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【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
最終章 そして、

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539話 集い来る悪夢

 

 神は、世界を喰らう。


 涼介の身体を苗床にして顕現した「クロノス」は、背後の『イド』から無限のエネルギーを吸い上げ、その体躯をさらに肥大化させていた。

 数分前までは見上げるほどの巨人だったのが、今ではその全貌すら把握できないほどの超巨大な概念存在へと昇華しつつある。


 そして、その周囲を飛び回る「羽虫」たち。

 女神の巨体に比べれば小鳥程度にしか見えないそれらは、実際には地上の人間にとって絶望的な存在だった。


 イドから這い出した異形の天使。

 それらのごく一部が、地上へと舞い降りる。


 ズゥゥゥゥゥン……!!


 たった数体が降り立っただけで、瀕死の大地が悲鳴を上げ、激震が走った。

 宙を舞っていた時には分からなかったが、目の前に立つと、その異常性が嫌でも理解できる。


 全長10メートルを超える巨体。

 それが3体、美咲たちの目の前に立ちはだかった。


「あ……ぅ……」


 美咲は杖を構えたまま、硬直してしまった。

 攻撃しなければならない。

 迎撃しなければならない。


 頭では分かっているのに、身体が恐怖で縛り付けられ、うまく動かない。


 目の前の怪物たちからは、モンスターが発するような「殺気」が感じられなかった。

 あるのは、もっと幼く、もっと純粋で、底知れぬ邪悪。


 まるで、小さな子供が公園で蝶々を見つけ、その羽を無邪気に引きちぎろうとする時のような。


 好奇心と破壊衝動が混ざり合った、無垢なる悪意。


 その中の1体が、首をかしげるように動いた。


 狙いは、地面に伏している涼介。

 瀕死の獲物が蠢いているのが面白くて仕方がないといった様子だ。

 関節の至る所についた無数の「顔」が、一斉に薄ら笑いを浮かべている。


(だめ……涼介君が……!)


 あの巨体で弄ばれれば、涼介の命などシャボン玉のように弾けて消える。

 美咲が必死に恐怖をねじ伏せ、呪文を放とうとした。


 しかし、その直前。


「させねぇよッ!!オーラショット・クリムゾン!!」


 紅き閃光が、戦場を切り裂いた。

 それは魔法ではない。

 伝説の金属ヒイロガネで作られた剛弓から放たれた、必殺スキルの矢。


 ドォォォォォォォン!!


 矢は正確無比に、天使本来の「顔」があったであろう部位、その目玉を射抜いて爆発した。


「俺たちの目の前で好き勝手やってんじゃねぇ!」


 弓を構えて立っていたのは、マーガスだった。

 金髪を振り乱し、満身創痍の体で吠える。

 狂戦士としての力は失っても、その高貴なる魂は微塵も衰えていない。


「畳みかける!サンダーボルト!」


 続いて、アマテラスが無詠唱で雷撃を放つ。

 腐ってもエルフ族最強。

 その一撃は天使の動きを止めるには十分だった。


「るな! お願い!セレスティアル・ムーンライト!」

「ウォオオオオオン!」

 さくらが叫び、神獣るなの聖なる月影が光を吐き出す。


 連携攻撃。


 それを指揮しているのは、エーデルガッシュだった。


「関節部が脆弱だ!そこを狙い撃て!」


 彼女の『ゴッドアイ』が、未知の敵の構造と弱点を瞬時に解析し、指示を飛ばしている。

 かつては敵対し、殺し合った者たちが、今は一つの目的のために背中を預け合っていた。


「どうして……?」


 美咲が呆然と呟くと、大輔が盾を構えながら叫んだ。


「俺にはわかる……みんなこれ以上……これ以上、誰かが死ぬトコなんざ見たくねーんだよ!!」


 大輔の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 友が死んだ。

 もう一人の友も死にかけている。

 世界は終わろうとしている。

 もう、たくさんだ。


 立場がどうとか、過去がどうとか、そんなことはどうでもいい。

 目の前で、誰かが理不尽に踏みにじられるのを、ただ指をくわえて見ていることだけは、絶対に嫌だった。


「……そう……だよね!」


 美咲の瞳に力が戻る。

 もう、この世界は終わりなのかもしれない。

 けれど、この悪趣味な連中を放置するわけにはいかない。


 たとえ敵わなくとも、最期の一瞬まで抗ってやる。


 脆弱な人間たちの抵抗に腹を立てたのか、隣にいた別の天使が動き出した。

 上半身、特に腕だけが異様に肥大化した個体が、その丸太のような腕を振り上げる。


 さらにその後ろからは、髪の毛だけが生き物のように蠢く、ミイラのような天使が迫る。


「ちっ、まずいぞ!一気に来る気か!?」

 マーガスが舌打ちをする。


「動きを止めるのだ!氷結攻撃ができる者は足元を集中攻撃!地面に縫い付けて飛ばせるな!」

 エーデルガッシュの指示が飛ぶ。


 るなの「フロストブレス」。

 アマテラスの無詠唱魔法「ブリザード」。


 極低温の吹雪が、天使たちの足を凍り付かせる。


 動きが鈍ったその瞬間。


「今だッ!おらぁ!絶華狂乱!!」


 マーガスが弓を引き絞り、魔力を限界まで込めて放つ。

 本来は剣で放つはずの奥義を、弓術へと昇華させた技。

 師匠アリアと、弓の名手レインから学んだ技術の結晶。


 放たれた一本の矢が空中で無数に分裂し、氷の礫となって天使たちに降り注ぐ。


 天使たちが地面ごと凍てつく。


「今だ!勇者パーティのマジックキャスターよ!最大火力で薙ぎ払え!」

 エーデルガッシュの鋭い声が、美咲の背中を押した。


「はいッ!!」


 美咲は自然と体が動いた。

 思考するよりも早く、魔力が奔流となって杖に集まる。


 守る。


 りょう君を!みんなを!。


 そして遥斗君が守ろうとした仲間たちを!


「森羅万象の五属性よ!我が意に従い融合せよ!結合せよ!全てを塵に還せ!!」


 大気が振動する。

 美咲の周囲に、火、水、風、土、雷の魔方陣が展開され、一つに重なり合う。


「マナ・バァァァァァァァスト!!!」


 極太の虹色の光線が放たれた。

 それは直線上の全てを消滅させる、この世界の究極呪文。

 千夏が同時使用している『生命昇華』の影響もあり、美咲のステータスは底上げされている。


 勇者の加護が消えかけた今でも、彼女自身のポテンシャルは十分に化物に通じる領域にあった。


 ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!


 閃光が3体の天使を飲み込む。

 断末魔を上げる暇もなく、その巨体が吹き飛び、光の中へと消えていった。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 美咲は膝をついた。

 手ごたえはあった。

 致命傷は与えたはずだ。


 しかし。  安心したのも束の間だった。


「……嘘」


 そこに立っていたのは、体の半分を吹き飛ばされた天使たちだった。

 それらが平然と存在している。


 いや、正確には違う。

 上半身を吹き飛ばされた個体同士が互いに混ざり合い、融合し、新たな形へと変貌していく。


 こいつらは、形があって形なきもの。

 存在あって存在なきもの。


 無数の魂の集合体であり、イドのエネルギーでできた木偶人形。

 物理的な破壊など、水面を叩くに過ぎない。


 新たな天使の頭部には、巨大な「目」だけが発現していた。

 顔面すべてが目玉。

 その瞳は、三日月のように歪み、笑っていた。


 無邪気に。


 美咲の必殺魔法など、心地良いそよ風だったとでも言うのか。


 さらに、砕けて地に落ちた破片からは、無数の腕が生えてきた。

 その掌には、それぞれに「口」があり、ケタケタと笑い声をあげている。


 ——ケケケ……キヒヒ……アハハハハ……


 まさに悪夢。

 この世のものとは思えない光景に、美咲の心がポキリと折れる音がした。


「あ……あぁ……」


 勝てない。

 これは、戦いではない。

 ただの蹂躙だ。


 涼介は変わらず瀕死。

 千夏も涼介にかかりきり。

 戦える者がいない。


 世界が、終わる。


 その時。


 ドッ!!!


 イドから、さらに膨大な魔力が流れ込んできた。

 女神の物とは違う、もっと別の、そして力強い波動。


 これ以上、何が起きるというのか。

 美咲が絶望の眼差しを向けた先。


 その魔力の奔流は、遥斗の遺体に縋り付いて泣いているエレナを——いや、彼女が纏っている半壊したパワードスーツ『白虎』を包み込んだ。

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