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381話 大集会

 クロノス教団の大会議室に、険悪な空気が漂っていた。


 卓を囲む顔ぶれは、これまでにない規模だった。

 普段は敵対関係にある者もおり、誰もが不満の面持ちを浮かべている。


 出席者は遥斗を始め、エレナ、マーガス、シエル、グランディスの「マテリアルシーカー」。

 普段は会議など絶対に出席しない、自由を愛する王国最強冒険者パーティ「シルバーファング」の5名。

 アストラリア王国もルシウスを筆頭に、イザベラ、ガイラス、ナッシュ、オルティガの「光翼騎士団」

「クロノス教団」からはアマテラス、ツクヨミ、ハルカ。


 そして「ヴァルハラ帝国」

 軍務尚書ブリード。

 ゲイブと冒険者「アイアンシールド」


 最後に、この会議の主催者、ヴァルハラ帝国皇帝「エーデルガッシュ・ユーディ・ヴァルハラ」


 少女皇帝がゆっくりと立ち上がった。

 会議室の空気が一層ひりつく。


「皆の者、良く集まってくれた」

 その声には、今までにない重みがあった。


 今までも十分に威厳のある彼女だったが、今日は一段と荘厳さが漂う。


「ヴァルハラ帝国皇帝エーデルガッシュ・ユーディ・ヴァルハラとして、またこの世界に生きる一人の人族として、皆に伝えねばならぬ事がある」


 エーデルガッシュは会議室を見回した。

 

 ここで世界の命運は決まる。

 

 破滅か生存か。


 少女が背負うには、あまりにも重い選択。


「昨夜、余は夢の中で『神』からの啓示を受けた。この世界に迫る危機、そして果たすべき使命について」

 エーデルガッシュが続けようとした瞬間、その静寂を破ったのはアリアだった。


「おい!ちょっと待て!私らは嬢ちゃんの夢の話を聞かされるために集まったってか?」

 椅子の背にもたれかかり、挑発的な笑みを浮かべる。

 一ヶ月以上の軟禁生活で溜まった鬱憤が爆発する。


「怖い夢を見たっつーんなら、おてて握っててやろうか?ねんねんころりってよ」


 ガルスがその言葉に反応し、腹を抱えて豪快に笑った。

「がはははっ!そりゃあいい!子守はアリアに任せるぜ!これでも俺達は忙しいんだ。エルフ製エールを飲むのにな!」

 会議室に響くガルスの声が、他の者の笑いを誘う。


 ブリードの表情が一変した。


 いや変化を失くした。

 まるで能面を思わせる。


 ゆっくりと立ち上がった彼には、神聖なものを汚されたという感情が刻まれている。

 その眼光は、まるで聖域を侵す者を見るかの如く、侮蔑にまみれている。


「だまれ……」


 声は抑制されているがゆえに恐ろしいほどの迫力を持っていた。


「陛下は人を超越された」


 会議室の全員が、ブリードの変化に息を呑む。

 普段は不愛想を地で行く軍務尚書だが、普段の比ではない。

 明確な殺意。


「神の代理、いや神自身と言っても過言ではない。許可なく言葉を発するなら、神敵として処罰させてもらうか」


 忠誠心、それは最早、信仰と呼ぶにふさわしい。

 

 狂信者とは正に彼の為にある言葉。

 彼の忌み嫌うゲオルグと紙一重。


 会議室の空気が凍りついた。


 しかしアリアは怯まない。

 それどころか、目つきがさらに危険なものに変わった。


 シルバーファングは如何なる権力にも屈する事はない。

 相手が巨大であればあるほど、その喉元に喰らいつく。


「おーおー、太陽神に月の女神、ここには神様がいっぱいだ!私らはどの神様を信仰すりゃあいい?あん?答えてみろよ!おっさん!」


 その声には、抑圧されてきた怒りと皮肉が込められていた。

 アリアの殺気が会議室に充満し、他の冒険者たちも身構える。


「ここに軟禁されて1ヶ月以上。これ以上戯言を聞く義理はないぜ」


 アリアの手が剣の柄を握る。

 その動きに反応して、ブリードも腰の剣に手をかけた。


 一触即発の状況に、会議室の全員の緊張が頂点に達する。


「ここまでだ!シルバーファング推し通させてもらうぜ!」


 アリアの闘志、圧倒的だった。


 遥斗が立ち上がろうとした時、エーデルガッシュの声が響いた。


「待て」


 その一言に、会議室が静まり返る。

 エーデルガッシュの声には、昨日までにはなかった何かがあった。

 権威というより、もっと根源的な何か。


「どうか話を聞いて欲しい」


 エーデルガッシュがアリアを見据える。


「おまえ……」


 その瞳の奥底に宿る光を見て、アリアは直感的に理解した。

 目の前にいるのは、確かに昨日までの少女ではない。


「本当に……ちびちゃんか?」


 アリアの声が震える。

 百戦錬磨の冒険者が、動揺していた。


 マルガが咳払いをして口を開く。


「神子はの……元々神の力の代行者と言われておる」


 老魔導士の言葉に、会議室の全員が耳を傾ける。


「ここに来て何かの力に目覚めてもおかしくないのう。ここは不思議な場所じゃ。力……というか意思というか。何かが満ちておる。生と死の狭間、といったところかの」


 エーデルガッシュは深く頷き、昨夜の出来事を語り始めた。

 暗闇の中での神との邂逅、終焉の時への警告、世界を脅かす悪意の存在について。


 そして、神から告げられた言葉を口にした。


「破滅と救済は同じところにある。破滅への道が唯一生き延びる道」


 その瞬間、アマテラスの顔が青ざめた。

 ツクヨミも同様に、まるで雷に打たれたような表情を見せる。


(父上の遺した言葉だと……)


 二人の脳裏に、父オルミレイアスの最期が蘇る。

 予言者として、世界の未来を警告していた。

 それが今、神の言葉として再び語られた意味を二人は考える。



「それで、その話が本当だとしてどうするの?ユーディは何がしたい?」

 遥斗が口を開く。

 その声は以前の調子が戻って来ていた。


 その様子にエレナが胸を撫でおろす。

 本調子ではないかもしれない。

 それでも、彼を守りたいという気持ちは、些かも変わることは無い。



「誰かが破滅へと導いている。世界を歪めているらしい」

 エーデルガッシュが戸惑いながら答える。

 確証があるわけではないのだろう。

「それを討て、ということだと思う。仲間を集めて戦うことになる。それを率いろ、と」


「それは誰?敵の規模はわかる?あと、どこにいるかの情報もあれば」

 遥斗の矢継ぎ早の質問に、エーデルガッシュは首を振る。


「分からぬ。しかし相手は恐らく、ルナークとソラリオンを壊滅させるほどの力を持っている」


 その言葉に、会議室の空気が重くなった。

 二つの大国を滅ぼすほどの敵。

 もはや国家間の戦争。

 

 その規模の大きさに、誰もが息を呑む。


「そ、それじゃあ戦争ってことになりやすか?」

 ゲイブが震え声で身を乗り出した。


 その問いかけに、ブリードが即座に反応する。

「そうだ……早急に帝国の実権を取り返し、備えなければ。戦は先手必勝。機先を制した者が勝者となる」


 軍人らしい直接的な提言だった。


 しかしルシウスが首を振る。

 数多の戦を率いてきた彼には、現実的な問題の多さを実感していた。


 ゆえに対案を出す。

「何も全面戦争をしなくてもいいんじゃないかな?敵の中枢さえ見つけることが出来れば……」


「少数精鋭で奇襲をかけられる!」

 エレナが目を輝かせて続ける。

 ルシウスの戦略的な思考に、彼女が同意を示す。


「誰を倒せばいいのか分かれば、いいアイデアだと思うけど……」

 遥斗が考え込む。

 

 その時、シエルが恐る恐る手を挙げた。

 人見知りの彼女にとって、これほど多くの人前で発言するのは勇気がいることだったが勇気を振り絞る。


「な、なら、相手を先に探るのはどうっすか?」

「さすがシエルちゃん!天才だっち!」


 間髪入れずに、グランディスが立ち上がり叫んだ。


 マーガスも頷きながら、横から口を挟む。

「潜入捜査……か。悪くない。ここには冒険者も多い。怪しまれずに調査できる。でかしたぞ!チビ!褒めてやろう」


 その言葉に、シエルの眉がぴくりと動く。

「チビ……自分の方が年上っす……また焦がされたいっすか?」


 しかしマーガスの反応は余裕綽々といったところ。


「くくっ、俺を先日までの俺だと思うな……痛い目を見るぞ?」


 オリハルコンの力を得たマーガスには、確かな自信があった。

 全く使いこなせていないが。

 自身だけは売る程ある。


 その変化に、シエルは困惑する。

「や、やけに自信たっぷりっすね……」


 そんな中、ツクヨミだけが深く考え込んでいた。その表情を見かねたルシウスが声をかける。

「どうかした?」

 ツクヨミは顔を上げ、兄であるアマテラスと視線を交わした。


「先ほどの話、皆にしておいた方が良くない?」


 アマテラスも重々しく頷く。


「うむ。そうだな……皆こちらに来てくれ」


 アマテラスが立ち上がると、大会議室を後にする。

 その表情には深刻な何かが刻まれていた。

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