深まったのを感じていた。



 彼らが談笑している間、カウンター席に座っていた客とマスターの会話が耳に入ってきた。

「...スタンピードが起きて、王都に被害が出たらしいぜ」


 その言葉に、5人は一瞬で表情を凍らせた。

「スタンピード...?」千夏が小さな声で呟いた。

 涼介が眉をひそめる。

「まさか...俺たちがダンジョンにいる間に...」

「詳しく聞きたいわね」

 さくらが冷静に言った。


 美咲が不安そうに周りを見回す。

「大変な事が起こったのに、みんな普通よね?王都は大丈夫なのかな...遥斗くんたちは...」

「俺が聞いてくる」大輔が立ち上がり、マスターの元へ向かった。


 5人の間に重苦しい沈黙が流れる。ついさっきまでの喜びに満ちた雰囲気は一変し、緊張感が漂っていた。

 彼らの心の中には、王都や遥斗たちへの心配が渦巻いていた。


 残りの4人は、スタンピードについての情報交換を始めた。

「スタンピードって、闇から魔物が溢れ出す現象よね」

 美咲が静かに言う。


 さくらが頷く。

「そう。数十年に1度起こるらしい。最後のスタンピードは20年前、『銀月の谷』ってところでだったと思う」

「へえ、詳しいね」涼介が感心したように言う。


 さくらは記憶を辿りながら、学園で集めた情報を語る。

「その時、王国軍は多くの死者を出しながらも勝利を収めたのらしいの。その立役者が...」

「ルシウス・フォン・アストラル」美咲が小さな声で続けた。


「ルシウス?」千夏が首を傾げる。

「魔法の天才と呼ばれ、魔道具の開発にも多大な貢献をした人物。将来を嘱望されていたのに、突如として表舞台から姿を消した」

「そんな人、城にはいなかったよな?」

 涼介が初めて召喚された日の事を思い出しながら言った。


 その時、大輔が戻ってきた。彼の表情は複雑だった。

「どうやら、スタンピードが起きて、各都市から援軍を出して決戦を行ったらしい、やっぱり俺たちがダンジョン攻略をしている間のことだ」


「それで?」涼介が焦りを隠せない様子で尋ねる。

「一部の魔物が王都に侵入したが、冒険者たちが撃退したらしい。軍の方も魔物の軍勢を撤退に追い込んだとのことだ」


 全員が安堵の表情を浮かべる。


「王様は?」千夏が心配そうに聞く。

「無事だ。健在が確認されているそうだ」


 5人は胸をなでおろした。しかし、その安堵も束の間のことだった。


「ご歓談中失礼します。勇者様ご一行でございますね?」

 突然、低い声が背後から聞こえてきた。


 振り返ると、そこには黒いローブを身にまとった怪しげな男が立っていた。

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