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57話 スタンピード(13)

挿絵(By みてみん)

 遥斗の猛攻は、まるで止まることを知らない嵐のようだった。彼の動きは精密な機械のように正確で、その眼差しは氷のように冷たく、ヴォイドイーターを捉えていた。

 魔力銃から放たれる弾丸の一つ一つが、まるで運命の糸を断ち切るかのように、ヴォイドイーターの巨体を削っていく。


 バン!


 最初の銃声が夜空に響き渡る。弾丸はヴォイドイーターの左肩に命中し、そこから光の粒子が剥がれ落ちる。


 バン!


 二発目の弾丸が、ヴォイドイーターの胸にめり込む。


 バン!


 三発目は、ヴォイドイーターの右腕に命中。巨大な腕の一部が、まるでガラスが砕けるように光の破片となって散っていく。


 銃声が戦場に響き渡るたびに、ヴォイドイーターの姿が少しずつではあるが変化していく。その巨体から剥がれ落ちる光の粒子は、夜空を彩る無数の星屑のようだった。

 彼の漆黒の瞳には、感情の欠片も宿っていない。ただ、計算され尽くした効率的な破壊の意志だけが、そこには存在していたのだ。


 アリアは、その光景を目を信じられない様子で見つめていた。

「...あれほどの強敵が、こんなにも...」


 ガルスは口を開けたまま、言葉を失っていた。

「お、俺の目がおかしくなっていなければ...あいつ、一度も同じ場所を撃っていないぞ?」


 マルガが冷静に分析する。

「そうじゃ。あの少年は、ヴォイドイーターの全身の弱点を正確に把握し、最も効率的な攻撃を行っておるんじゃ」


 リリーは、その光景に恐怖すら感じていた。

「でも...それって、人間に出来ることなんです?」


 レインは無言のまま、遥斗の動きを追っていた。


 しかし、戦いは思わぬ展開を迎える。突如として、魔力銃から弾丸が発射されなくなったのだ。

 遥斗のマジックバックの弾丸が尽きてしまっていた。


 まるでその瞬間を待っていたかのように、ヴォイドイーターの攻撃が激しさを増す。巨大な腕が、遥斗めがけて振り下ろされる。


 シュバッ!

 遥斗は、風のように軽々とその攻撃を躱す。しかし、ヴォイドイーターの攻撃は止まらない。次々と繰り出される拳と、虚無の吐息。それらは雨のように遥斗に降り注ぐ。

 その全てを避けながら、感情もなく無言で魔力銃をヴォイドイーターに向ける。


「ポップ」


 その瞬間、魔力銃の弾倉に弾丸が「生成」された。

「まさか...弾丸を生成したのか?」

 アリアが息を呑む。


 遥斗の声が、冷たく響く。

「弾が無いなら作ればいい。素材は君の体の中にいくらでもあるから」


 その言葉に、シルバーファングのメンバーたちは言葉を失う。

 遥斗の集中力は、極限まで研ぎ澄まされていた。生成する場所まで完全にコントロールし、生成と同時にリロードを完成させていたのだ。


 バン!バン!バン!バン!


 弾丸がヴォイドイーターの体に打ち込まれる。


「ポップ」


 再び「生成」リロード。そしてまた撃ち込む。もはや、それは無限の連射と言っても過言ではなかった。


 感情の無いはずのヴォイドイーターが怒りに震えているようだった。その口から、再び虚無の吐息が放たれる。

 遥斗は、重力を無視するかのように空中に飛び上がり、その攻撃を軽々と避ける。しかし——


「なっ...!」

 アリアが信じられないものを見た。

 なんとヴォイドイーターの肩が裂け、口のようなものが出現し、そこからも虚無の吐息が放たれたのだ。


 遥斗は身をひるがえすが、空中では思うように動けない。虚無の吐息が、彼の左足を掠める。

 僅かに触れただけで遥斗の膝から下が消滅した。


「遥斗ーーー!」アリアの悲鳴が響く。


 遥斗の体が、もんどりうって地面に落ちる。ヴォイドイーターは勝利を確信したかのようにゆっくりと口を開き、地面に伏す遥斗に再び虚無の吐息を放つ。


 その攻撃が遥斗に直撃した。

 あの怪我では避けられるはずもない。

 シルバーファングのメンバーたちが、思わず目を背ける。

「遥斗...くん...」リリーの声が震える。


 しかし、次の瞬間——


「ポップ」


 ヴォイドイーターの背後から、遥斗の「最上級HP回復ポーション」生成攻撃を受け、ヴォイドイーターの体の一部が光となって消える。


 信じられないかのように、ヴォイドイーターが振り返り正体を確認する。

 そこには、五体満足の遥斗が立っていた。


「即死じゃなければ、いくらでも回復できるよ」

 遥斗は、軽い笑みを浮かべながら、手に持った最上級ポーションを見せる。

 左足が消滅した瞬間、落下中に最上級ポーションで回復していたのだ。


 突如としてヴォイドイーターは、巨大な咆哮を上げる。その轟音に、王都全体が震えるかのようだった。


 シルバーファングのメンバーたちの表情が一斉に変化した。彼らの鋭敏な感覚が遠くから感じる何かを捉えたのだ。


 マルガが最初に反応した。彼の老練な魔術師としての直感が、異様な魔力を感じ取った。

「この魔力の波動は...」彼の眉間に深いしわが刻まれる。


 レインが素早く弓を構え、周囲を警戒しながら言った。

「ああ、俺も感じる。この空気...大量の魔物が移動しているな」


 ガルスは地面に手をつき、その振動を感じ取ろうとしていた。

「くそっ、とんでもなく数が多いぞ...」


 リリーは両手を胸の前で組み、祈るような仕草をしながら呟いた。

「神よ...私たちをお守りください」


 アリアは目を閉じ、集中して周囲の気配を探る。その表情が徐々に険しくなっていく。彼女の鍛え抜かれた剣士としての勘が、迫り来る気配を察知していた。

「みんな...数は大幅に減っているが、恐らく王都中に散らばった魔物だろう。全てここを目指している」

 彼女は一瞬言葉を切り、深く息を吐く。


「シャドウタロンが2体...そして、100近い魔物だ」


 その言葉に、場の空気が一気に緊張感に満ちた。

「100か...」ガルスが呟く。

「普段なら何とかなるかもしれんが、あの化け物と一緒となるとな...」


「そして、シャドウタロン2体か。厄介だな」

 レインが弓の弦を強く引く。

 マルガは杖を強く握りしめながら言った。

「これは...最終局面じゃな」


 アリアは静かに頷き、剣を構え直す。

「ああ...ここで、ここで全てが決まる。総力戦だ」


 その言葉と共に、王都の運命を賭けた最後の戦いの幕が上がろうとしていた。

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