6話 異世界の味
「こちらが皆さんの宿舎になります」
兵士の案内で6人は大きな建物の前に立っていた。
「男性寮と女性寮に分かれていますが、共用ホールと食堂は一緒です」兵士は淡々と説明を続ける。「食事は無料で、共用スペースでは必要なものが支給されます」
「へぇ、結構しっかりしてるんだな」涼介が感心したように言う。
「ま、これくらい当然よね」さくらは少し退屈そうに答える。
兵士は各自を個室に案内した。
「わぁ、思ったより広い」千夏が嬉しそうに部屋を見回す。
「快適そう」美咲も満足げだ。
大輔は真剣な表情で部屋を確認している。「ここが当面の拠点になるんだな...」
一方、遥斗の部屋...。
(こ、これが僕の部屋...)
他の部屋と比べて明らかに狭く、家具も質素だ。
失望感に包まれながら、遥斗はベッドに横たわった。
(この世界のこと、もっと知りたいな...)
そんなことを考えているうちに、疲れからか、遥斗は眠りに落ちた。
...
「うぅ...」
目を覚ました遥斗は、お腹が空いていることに気がついた。
(そういえば、まだ何も食べてないや...)
時計を見ると、かなりの時間が経っていた。
(食堂に行ってみよう)
遥斗が食堂に着くと、そこにはすでに他のメンバーがいた。
「あ、遥斗!」美咲が手を振る。
「やっと起きたの?」
「う、うん...」遥斗は少し照れながら答える。
「おい、早く食べようぜ。バイキング形式だぞ」涼介が声をかける。
遥斗はカウンターに並ぶ料理を見て、目を丸くした。
(これ、全部見たことない...)
色とりどりの野菜、見たこともない形の肉、奇妙な形をした果物...。
「わ、分からないものばかりだね...」千夏が少し戸惑っている。
「食べられるのかな...」大輔も慎重な様子だ。
しかし、遥斗の目は輝いていた。
(すごい! これ全部異世界の料理なんだ!)
遥斗は興味津々で、あれこれと皿に盛っていく。
「お、おい、遥斗。本当に全部食べるのか?」涼介が心配そうに言う。
「うん、せっかくだから」遥斗は笑顔で答える。
他のメンバーは不安そうに見守る中、遥斗は一口目を...。
「お、おいしい!」
遥斗の声に、みんなは驚いた顔をする。
「本当?」美咲が興味深そうに聞く。
「うん! これ、トマトに似てるけど、少し甘くて...」
遥斗は熱心に説明を始めた。
「この紫色の野菜、最初は苦いんだけど、噛んでいるうちに辛くなるんだ。それに、この肉...」
遥斗の様子を見て、他のメンバーも少しずつ食べ始めた。
「へぇ、確かに美味しいじゃん」涼介が言う。
「この肉、柔らかくておいしいわ」さくらも珍しく満足げだ。
「ねえ、この青い果物、なんだか不思議な味がするよ」千夏が目を輝かせる。
「本当だね。甘さの中に、ほんのり塩味がするみたい」美咲が同意する。
大輔は慎重に一つ一つの料理を試している。
「うん、どれも悪くない。でも、味付けは全体的に控えめだな」
遥斗は嬉しそうに頷く。
「うん、シンプルな味付けだけど、素材の味がよく分かるよ」
食事が進むにつれ、会話も弾んでいく。
「ねえ、みんなは自分の部屋どう?」千夏が聞く。
「まあまあかな。ベッドは意外と寝心地良かったぞ」涼介が答える。
「私の部屋、窓から庭が見えて素敵よ」美咲が嬉しそうに言う。
さくらはため息をつく。
「私のは壁の色が気に入らないわ。でも、まあ我慢できる程度ね」
「俺のは...」大輔が言いかけて、遥斗の方をちらりと見た。「まあ、十分だな」
遥斗は黙って聞いていた。自分の部屋のことを言うのが少し恥ずかしかった。
「遥斗は?」美咲が優しく聞く。
「え? あ、うん...大丈夫だよ」遥斗は曖昧に答えた。
涼介が遥斗の表情を見て、何か感じ取ったようだ。
「そうか。まあ、部屋なんて寝るだけだしな」
遥斗は涼介に感謝の眼差しを向けた。
話題は明日からの訓練に移る。
「どんな訓練があるんだろう...」千夏が不安そうに言う。
「体力トレーニングは確実にあるだろうな。それに、この世界の知識も学ばないといけないだろう」大輔が言う。
「魔法の練習とかあるのかな?」美咲が期待を込めて聞く。
「ああ、きっとあるさ。俺たちの能力を鍛えるのが目的なんだろうしな」涼介が答える。
さくらは冷静に言う。「私たちの職業に合わせた個別指導もありそうね」
「そうだな..どんな訓練があるか分からないが、みんな頑張ろう。俺たちは一つのチームなんだ.」大輔が真剣な表情で答える。
「うん!」全員が同意する。
遥斗は黙って聞いていたが、心の中では...。
(僕も、みんなの役に立ちたいな...でも、僕にできることはあるのかな)
「ねえ、遥斗。心配しなくても大丈夫だよ。頑張ろうね」美咲が優しく声をかける。
遥斗は少し驚いて顔を上げた。美咲は優しく微笑んでいる。
「う、うん...ありがとう」
「遥斗」涼介も声をかける。
「お前の観察力は誰にも負けないと思う。それを活かせばいいんだ」
「そうだね、遥斗くんの細かい気づきにはいつも感心するわ」千夏も励ます。
さくらはクールに言う。「まあ、あなたなりの役割はあるんじゃない?」
大輔が全員を見渡して言う。「そうだ。俺たちは一人一人が違う能力を持っている。それぞれの長所を活かして、お互いをサポートしていこう」
遥斗は、みんなの言葉に胸が熱くなるのを感じた。
(みんな...ありがとう)
食事を終え、6人は共用ホールに移動した。そこには暖炉があり、柔らかな光が部屋を照らしている。
「ねえ、みんなで少し話そうよ。これからの生活に必要なものとか相談したいし」千夏が提案する。
全員が同意し、暖炉の周りに集まった。
大輔が言う。「まずは着替えが必要だろう。この服のままじゃまずいし」
美咲が頷く。「そうね。それに洗面用具も必要よ」
「タオルも欲しいな」涼介が付け加える。
さくらは冷静に言う。「筆記用具も必要でしょう。これから勉強することも多そうだし」
「あ、そうだ」遥斗が突然声を上げる。「この世界の地図とか、基本的な情報が書かれた本があると助かるかも」
みんなが驚いて遥斗を見る。
「お、いいこと言うじゃないか、遥斗」涼介が感心したように言う。
大輔が頷く。「確かに。この世界のことを知るのは重要だ」
「他に何か思いつくものある?」千夏が聞く。
「寝間着は?」美咲が提案する。「快適に眠れないと、明日からの訓練に影響しそう」
みんなが同意する中、施設の管理者が近づいてきた。
「何かお困りですか?」管理者が優しく尋ねる。
大輔が代表して話す。「はい、これからの生活に必要なものについて相談していたんです」
管理者は微笑んで答えた。「ああ、そうですね。基本的な生活用品は全て用意してあります。各自の部屋に行けば、衣服や洗面用具、筆記具なども置いてありますよ」
6人は安堵の表情を浮かべる。
「それと」管理者が続ける。「共用の図書室があります。そこには王国の歴史や地理、基本的な魔法理論の本なども置いてありますので、ご自由に利用してください」
「ありがとうございます!」美咲が嬉しそうに言う。
遥斗の目が輝いた。「図書室...」
管理者は笑顔で言った。「では、お休みなさい。明日は早いですからね」
6人は感謝の言葉を述べ、各自の部屋へと向かった。
部屋に戻った遥斗は、ベッドの横に置かれた荷物を見つけた。中には新しい服や洗面用具、そして文房具までが入っている。
(すごい...こんなに用意してくれてたんだ)
遥斗は感謝の気持ちを胸に、新しい寝間着に着替えた。ベッドに横たわりながら、彼は今日一日のことを思い返す。
(異世界に来て、不思議な食事をして...)
そして、明日からの訓練のことを考えると、少し不安になる。
(僕は何ができるんだろう...)
しかし、さっきのみんなの言葉を思い出す。
(そうだ、僕にも役割があるはず。頑張ろう)
遥斗は目を閉じた。明日への期待と不安が入り混じる中、彼はゆっくりと眠りについた。