484話 終焉の血戦(9)
遥斗は——
暴風の力が宿る聖剣、シュトルムバッハーを構えた。
その刃は、剣聖の職業に反応するかの如く輝きを放つ。
「アブソリュート・ドミニオン!」
剣聖のスキルで、絶対防御領域を自身の周囲に展開させる。
触れたものは、いかなる物質をも消滅させる。
バチバチッと小さな雷が遥斗の周囲を走り、莫大なオーラが体を包んだ。
圧倒的な力。
これが——
剣聖。
エレナの白虎もビットを展開した。
無数の小型兵器が、白虎から分離する。
自律飛行が可能な遠隔攻撃兵器。
現代科学の先を行く、神の力と科学の融合体。
完全にエレナの意識とリンクし、手足のように操ることが可能。
「アルケミック!」
マーガスはオリハルコンの大剣を、鎧に変えた。
金属が流動し、全身を覆う。
そして——
ヒイロガネの剣を装備。
オリハルコンの鎧はマーガスの背中に翼を広げた。
これは飾りではない。
イドからの膨大な魔力を供給されているオリハルコンは、それを噴射することで操者を飛行能力を与える。
これでマーガスも自在に空を飛べる。
エーデルガッシュは自分の中に眠る力を見つめた。
それは自分の様であり、自分ではない物。
神が与えし力、いや神の一部といっていい。
敵か味方か。
迷っている時間は無い。
ただ、自分と共に生まれ、育ち、ここまで来た。
恐れない。
神子のスキルを、全開にした。
全身から、神気が噴き出す。
幼い身体が神々しい光に、包まれた。
ゴッドアイ・オーバーロード。
神子の極限。
四人がスライムに、突撃していく。
エレナは、白虎の飛行機能で空を翔ける。
エーデルガッシュも、神子の力で宙を舞う。
マーガスは、オリハルコンの翼で飛行。
遥斗にはるなが並走する。
「手伝ってくれるの?」
「ウオォォォンン!」
神獣の咆哮が、響いた。
るなに跨る。
アブソリュート・ドミニオンは遥斗の意識で敵味方を識別する。
絶対領域は遥斗と共にるなを包み込んだ。
そして、るなは空を駆ける。
「ドラゴンたちは下がれ!ブレスは効果が薄い!ここは任せよ!」
エーデルガッシュがドラゴンたちに指示を出すと、素直に後退していく。
神子の力を本能で感じているのだろう。
四人が、前線に立った。
触手が一斉に迫る。
それが逃げ場を奪う。
「ファイアブリッド!」
アマテラスの声が、響く。
「ファイアブリッド!」
ツクヨミも合わせる。
初級魔法だが、この2人にかかれば極大魔法に匹敵する威力。
2つの炎が、触手を焼いた。
大地が燃え上がる。
「ビット!一斉射撃!」
エレナの指示で、無数のビットが攻撃を開始。
レーザーが、触手を貫く。
「マイクロミサイル!発射!」
白虎の肩部から、小型ミサイルが飛び出す。
ドゴォォォン!ドゴォォォン!
爆発が連鎖した。
効果抜群だ。
触手が、次々と吹き飛ぶ。
「オーラブレード!」
遥斗が、叫んだ。
シュトルムバッハーが、光を放つ。
剣聖の力を纏った、斬撃。
「オーラブレード!」
マーガスも、続く。
ヒイロガネの剣が、輝いた。
「オーラブレード!」
エーデルガッシュのパッシブスキル。
ゴッドアイは、使用可能であれば即座に模倣することが出来る。
三つの斬撃が一つとなり、スライムを切り裂く。
巨大なスライムに深い傷が刻まれる。
しかし反撃の触手が、再び迫る。
遥斗の周囲に展開された絶対領域は、それを弾いた。
雷が走り、触手が焼ける。
アブソリュート・ドミニオンは、範囲内に入った物質を分解してしまう。
エレナの白虎は触手に掴まれても平然としている。
もちろん無傷とはいかない。
僅かに装甲が熱を発する。
少しずつ溶かされているのだ。
それでも、エレナ本体に攻撃が及ぶのはいつになるのか。
当然、それを待つ義理は無い。
「レーザーエッジ!」
エレナが、光の剣で触手を断ち切った。
マーガスには——
なぜか、触手が攻撃を躊躇していた。
オリハルコンはイドと繋がる、未知の金属。
神はイドに住まう存在。
どの様な関係にあるのか分からない。
攻撃してこない理由も分からない。
しかし事実として、マーガスを狙う事はしない。
「くそっ!うるせーよ!今やってんだろ!邪魔すんな!」
それでもマーガスの脳内には、絶えずオリハルコンが命令を下していた。
あの敵を倒せ、と。
エーデルガッシュはサンクチュアリの結界を展開。
神聖なる、光の壁。
触手が、弾かれる。
莫大な魔力消費と引き換えに防御結界を創り出す。
以前のエーデルガッシュであれば、魔力の消費についていけなかったが、今の彼女は違う。
オーバーロードと最高の相性といっても過言ではない。
「これが……ヴァルハラ帝国皇帝が受け継ぐ聖剣・サンクチュアリの力だ!帝国の威光、その眼に焼き付けよ!」
それぞれが——
一騎当千の、働きをしていた。
究極とも言える戦闘力。
マテリアルシーカーとして活動していた、四人の完璧な連携が——
巨大なスライムを、着実に削っていく。
***
その様子をバハムスは見ていた。
そして、愉快そうに笑った。
「くくく……エルミュレイナスの切り札が……これとはな」
特に白虎の活躍には、目を見張った。
科学の力で戦う、異形の戦士。
その姿に——
かつての、女の面影を重ねる。
佐倉加奈。
異世界から来た、始まりの神子。
ユグドラシルと化した憐れな女。
しかし——
彼女の遺志は、時を越えて受け継がれていた。
まさに奇運、それがバハムスを満足させた。
「お前の遺したアイテム……有用に使われているぞ」
呟きが、風に消える。
バハムスとは反対に、エルミュレイナスは不思議そうに、その光景を見ていた。
あまりに、大きさが違いすぎる。
いくら表面を傷つけようとも、ほとんどダメージになっていない。
虫がいかに飛び回ろうと、モンスターを倒せるはずがない。
時間の問題。
いずれは飲み込まれ、終わる。
その確信は揺るがない。
遥斗も——
同じ意見だった。
表面を削るだけでは、意味がない。
決定的な、一撃が必要だ。
そのための、策。
それは既に託してきた。
絶対に気づかせない。
その為には——
死力を、振り絞る。
「出来るだけ近づいて!」
るなが、スライムに急接近する。
超至近距離。
あまりに危険すぎる、距離。
触手が無数に迫る。
しかし遥斗は構わず集中。
「ポップ!」
遥斗はスライムに手を翳し、エリクサー生成を行った。
大量のHPとMPを素材として。
ビクともしない。
巨大すぎる。
吸い取ったHPなど微々たるもの。
「もう一度だ!ポップ!」
渾身の二発目。
さらに、HPとMPを吸い取る。
エリクサーの生成には成功した。
しかし遥斗のMPが尽きてしまった。
アブソリュート・ドミニオンが——
消える。
周囲に無数の触手。
触れられれば終わりの攻撃が、遥斗に襲いかかる。
「シュトルムバッハー!トルナード!」
遥斗が剣スキルを発動。
暴風が道を切り開く。
僅かな隙間から、るなが脱出した。
「助かったよ……」
そう言いながら、遥斗はエリクサーを一本飲み干す。
MP全快。
余剰のエリクサーはマジックバッグにしまう。
命ギリギリの勝負。
遥斗は愚直に同じ戦法を続ける。
「もう一度!行くよ!」
エレナも——
マーガスも——
エーデルガッシュも——
遥斗を、フォローする。
触手を焼き、弾き、斬る。
遥斗は——
何度も、何度も。
エリクサー生成で、スライムを削っていく。
そして——
スライムの意識が届く、わずか外側。
遥斗の最後の策が——
そこにあった。
ハルカだ。
幼い少女が神器を掲げている。
ヤタの鏡。
神器が——
光を、放ち始めた。




