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40話 スタンピード調査

挿絵(By みてみん)

 夕暮れ時の宿舎の食堂。遥斗は黙々とスープを啜りながら、今日の出来事を思い返していた。



 数時間前、ルシウスの研究所に戻った3人。エレナは怒りを抑えきれない様子で、ルシウスを強く非難した。


「おじさま!今回の行動は本当に危険でした。私たちの命が危ないところだったのよ!」

「申し訳ない。確かに予想以上の危険があったようだね」

 ルシウスは軽く頭を下げながら言った。


 しかし、その表情には深い反省の色は見えなかった。むしろ、好奇心に満ちた目で3人を見つめている。


「さて、では能力鑑定をしよう」ルシウスは手早く準備を始めた。


 魔法の光が3人を包み込み、ルシウスはレベルを確認した。


「エレナが28、トムが21か、うーん...」


 トムは目を輝かせて言った。

「えっ!すごいじゃないですか!」


 遥斗は不思議そうな顔をした。

「そうなの?」

「ああ、この世界では、人生を終えてレベル100に到達していればすごい方なんだ。僕たちの年齢で20あれば優秀な方さ。自分でもびっくりだよ」

 トムは得意げに説明を始めた。

「戦闘職の方がレベルが上がりやすいのよ。王国軍の兵士採用条件が50以上なのを考えると、私たちの成長は早い方だわ」

 エレナが補足した。


 遥斗は思わず声を上げた。

「え?じゃあ、アリアさんのレベル236って...」

「はっきり言って異常ね」


 それでもルシウスの表情は晴れなかった。遥斗はそれを見逃さなかった。


「ルシウスさん、何かあるんですか?」


 ルシウスは一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに取り繕った。

「いや、何でもないよ。さ、今日はここまでにしよう」



「...と。遥斗」


 トムの声に、遥斗は我に返った。

「ああ、どうしたの?」


 トムは興奮気味に言った。

「ねぇ、レベルも上がったし、武器を買いに行かない?魔力銃はメンテナンスでルシウスさんに返したし、今なら武器を持ってもそこそこ戦えると思うんだ」


 遥斗は少し驚いた。アリアともっと高レベルのモンスターと戦っていたことを思い出し、自分たちでは武器を持っても戦えそうにないと思ったが、あえて口には出さなかった。

「そうだね。実は僕も武器屋に興味があったんだ」


 翌日の放課後、3人は街に繰り出した。目的地は、「鋼鉄の夢想家」という武器屋だ。店の外観は、まるで小さな城塞のように頑丈で威圧的だった。扉の上には巨大な剣と盾の看板が掲げられている。


 店内に入ると、壁一面に様々な武器が飾られていた。剣、斧、弓、槍...その光景は圧巻だった。

 トムは早速、店員に声をかけた。

「あの、錬成士でも扱いやすい武器はありますか?」

 店員は少し困ったような表情を浮かべた。

「錬成士ですか...そうですね、軽量の武器がおすすめかと...」

「ロングソードとかはどうですかね?」

 トムは気づかずに続けた。

「申し訳ありません。錬成士の方には、もう少し軽い武器をお勧めします」

 まるでクレーマーを相手にするように、店員はやんわりと断った。


 一方、遥斗は興味深そうに武器を見ていた。

 ふと思い立ち、鑑定を試みる。

(できた...!)


 さらに、登録も試してみる。驚いたことに、これも成功した。

(でも、どうやって生成すればいいんだろう...)


「遥斗くん、何してるの?」

 エレナの声に、遥斗は我に返った。

「あのさ、エレナ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど...」

 遥斗は武器の鑑定と登録ができたことを説明した。


「えっ、それって凄いことじゃない?でもこの世界のアイテム士は、武器は生成できないって聞いたことがあるわ」

 エレナは驚いた様子で言った。

 遥斗は眉をひそめた。

「登録できるのに生成できないなんて...どうしても腑に落ちないんだ」


 店を出る際、遥斗の頭の中は新たな疑問で一杯だった。



 銀月の谷——ルミナスの北東に位置する広大な渓谷は、その名の通り、満月の夜には銀色に輝く草原が幻想的な光景を作り出す。かつては各国から人が訪れるほどの観光地として知られるこの地だが、今は不吉な空気に包まれていた。

 この谷は前回のスタンピードという未曾有の事態に見舞われ、激戦地と化した歴史を持つ。無数の魔物が狂ったように暴れ回り、多くの犠牲者を出した悲劇の舞台。その傷跡は、今も谷の至る所に残っている。


 アレクサンダー・ブレイブハートは、重厚な鎧を身にまとい、谷を見下ろす崖の上に立っていた。彼の眼差しは、遥か下方に広がる銀色の草原を捉えている。


「アレクサンダー」


 イザベラ・スターリングの声が、彼の思考を現実に引き戻した。


「イザベラ。何か発見はあったか?」

 イザベラは首を横に振った。

「まだです。しかし、谷の奥深くから不穏な気配を感じます」


 アレクサンダーは深くため息をついた。彼の脳裏に、数日前の王との会話が蘇る。



「アレクサンダー卿、貴公に重要な任務を頼みたい」

 エドガー王の声は、玉座の間に厳かに響いた。


「はっ。何なりとお命じください」

 アレクサンダーは敬愛する王の言葉にかしずいて返事をする。


「銀月の谷を調査せよ。最近の魔物の出現は単なる偶然ではない。スタンピードが迫っておるやもしれんのだ」

 アレクサンダーは一瞬、戸惑いの色を見せた。

「しかし、陛下。前回のスタンピードからまだ20年。あまりにも早すぎるのでは...」

「分かっている」エドガー王は彼の言葉を遮った。

「だからこそ、お前に頼むのだ。王国最強の騎士、アレクサンダー・ブレイブハート。お前なら、きっと何かを見出せるはずだ」


 アレクサンダーは深く頭を下げた。

「御意。必ずや、真相を明らかにしてみせます」



「アレクサンダー様報告します。谷の西側で魔物の気配を感知しました」

「詳しく話せ」アレクサンダーの目が鋭く光る。


「はい。シャドウストーカーと思われます。数はおよそ300」

 イザベラが息を呑む。「300ですって?」


 アレクサンダーは冷静さを保ちつつ、状況を分析し始めた。

 シャドウストーカー——人間並みの動きを持ちながら、驚異的な耐久力を誇る魔物。自らを攻撃させ、相手を絡め取って圧殺する危険な戦法を持つ。さらに、逃げれば疲れを知らず追いかけてくるため、逃走は不可能。


「イザベラ」

「はい」

「光翼騎士団を整列させろ。戦闘態勢を取る」


 イザベラは即座に命令を実行に移した。アレクサンダーは、集まってくる騎士たちを見つめる。彼らの顔には緊張と決意が混ざっている。


「諸君」アレクサンダーの声が、谷に響き渡る。

「我々の前に、300のシャドウストーカーが立ちはだかっている。危険な敵だ。だが、我々には光翼騎士団の誇りがある」


 騎士たちの目が、決意に燃えて輝く。


「私はお前たちを信じている。共に、この危機を乗り越えよう!」

「おお!」騎士たちの雄叫びが、谷を震わせた。


 アレクサンダーは、イザベラに目配せした。

「作戦は?」イザベラが小声で尋ねる。

「まず、谷の地形を利用して敵を分断する。その後、私が敵陣に切り込む。その隙に、お前は別動隊を率いて一気に数を減らせ」

「了解しました」

 イザベラは頷いた。


 その時、遠くから不気味な唸り声が聞こえてきた。シャドウストーカーの群れが、谷を這うように近づいてくる。

 アレクサンダーは剣を抜いた。その刃が、光を反射して輝く。


「全軍、戦闘準備!」


 騎士たちが一斉に武器を構える音が響いた。銀月の谷に、新たな戦いの幕が上がろうとしていた。

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