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【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第7章 終焉の血戦編

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491話 戦士たちの休息と、新たな契約

 王城に戻ると、そこはすぐに野戦病院と化す。

 だが、混乱はない。

 ツクヨミが的確な指揮を執っていたからだ。


「ルナークの民よ、救護班を編成しなさい!シルバーミストにいる全てのエルフ族、人族を分け隔てなく救助!」

「王宮の大広間を開放!回復魔法の使える者は最優先で治療に当たれ!食事を用意する者、毛布を準備する者、手分けして動きなさい!」


 月の女神の従者たちが、迅速に動く。

 かつて敵対していた種族同士が、今は手を取り合って、傷ついた者を運んでいる。


 その光景を見て、ゴルビンが深々と頭を下げた。


「……感謝するぜ。我ら人族を、こうも手厚く扱ってくれるとは」

「礼には及びません。今はただ、生き残った者を救いましょう」


 ツクヨミは短く答え、すぐに次の指示へと移っていった。


 遥斗たちも、広間の隅でささやかながら食事をとることにした。

 配給された温かいスープと、堅焼きパン。

 なんてことのない食事だが、生きてこれを味わえることが何よりの贅沢だった。


「師匠!」

「みんな無事だっち!」


 シエルとグランディス。

 その後ろには、ヘスティアとマリエラもいる。


 彼女たちも煤で汚れてはいたが、五体満足で生きていた。


「みんな!無事だったんだね!良かった!」

 遥斗は安堵の息を吐く。

 しかし彼らがいない。


「あの……アイアンシールドの人たちやゲイブさんは?」


 あれだけダメージを負っていた彼らだ。

 無事で済むはずがない。


 不安げな遥斗に、シエルが魔導士の帽子を取って笑った。


「大丈夫っす!救助されてるっすよ!」

「えっ、本当?」


「ええ。ただ……」

 ヘスティアが補足する。

「皆さん重傷で、今は奥で治療を受けておられます。命に別状はありませんが、当分は動けないかと」


「そう……でも、良かった……」


 遥斗は肩の力が抜けるのを感じた。

 彼らは死ななかった。

 その事実だけで、胸がいっぱいになる。


 この戦いで、死者も出た。

 イザベラ達、光翼騎士団のメンバーだ。


 生き残れたのは、ほんの紙一重、運が味方してくれただけ。

 誰が犠牲になっていてもおかしくなかった。


 その時——


 空気が、重くなった。

 広間の喧騒が一瞬で止む。


 入り口から現れたのは、三つの影。

 アマテラスとハルカ。

 そして——人型をとっているとはいえ、圧倒的な存在感を放つ巨漢。


 竜王バハムス。


 その威圧感に、食事をしていた兵士たち全員が緊張し、蝋人形のように固まる。


 バハムスは真っ直ぐに遥斗の元へ歩み寄った。


「お前が……佐倉加奈の息子か?」


 その言葉に驚いて、遥斗は慌てて立ちあがろうとした。


「は、はい!そ、そうです!」


「よい。座っておれ」


 バハムスは手で制すると、ドカッとその場に胡坐をかいて座り込んだ。

 釣られて、アマテラスとハルカも遥斗の近くに腰を下ろす。

 エルフ王、竜王と車座になるという、とんでもない状況が出来上がってしまった。


「バ、バハムス様ですよね!ドラゴンの!あ、す、すみません……僕は佐倉遥斗といいます。一応、アイテム士をやっていまして……」


 遥斗はしどろもどろになりながら自己紹介をした。

 バハムスは、興味深そうに遥斗をじろじろと眺める。


「ふむ……」


 不思議そうな顔だ。

 目の前の少年からは、あれだけの戦いをした覇気は感じられない。

 どこにでもいる、ただの人族の子供にしか見えない。


「……そういえば、あの女もそうであったな」


 バハムスが、ふと遠くを見る目をした。


「平時はただの小娘。とても神子には見えなかった。……だが、いざ苦境に立たされると、誰よりも輝いて見えた」


 懐かしさに、思わず笑みがこぼれる。

 その笑顔を見て、周囲の緊張が少しだけ解けた。


 だが、皆が言葉を発せない中、一人だけ堂々としている少女がいた。


「竜王よ。余はヴァルハラ帝国皇帝、エーデルガッシュ・ユーディ・ヴァルハラだ。どうか、お見知りおきを」


 エーデルガッシュだ。

 彼女は物怖じすることなく、バハムスの目を見て挨拶をした。

 少女皇帝の矜持は、相手が誰であろうと揺るがない。


「ほう……」

 バハムスは目を細める。

「小さき体に似合わぬ、巨大な魂だ。神の力を宿しながら、それに溺れておらぬ。……見事だ、幼き皇帝よ」

「あり難きお言葉、素直に受け取らせていただく」


 バハムスは敬意を表し、軽く頷いた。

 横にいたアマテラスが気を利かせ、口を開く。


「遥斗よ。バハムス殿はお前と話をしたいそうだ」

「僕っ?!……な、何でしょうか!」


 遥斗は緊張しっぱなしだ。

 バハムスのドラゴンの瞳が、遥斗を射抜く。


「単刀直入に聞く。……お前は、この世界にやって来て、どう感じた?」


 その眼光は鋭い。

 嘘やごまかしは通じない、本質を見極めようとする目だ。


 遥斗は、一度口をつぐんだ。

 美辞麗句を並べることもできる。

 だが、きっとそれには意味がない。


 遥斗は、自分の中にある素直な気持ちを探り出し、言葉にした。


「……この世界は、理不尽だと思います」


 静かな声だった。


「未熟で、危険で……とても脆い」

「……」

「意味の分からない力が跋扈して、人々はそれに振り回されて、命が蔑ろにされている。モンスターや魔物が溢れていて、安全なんてどこにもない。いつ死んでもおかしくない異常な世界です」


 遥斗は、バハムスを見つめ返す。


「僕がいた世界と似ているようで……あまりにも違います」


 その言葉に、誰も反論できなかった。

 全くその通りだからだ。

 誰もが、この世界の理不尽さに傷ついてきたのだから。


 しかし、遥斗は続けた。


「でも……僕がいた世界は、色がありませんでした。厳密にいえば……灰色……かな」


「灰色?」

 ハルカが小首をかしげる。


「うん。一見、安全は保障されていて、幸せは溢れていました。便利で、不自由のない暮らし。誰も飢えたりしないし、モンスターに襲われることもない」


 遥斗は、かつての日常を思い出す。


「でも……それが正しい事なのか、疑問に思うようになりました。目的もなく漫然と生きて、人はいつの間にか生きる意味を失っていく。他者を貶めることに執着して、自分の幸せを感じる事が出来ないから、誰かと比べて安心する。そこに幸福なんかないのに」


 深淵の底に沈めていた、かつての諦観。


「生きている事がどれだけ素晴らしいかを、実感できない世界……いつの間にか、僕にとって元の世界は、まるでバーチャル……作り物の世界のように感じるようになっていました」


 遥斗は、自分の胸に手を当てた。


「でも、この世界には本当の心がある。感情がある。血が通っている。……元の世界にもあったのかもしれないけど、僕にはわからなかった」


 そして、遥斗ははっきりと告げた。


「僕は、この世界が好きです。……理不尽で、残酷だけど、それでもここに生きる皆が……好きです」


 その言葉は、広間にいる全ての者の心を打った。


 皆、この世界には愛着がある。

 それでも、辛い事が多すぎた。

「この世界が終わる」と聞いて、それもありなのかもしれない、と心のどこかで思った者もいたはずだ。


 それでも遥斗の言葉——「この世界が、ここに生きる皆が好き」という言葉は、彼らが忘れていた、自分達の根源にある想いそのものだった。


 バハムスは目を閉じた。

 そして、何かを深く考えているようだった。


 ハルカは、じっと遥斗を見つめる。

 その横顔に、母・加奈の面影を重ねる。

(お母様……この人は間違いなく、私のお兄様です)

 心の底から、そう思えた。


 やがて、バハムスがゆっくりと目を開いた。


「……お前の想い、受け取った」


 バハムスが、僅かに口角を上げる。

「良かろう。我が力、託すに値する。……今日からお前は、我が同胞だ!」


 そして、豪快に笑った。

「グハハハハハ!」


「えっ……?」

「同胞……!?」


 一同、驚愕した。

 竜王バハムスの同胞として迎えられたのだ。

「友」ではない。

「同胞」だ。


 竜王と対等の存在であると認められたに等しい。

 前代未聞の事態だった。


「よし、今日は宴だ!酒を持って来い!飲み明かそうぞ!」

 バハムスが手を叩いて叫ぶ。

 アマテラスも、満足そうに頷いている。

「うむ、良き夜だ」


 一気に祝宴のムードになる中、遥斗だけが冷や汗をかいていた。


(……あの、僕、未成年なんですけど)


 そのツッコミは、心の中にしまっておくことにした。

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