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437話 神の証明

 アマテラスが走る。


 風を切り裂き、地が爆ぜる。

 レベルアップ任せの異常な身体能力を、余すことなく発揮していた。


(遥斗……すまぬ)


 心の中で感謝する。


 彼が稼いでくれた、この貴重過ぎる時間。

 1秒たりとも無駄にはできない。


 前方に、エリアナ姫の姿が見えた。

 金色の髪が、戦場の風になびいている。


 しかし——


「させるかよ!」


 ゴルビンが立ちはだかる。

 巨大な拳を振りかざし、アマテラスの進路を塞いだ。


「光翼騎士団!下郎を通すな!」

 アレクサンダーも号令を飛ばす。


 白銀の騎士たちが、瞬時に陣形を組む。

 エリアナ姫を守護するように、壁となって立ちはだかった。


「そこまで!」


 マーリンが杖を構えた。

 魔力が収束し、空気が震える。


「エクスプロージョン!」


 詠唱なしで、最上位の攻撃魔法が発動した。


 巨大な爆炎が、アマテラスに向かって襲いかかる。

 その威力は桁が違う。

 触れるだけで、いかなる者も消し炭となるだろう。


 ゴォォォォォ!


 炎が、アマテラスを呑み込もうとする。


 その瞬間だった。


「斬!」


 爆炎が、真っ二つに斬り裂かれた。


「なんと!?」


 マーリンが目を見開く。

 信じられない光景。


 なんと魔法を、剣で斬り裂いた。


 そこには、シュトルムバッハーを構えた男が立っていた。

 ブリード・フォン・リッター。

 ヴァルハラ帝国の軍務尚書にして、剣聖と謳われる男。


「我が剣に断てぬものものはない!」


 彼の剣が、淡い光を放っている。

 魔法をも無効化する、伝説の剣技。


「ブリード……だと!帝国のバケモノか!」

 ゴルビンが警戒する。


 彼がいるということは——


「皆の者!引くがよい!」


 幼い、しかし威厳に満ちた声が響いた。


 アマテラスの後ろに、少女が立っていた。


 エーデルガッシュが彼に追い付いていたのだ。


 幼いながらも、その存在感は圧倒的。

 超越者としての力が、全身から溢れ出ている。


「ヴァルハラ帝国皇帝陛下……!」


 王国騎士たちが、思わず後ずさる。


(ほう、あの速度に……)


 アマテラスが内心で驚く。

 自分の全力疾走に、この幼子が遅れることなくついてきた。

 僅かな間に見違えるような成長だ。


 やはり、「あの話」は真実だったと思わせられる。


 ついに、ついにエリアナ姫に、声が届く距離まで来た。


 エーデルガッシュが、前に出る。


「貴殿に問う、エリアナ・ファーンウッドよ」

 その声は、少女のものとは思えないほどの圧を持つ。

「そなたは、闇の本当の意味を知っているのか!」


 静寂。

 エリアナ姫が、不思議そうに首を傾げる。


「ヴァルハラ帝国『元』皇帝陛下……なぜ、そのような事を私に問うのですか?」


 エーデルガッシュの威圧感もどこ吹く風。

 怯む様子も、悪びれる様子も見受けられない。


 その瞳には、一片の曇りもなかった。


「貴殿はこの戦いを計画したはず!望みは何だ!何を企んでいる!」

 エーデルガッシュの声に鋭さを増す。


「私は神子です。神の意思を体現するのみ。闇とはこの世界を蝕む悪意そのもの。ゆえに、闇と戦います」

 エリアナが静かに答える。


「馬鹿な!神はそんな事を望んではいない!神の意思を歪めるな!」

 エーデルガッシュが叫ぶ。


「神の意思を歪めているのは——」

 エリアナが、初めて感情を露にして言い放つ。


「あなたです」


 エーデルガッシュが、絶句する。


「愚かな……闇は世界の黄昏だ」

 アマテラスが口を開く。

「魔力で消費してしまった物質無き場所、つまり空洞だ」


 しかしエリアナは余裕の表情を浮かべていた。

 いや、これは薄ら笑いだ。


「ふふっ、それは矛盾しております」

 静かに、しかし確信を持って告げる。

「なぜなら、魔物は闇から溢れ、人々を襲っているではないですか?闇が空洞であれば魔物はどこから生まれるのです?」


 その言葉に、アマテラスの動きが止まる。


「そうだ!何もない空間であるならば、スタンピードが起こるはずがないだろう!あの中には魔物を生み出す邪悪なる存在がいるのだ!」

 デミットが頷く。

 ゴルビンも、マーリンも。


 もっともな話だった。

 真実を知らなければ、誰が聞いてもエリアナの言い分に理がある。


 エリアナの言葉に、アマテラスの全身から怒りのオーラが立ち上る。

 周囲の空気が震え、地面が軋む。

 その圧力に、周囲の兵士たちが膝をつく。


 『邪悪なる存在』

 この言葉だけは聞き流すことはできない。


「貴様らぁ……今、この世界が存続しているのは——」


 アマテラスの声が、低く響く。


「誰のおかげだと思っている!!加奈を愚弄することは誰であろうと許されぬ!!」


 加奈。

 その名に、エリアナが一瞬反応する。


 アマテラスの拳が、強く握られていた。

「魔物が何故人を襲うか——想像でしかないが」

「恐らく、魔力の消費を抑えるために、人族を間引いているのだろう……」


 その言葉に、エリアナが首を横に振る。

「証拠はありますか?それを証明できる証拠は?」


 デミットが一歩前に出る。

「そうです。そのような荒唐無稽を、どう信じろと?」


(くっ……説明している時間はない……)


 アマテラスの思考が、危険な方向に傾く。


(ここは、こやつらを皆殺しにして、一旦停戦させるしか……)


 クサナギに手がかかる。


「待つのだ、アマテラス殿」

 エーデルガッシュの小さな手が、アマテラスの腕を掴んだ。


「ここは余に任せてもらえぬだろうか」

 その瞳には、強い意志が宿っていた。

「余は神からの啓示を受けた。おそらく、この時のために」


 エーデルガッシュが、エリアナを真っ直ぐに見つめる。


「神は言っている……争いをやめ、世界を救え、と。神は世界の消滅を憂いているのだぞ!」


 再びの静寂。


 そして——


「ぶはは!啓示だとよ……それを信じろってのかい?」

 ゴルビンが笑い出した。

「気でも触れちまったか、嬢ちゃん?」


 その言葉に、周囲の者たちも同意の空気を見せる。

 子供の戯言だと。


 エーデルガッシュが、小さく息を吐く。


「証拠ならある!」

 力強く、言い放った。

 そして静かに目を閉じる。

 深く、深く集中していく。


「……ゴッドアイ・オーバーロード」


 瞳が開かれた。


 その色は金色。

 いや、さらに変化していく。

 金から、白へ。


 純白の、神々しい輝き。


 聖なる光の気が、エーデルガッシュを取り囲み始める。


「おい!な……なんだ、これは……」


 ゴルビンが後ずさる。


 その清廉さは、人ではありえない。

 まるで、神殿に満ちる聖なる気配。


 いや——はるかに、それ以上。


 フワリ。


 エーデルガッシュの身体が、浮き上がった。


 あまりの力に、重力すら意味を成さない。


 白い光が、戦場全体を包み込んでいく。

 その光に触れた者は、思わず涙を流す。


 温かく、優しく、全てを包み込むような——


「神だ……」


 誰かが、呟いた。


「これが……神……」


 アレクサンダーが、思わず呟く。

 エリアナ姫すら、その光に目を奪われていた。


 エーデルガッシュの姿は、もはや人ではなかった。


 その姿は——まさに神そのものだった。

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