表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
最終章 そして、

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

543/588

543話 生み出された色彩

「受け取るよ、涼介。……君の力を!」


「ま、待てよ遥斗!それはやべーって!」


 大輔だった。

 彼は顔面蒼白で、必死に遥斗と涼介の間に割って入ろうとする。


「遥斗、分かってんのか?職業のステータス補正ってのは、単純な足し算じゃねぇんだぞ!」

「うん、そうだね。倍率補正、つまり掛け算」

「今の涼介から勇者の補正がなくなったら……本当にただの一般人に戻っちまう!こんな怪我耐えられねーぞ!」」


 大輔は、遥斗に『竜騎士』の力を奪われた経験があるからこそ、その恐ろしさを誰よりも理解していた。

 レベルアップによる基礎ステータスの上昇はある。

 だが、勇者という職業が持つ補正値は桁外れだ。


 それが消滅することは、生命を消失することと同義。


「死ぬって!涼介が死んじまうって!」

 大輔の叫びに、美咲は息を呑み、千夏は涙をこらえて俯いた。

 千夏の手が、涼介の服を握りしめる。

 離したくない。

 失いたくない。


 けれど、涼介の意思は……きっと。


「……いいんだ」

 涼介は、弱々しく微笑んだ。

「それが、俺の贖罪だ。……みんなを巻き込み、傷つけ、世界を壊した。その落とし前をつけるには、これくらいの代償は必要だろう。足りないかもしれんが」


「涼介……ッ!」

 大輔が悔しそうに拳を握りしめる。


 悲壮な空気が流れる中、遥斗だけは静かな瞳で涼介を見つめていた。


「涼介。……言ったろ?必ず助けるって」


 遥斗は涼介の瞳を見つめ、それから視線をエレナに向けた。


 言葉はなかった。

 だが、エレナは深く頷いた。

 この世界に来てからずっと連れ添ったパートナーだ。

 遥斗が何を考え、何をしようとしているのか、その意図は痛いほど理解できていた。


 遥斗の力を知るエーデルガッシュ、マーガス、アマテラス、そしてハルカは、信頼に満ちた眼差しで二人を見守っている。


 彼なら、常識を覆してくれると信じて。


 遥斗は、修復したばかりのマジックバッグに手を入れた。

 取り出したのは、黄金色に輝く籠手型の射出装置。

 かつて数々の素材を生み出し、遥斗を助けてきた相棒。


 ——『フェイトイーター』。


 遥斗はそれを右腕に装着する。

 そして、空の小瓶をエレナに手渡した。


「いくよ、涼介」


 遥斗はフェイトイーターを、涼介の額へとそっと押し当てた。

 通常、このアイテムはチャクラムを射出し、対象に超接近させて使用するためのものだ。


 だが今は、物理的な距離はゼロ。

 射出する必要はない。


「起動」


 キュイィィィィィン……!!


 フェイトイーターの内部で、チャクラムが高速回転を始める。

 光が涼介の身体を包み込む。


「ぐっ……ぅ……!」

 涼介が苦悶の表情を浮かべる。


「涼介!?」

 千夏と美咲が悲鳴を上げるが、涼介が制した。

「大丈夫だ……!痛くはない……ただ、心の奥底を……何かで撫で回されているような……」


 魂の深層に触れる感覚。

 フェイトイーターは今、涼介の魂に刻まれた「勇者」という概念そのものをスキャンし、転写しようとしている。


 回転音が、高音へとシフトする。

 遥斗の額に汗が滲む。


「こいッ……!!」

 通常であればとっくに転写は終わっている。

 しかし、今回はそれでは足りない。

 さらにチャクラムの回転数は上がっていく。


 遥斗が叫び、魔力を爆発させた。


 シュゴォォォォォッ!!


 ついにフェイトイーターの回転が停止した。

 同時に、眩い光の球体が浮かび上がった。


 ——職魂。


 それは、いつもの大きさの2倍以上はある。

 マーガスたちは何度も職魂を見ているが、これほど巨大で、高密度のものは初めてだった。


 まるで小さな太陽だ。


「エレナ!」

「はいッ!」


 待ち構えていたエレナが、空の小瓶を掲げ、呪文を詠唱する。

 その表情は真剣そのもの。

 この巨大な魂を制御できるのは、錬金術師の中でも精密錬金ができる彼女だけだ。


「アルケミック!!」


 エレナの手から放たれた魔力が、職魂を包み込む。

 強大な勇者の力を、優しく、しかし力強く圧縮し、液状化させていく。


 ポタリ。


 最後の光が小瓶の中に落ち、純白の液体となって満たされた。


 完成。

『勇者のポーション(極)』。


「こ、これは……」

 大輔が目を丸くする。

「涼介のステータスが……減ってない?」


 そう。

 涼介の身体からは、勇者の力は消えていなかった。

 生命力を維持するには十分な力が残されている。


「素材にした魂はコピーだからね。涼介には影響でないんだ」

 遥斗はポーションを受け取り、説明した。

「本人の職業そのものを『素材』として消費する時は、等価交換の原理でステータスダウンは起きる。今消費されたのは勇者の職業を写し取った僕の魔力だから。問題ないはずだよ」


 この方法には、もちろんデメリットがある。

 時間がかかる上に、フェイトイーターと高度な錬金術が必須だ。

 そして何より、互いの信頼関係がなければ、魂の障壁に阻まれて失敗していただろう。


「勇者の力、使わせてもらうね」

 遥斗は迷わず、ポーションを一気に飲み干した。


 遥斗の身体から、黄金の光柱が立ち昇った。


 分かる。

 誰もが直感した。


 今、この瞬間、佐倉遥斗が「勇者」になったことを。


 そして、その力は遥斗だけに留まらなかった。


「うおっ!?なんだこれ、力が湧いてくる!」

 マーガスが自分の手を見て驚く。

 美咲も、千夏も、そして瀕死の涼介の顔色さえも良くなっていく。


 『勇者の加護』。

 勇者が仲間だと認識した者すべてに対し、全ステータスを底上げする究極のバフスキル。

 それが今、遥斗を中心として全員に降り注いでいるのだ。


「……すごい」

 美咲は震えた。

 これが、遥斗の戦い方。


 誰かを犠牲にするのではなく、科学の力で可能性を拡張する。


 遥斗は覚悟を決めた瞳で、上空の女神を見据えた。

 クロノスを倒せば、涼介の本体を取り戻せるかもしれない。


 元の世界を守るためにも、涼介の命を繋ぐためにも、そしてこの愛すべき仲間たちのためにも。


 勝つしかない。


 その可能性、最後の希望は、遥斗だけなのだ。


「遥斗君!」

 美咲が進み出る。

「私の……私の力も……使って!」


「え……?」

 少し驚いた遥斗だったが、美咲の決意に満ちた目を見て、すぐに頷いた。

 彼女もまた、戦おうとしているのだ。


 自分の全てを賭けて。


「ありがとう、美咲さん。使わせてもらうね」


 再びフェイトイーターが唸りを上げる。

 抽出された『マジックキャスター』の職魂は、透き通るような美しい虹色をしていた。


 エレナが再び『アルケミック』でポーション化する。


 ——『マジックキャスターのポーション(極)』。


 遥斗はそれもまた、躊躇なく飲み干した。


 白の光に、虹色の魔力の奔流が混ざり合う。

 最強の勇者と、最高の魔術師。


 二つの力が、遥斗という器の中で融合し、新たな色彩を生み出していく。


 全身に巡る魔術回路。


 この世界初。


 『魔法勇者』の誕生だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ