表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
最終章 そして、

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

588/588

最終話 いつか、また会おう

 三人が驚愕の声を上げた。


「ユーディ!?」

「ユーディ様がなんでこんなところに!?」

「式はどうしたっす!?」


 エーデルガッシュは涼しい顔だった。

 だがその横に立つブリードは、盛大にしかめっ面をしている。


「陛下、護衛もなしにこのような場所に来られるのは——それにまだ披露宴の途中ですぞ。帝国の権威を他国に示さねば……」


「うるさいぞブリード!余はエレナに用があるのだ!」


 ブリードがしかめっ面のまま口を閉じた。

 彼の心配も分かる。

 いまや、彼女は最重要人物の一人。

 この世界の未来を担っているのだから。


 だが——エーデルガッシュを害せる者が何人いるだろうか。

 オーバーロードの力は失ったが、クロスフォード流剣術の達人で、聖剣サンクチュアリは今だ健在。

 最早お供のブリードよりも強い。


「エレナ……冒険者になるのだな」

 エーデルガッシュが、エレナの装備を見て言った。

 その声には——僅か、ほんの僅かだが、寂しさが滲んでいた。


「ふふっ、そうね」

 エレナは微笑みで返した。


「そなたであれば、王国の貴族として厚遇されたであろうに」


 確かにそうだ。

 爵位を受ける話。有力貴族からの縁談。王政の顧問への就任。


 常人であれば垂涎の申し出が、次から次へと舞い込んでいた。


 しかし、エレナは全て断った。


 父であるレオナルド・ファーンウッド公爵は頭を抱えていたが、白虎を有するエレナに強く意見できるはずもなく。

 結局——娘の意志を尊重した。

 せざるを得なかった。


「どうだ、お主ら……帝国に来る気はないか?」

 エーデルガッシュが、真剣な目で言った。

「余の元で働いてはくれぬか?待遇は保証しよう」



 ヴァルハラ帝国皇帝直々の本気の勧誘だった。


 それでも、エレナは笑っていた。


「気が向いたら寄るね」


 エーデルガッシュの眉がぴくりと動いた。

 断られた。

 最初から分かってはいたが、それでも残念でならなかった。


「でも——ユーディが私たちの助けを必要とするなら……冒険者ギルドに依頼を出して。何を置いてでも、すぐに駆けつけるから!」


 エレナは、エーデルガッシュの目を真っ直ぐに見た。


 エーデルガッシュは——しばらく黙って、それから小さく笑った。


「ふっ……そうか。ならそうさせてもらおう」


 本当に残念なのは、エレナと一緒に行けないこと。

 本音を言えば——本当は、冒険者として旅をしたかった。

 自由に。気ままに。仲間と。


 だが——エーデルガッシュは臣民を選んだ。

 帝国を背負い、民を守る道を。

 それがエーデルガッシュの道。

 遥斗に恥じない生き方。


「達者でな」


「ユーディも。帝国のこと、頑張って」


 エーデルガッシュは背を向け、ブリードと共に去っていった。

 小さな背中が、人混みに消えていく。


 エレナはその背中を見送り——前を向いた。


「それじゃ、出発しましょうか!」


 シエルとグランディスに声をかけ、足を踏み出そうとした、その時。


「——おかしいぞ?なぜお前が号令を下す?」


 高らかな声が、背後から響いた。


「それが出来るのは!マテリアルシーカーのリーダーである俺様だけだ!」


 全員が振り返った。


 銅像の影から、一人の男が姿を現した。


 銀色のガントレット。

 腰に佩いたロングソード。

 自信に満ちた笑み。


「このマーガス・ダスクブリッジ——いや」

 男は胸を張った。

「このマーガスを差し置いて勝手に動くとはいい度胸だな!エレナ!」


 一瞬の沈黙。


 そして——三人が同時に叫んだ。


「マーガス!?」

「マーガスだっち!?」

「え、嘘っす!?」


 驚愕には理由があった。

 マーガスはアストラリア王国辺境伯を継いで、貴族になったはずだ。

 ダスクブリッジ家の当主として、領地を治める立場に。


「ダスクブリッジ家は抜けてきた!がはははは!」


 マーガスは豪快に。


「俺様に貴族は小さすぎる!狭すぎる!窮屈すぎる!」


 天を仰いで笑う。


「俺は師匠の跡を継いでS級冒険者になる!マテリアルシーカーのリーダーとして、世界中を駆け回るのだ!」


 師匠——アリアのことだ。

 マーガスにとってアリアは、師であると同時に、超えるべき目標もあった。


「ちょっとマーガス!抜けて来たって、ダスクブリッジ家はどうするの!?」

「父に任せた!父の方が政治は得意だ!」

「それでいいっすか!?」

「いいに決まってるだろう!俺様は英雄にならねばならない!遥斗を導いた友として!」


 シエルが呆れ、グランディスが腹を抱えて笑い、るなが驚いてエレナの足元に隠れた。


 エレナは——溜息をついた。


 賑やかな旅になりそうだ。


 だが——その溜息の中には、温かいものが混じっていた。



 この世界は——大きくは変わっていない。


 相変わらずモンスターはいる。

 素材はドロップする。

 職業、スキル、魔法といった概念も健在。


 冒険者ギルドは今日も依頼を受け付け、鍛冶屋は武器を打ち、商人は物資を運んでいる。

 人々は変わらず、この世界で生きている。


 だが——変わったことも、ある。


 モンスターが弱くなった。

 かつてはA級冒険者でなければ太刀打ちできなかった種が、C級パーティーでも対処できるようになっている。

 魔法やスキルの威力も、全体的に下がった。

 大規模な破壊魔法は、以前ほどの破壊力を持たない。


 おそらく、世界に負担をかけないように遥斗が調整しているのだろう。


 イドの中から、この世界を見守っている。


 みなが生活するには困らない程度。

 不便もある。不幸もある。

 人が生きている以上、苦しみは消えない。


 だがそれは——世界のバランスを崩すほどではない。


 遥斗が、そうしてくれている。


 この世界を——旅しよう。


 遥斗が再生してくれた世界を。

 遥斗が守ってくれている世界を。

 隅々まで、この目で見て回ろう。


 新しく生まれた大地を踏みしめ、蘇った海を眺め、晴れた空の下を歩こう。

 花が咲く野原を駆け抜け、雪が積もる山を登り、星が降る夜を仲間と過ごそう。



「エレナ姫ー遅いっっち!何してるっち!」


 グランディスの声が、前方から飛んでくる。


「置いてくっすよ!」


 シエルが手を振っている。


「リーダーの俺様を待たせるとは何事だ!いや、しかし、見守るのもリーダーの器か……うむ、許す!」


 マーガスは仁王立ちしている。


「勝手にリーダー面すんなっす!」


 バチン。


 エレナは——笑った。


 心の底から。


 賑やかで。

 騒がしくて。

 ちょっと面倒くさくて。


 遥斗もきっと、こういう景色を見たかったのだろう。

 こういう声を、聞きたかったのだろう。


 エレナは駆け出した。


 仲間たちの元へ。

 新しい世界の、最初の一歩へ。


「ごめんごめん!お待たせ!」


 風が吹いた。


 温かく、穏やかで、どこか懐かしい風。


 この空の向こうに——遥斗がいる。


 見えないけれど。

 聞こえないけれど。

 触れられないけれど。


 ——確かに、そこにいる。


 この世界そのものとして。


 エレナの胸に、遥斗の言葉が蘇った。


『いつか君の命が尽きたら——また、会おう』


『その時には——君が見た世界のことを、教えて?』


 うん。約束だよ。


 たくさん、たくさん教えてあげる。

 この世界がどんなに美しいか。

 この世界がどんなに温かいか。


 だから——待っていてね、遥斗くん。


 道の先に、光が溢れていた。


 世界は今日も輝いていた。



 Fin.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最終話まで更新ありがとうございます。 450話ぐらいの段階でこちらの作品を見つけて拝読し始めて、500話からは毎日こちらの更新を楽しみにしておりました。 これからはまたイチから読み直したいと思います…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ