379話 魂を継ぐ者(後)
ザハルドは暫し考えるとグランディスに提案する。
「お主にデュランディスに所縁のあるアイテムを持っておるか?それがあれば、魂の移植が出来るやもしれんぞ」
「所縁のあるアイテム……?家にあったかな?」
グランディスが首をかしげる。
「そう言えばあんたの武器、父親から譲られたって言ってなかったっすか?」
「そうだっち!」
グランディスが慌ててデスペアを取り出す。
黒い刃が研究室の照明を反射し、不吉な光を放つ。
「これこれ!これだっち!デスペア!」
ザハルドがデスペアを受け取り、丹念に観察し始める。
魔力を流し内部構造に探りを入れると、難しい顔をしだした。
「むー……これは少々厄介ぢゃの」
「何か問題があるっすか?」
「うむ、デスペアには既に『オカート』が入っておる。追加で移植することは可能ぢゃが、デュランディスの残りの魂を、全てを移植するには器が足りん可能性があるのう」
グランディスの顔が曇る。
「じゃあ……ダメなのか……いや、ちょっと待つっち!」
グランディスが腕に装着していたディスチャージャーを外して差し出す。
「なら、こいつもおまけで付けるっち!持ってけドロボー、この商売上手め!」
「泥棒ではないわ!クソエルフが!ぢゃが……」
ザハルドの目が輝いた。
「こいつは……ただのブレスレットではないな?」
手に取って興味津々、調べ始める。
「これは『カガク』を応用した武器ぢゃ!ここは『オカート』の研究専門で、『カガク』を応用した武器はあまり見ることはない!そもそも『カガク』を使用した武器に『オカート』を入れるなど、前代未聞ぢゃ!」
「くそジジイ……使えそうか?」
「お前も研究材料にされたいのか?それより……全く結果の予想がつかん!最悪、デュランディスの魂だけ、消し飛んで終わる可能性もあるぞ?」
ザハルドの警告に、グランディスは軽く親指を立てて答えた。
「大丈夫!親父を信じてる!きっと何とかなるなる」
グランディスにいつもの調子が戻ってきている。
「よし!早速実験開始ぢゃ!」
***
ザハルドがデュランディスの隣の空容器に2つのアイテムを入れる。
そして容器に不思議な液体が注がれていく。
「ほぁ……」
シエルから息が漏れる。
液体は透明で粘度が高いわけでもないのに、デスペアとディスチャージャーが沈むことなく浮いている。
まるで重力を無視したような神秘的な光景。
「魂を保持する特殊な液体ぢゃ。これがなければ移植は不可能。イドの世界へ導かれてしまうでの」
デュランディス側の容器から管が接続される。
準備完了。
ザハルドが容器に備え付けられている、奇妙な機械を操作し始めた。
ブーン。
不思議な音を立てて装置が起動する。
「さて、いくぞ……」
スイッチを入れる、デュランディス側の液体が淡く光り始める。
「親父……」
グランディスが固唾を呑んで見守る中、デュランディスの体が少しずつ消え始めた。
体は粒子となり、吸い込まれていく。
それは管を通って、デスペアとディスチャージャーが入っている容器へと移動。
粒子がデスペアの周りを浮遊するが反応がない。
失敗かと思われたその時。
「見るっす!『デスペア』と「ディスチャージャー』が光ってるっす!」
2つのアイテムが、かつての主人の帰還に呼応するように輝き始める。
取り巻いていた粒子も呼応する様に、デスペアにゆっくりと吸収された。
魂の移植が開始された。
「いまぢゃ!」
ザハルドが出力を全開にした。
デュランディスの体は完全に粒子となり、武器の置かれている容器に全て満たされた。
順調に移植が進むが、デスペアの光が消える。
「おい!デスペアの光が消えたぞ?どうなってるっち!」
「飽和ぢゃ!あれ以上は魂が入らん!」
「でも魂大分残ってるぞ!何とかしろっち!」
「今さら何とも出来んわ!祈っとれ!」
依然ディスチャージャーは魂を取り込んでいる。
グランディスは必死に祈る。
やがて光が収まった。
「成功……しおった……!」
ザハルドが感嘆の声を上げる。
彼にとっても未知の領域の実験だった。
液体が排出され、2つの武器が容器の底に沈む。
ザハルドが確認しようと手を伸ばすが。
バチッ!
「うわっ!」
電撃が走り、ザハルドは慌てて手を引っ込めた。
「なんぢゃ……拒絶しておる……もしやデュランディスの意識が残って?まさか、こんな事は初めてぢゃ……」
グランディスはふらふらと、デスペアとディスチャージャーに近づく。
「危ないっす!気を付けるっす!」
シエルが叫ぶが、聞こえていない。
グランディスはそっと、2つの武器を抱きしめた。
今度は拒絶されない。
それどころか、優しい温かさを感じる。
まるで父親に抱きしめられているような……
「父さん!おかえりなさい!」
グランディスが叫ぶと同時に、デスペアとディスチャージャーが応えるように光を放った。
そして――魂の共鳴が始まった。
グランディスの体がほんのりと輝き、魔力が跳ね上がっていく。
それはアマテラスを彷彿とさせるものだった。
「すげーっす……」
シエルが見とれる。
グランディスの瞳に父親の面影が宿り、今までの見たことのないオーラが漂い始めていた。




