544話 想いを継いで
遥斗の全身から溢れ出るオーラは、涼介のそれを凌駕していた。
だが、その輝きは決して威圧的ではない。
どこまでも温かく、力強い。
「へっ、新たな勇者の誕生かよ。やれやれ、アストラリア王国の貴族にしてやろうと思ったのに」
マーガスが、ニヤリと笑いながら歩み寄ってきた。
そして背中に背負っていた巨大な剣——オリハルコンの大剣を地面に突き刺した。
「これを使いな。……今の俺じゃ、こいつはただの重たい金属でしかねぇ。でもなんでかな、お前ならって気がするんだ」
ユグドラシルの助力を失ったマーガスにとって、オリハルコンの剣はもはや何の変哲もない重金属になっていた。
だが、不思議な予感がしたのだ。
遥斗なら。
遥斗なら、この剣の真価を引き出せるのではないかと。
「ありがとう、マーガス」
遥斗が剣の柄を掴む。
その瞬間。
——守って……。
——未来を……。
——頼む……。
無数の声が、遥斗の頭の中に響いた。
それはかつてマーガスを苦しめた、耳障りな雑音や怨嗟の声ではない。
静かで、優しく、そして切実な願い。
ユグドラシルに力を貸していた、名もなき魂たちの祈り。
彼らは遥斗を「認識」した。
加奈の息子であり、新たな希望であると。
ブォンッ!
剣が呼応するように震え、白銀の刀身が眩い光を帯びる。
もう暴走はしない。
正しき魂が、正しき器へと流れたからだ。
「……聞こえる。みんなの声が」
遥斗は剣を撫でた。
「力を貸して。……一緒に行こう」
「リーダーとして役割は果たせたみたいだな!やっぱり俺様が来て正解だっただろう!」
「ただの偶然じゃない?」
「ち、違う!マテリアルシーカーのリーダーとして!アストラリア王国辺境伯として!だな……」
「はいはい」
マーガスはエレナに軽くあしらわれていた。
ここに至ってもマーガスは変わらない。
だからこそ頼もしい。
実際、彼がいなければ、遥斗はここまで来られなかった。
最高の戦友に、最大の感謝を。
続いて、アマテラスが進み出た。
彼は懐から、一枚の護符を取り出す。
「これも持っていくがいい」
アマテラスの護符。
加奈が『ゴッド・クリエイト』の力で創り出した、最高傑作の一つ。
持つ者のステータスを底上げし、レベルアップを極限まで促進する効果がある。
「これも……加奈の想いも連れて行ってやってくれ。必ずやお前の力となろう」
アマテラスの手が震えている。
彼にとって、それはただのアイテムではない。
加奈の形見であり、命そのものだ。
アマテラスではこの戦いに参加することは敵わない。
だからこそ、だからこその想いを託す。
本来ならば加奈の大切な息子を、守るのはアマテラスの役目だったはずだ。
今は立場が逆転している。
どれだけ口惜しい事か。
遥斗はアマテラスの気持ちを両手で受け取った。
温かい。
母の温もりが、そこにある気がした。
「……ありがとうございます、アマテラスさん」
遥斗は深く頭を下げた。
「母さんを助けてくれて……母さんを愛してくれて、本当にありがとうございました」
かつては恨んだこともあった。
母を奪ったこの男を。
けれど、今は分かる。
自分にも、命を懸けて守りたい人ができたから。
アマテラスがどれほど加奈を想い、どれほど苦しんできたか。
その愛があったからこそ、母は最期まで笑っていられたのだと。
遥斗はエレナを見た。
そして再びアマテラスを見て、微笑んだ。
二人の男の間で、わだかまりが氷解し、確かな絆が結ばれた瞬間だった。
準備は整った。
勇者の力、魔術師の力、希少金属の剣、母の護符。
すべての想いを背負い、遥斗は空を見上げた。
「じゃあ、行きます」
遥斗が呟くと、隣に影が並んだ。
「そうね、行きましょう!」
「えっ!」
エレナだ。
遥斗はその言葉に思わず驚いた。
彼女の『白虎』は既にシステムをフル稼働させている。
戸惑う遥斗に、エレナはバイザー越しに力強く頷いた。
もう離れない。
行き先が天国でも地獄でも、命が終わるその瞬間まで付き合う覚悟だ。
「……余も忘れてもらっては困るぞ」
反対側から、凛とした声が響いた。
エーデルガッシュだ。
彼女の全身からは、凄まじい覇気が立ち昇っていた。
——『オーバーロード』。
一度は失われたその力が、再び覚醒している。
彼女にもまた、イドから力が注がれているのだ。
この世界を守りたいと願う、歴代の皇帝や戦士たちの魂が、彼女を依代として選んだのだ。
「まさか、帝国皇帝である余が、ただ見ているだけだと?」
エーデルガッシュは不敵に笑った。
かつての虚勢ばかりだった少女は、もういない。
そこにいるのは、真の強さを手に入れた本物の皇帝。
守られるだけの存在ではなく、大切な人の隣に立ち、共に剣を振るうパートナーとして。
「……さすがねユーディ!頼りにしてるわ!」
「任せておけ!今こそヴァルハラ帝国の威光を見せつける時ぞ!」
エレナとエーデルガッシュが通じ合う。
一人じゃない。
ここには最高の仲間たちがいる。
遥斗は振り返り、美咲たちに告げた。
「美咲さん、千夏さん、大輔、さくらさん、マーガス、アマテラスさん、ハルカ。……涼介をお願い。絶対に死なせないで」
「任せろ!涼介は、俺たちが絶対に守り抜く!」
大輔が涙声で叫び、美咲たちが深く頷く。
もう、言葉はいらなかった。
「行くよッ!!」
ドォォォォォォォン!!
遥斗、エレナ、エーデルガッシュ。
三つの影が、爆発的な加速で大地を蹴った。
目指すは上空。
世界を覆い尽くさんとする巨大な絶望、クロノス。
最終決戦の火蓋が、今切って落とされた。




