表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/455

37話 グラスウルフ

挿絵(By みてみん)

 3人は警戒しながら、ゆっくりと丘陵地帯を進んでいった。風に揺れる草の間から、時折小動物の気配が感じられる。遠くでは鳥のさえずりが聞こえ、のどかな雰囲気が漂っていた。しかし、その平和な空気の中にも、危険が潜んでいることを3人は感じていた。


 遥斗は常に周囲に気を配り、時折エレナとトムの様子を確認していた。エレナは緊張した面持ちで、手に持った魔力銃を強く握りしめている。トムは興奮気味で、目を輝かせながら辺りを見回していた。


 突然、風の向きが変わり、遥斗の鼻をかすかな獣の臭いが掠めた。彼は即座に手で合図を送り、3人は低い姿勢で身を隠した。心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、遥斗はゆっくりと草をかき分けた。


 そこには、予想通りグラスウルフが5匹ほど潜んでいた。背中の草のような毛並みが風に揺れ、鋭い牙が時折日光に反射して光る。幸運にも、こちらが先に視認できている。遥斗は冷静さを保ちつつも、内心では緊張が高まるのを感じていた。


 彼は指文字とアイコンタクトで、エレナとトムに作戦を伝えた。エレナは小さく頷き、決意の表情を見せる。トムは少し緊張した様子だったが、遥斗の指示に従う意思を示した。


 遥斗が指で3、2、1とカウントダウンする。その間、時間が遅く流れているように感じられた。3人の呼吸が徐々に合っていく。


 瞬間、草むらから3人が同時に飛び出した。風を切る音と共に、彼らは横一列に並ぶ。遥斗の頭の中では、ゲームでの経験が走馬灯のように駆け巡る。


「ファイア!」


 3つの声が重なり、魔力銃の発射音が丘陵地帯に響き渡った。「パン、パン、パン!」その音は、彼らの心臓の鼓動とシンクロしているかのようだった。


 遥斗とエレナの弾は、図らずも同じグラスウルフに命中した。モンスターの体が光に包まれ、消滅していく様子に、2人は一瞬驚きの表情を見せた。一方、トムは別のグラスウルフに狙いを定め、見事に命中させた。彼の顔に喜びの表情が浮かぶ。


 弾は予想以上の威力でモンスターを貫通し、2体のグラスウルフが光となって消えた。残りの3匹は一瞬の混乱の後、獰猛な目つきで3人を見据えた。


 次の瞬間、残ったグラスウルフたちが反応し、獣特有の俊敏さで3人に向かって突進してきた。草を踏み駆け抜ける音と、低い唸り声が聞こえる。


「ファイア!」


 再び遥斗とエレナの発射音が響く。2つの光線が空気を切り裂き、グラスウルフに命中した。さらに2匹のモンスターが消滅し、光の粒子が風に舞う。


 グラスウルフ迫力に押され、トムは焦りの色を隠せず、慌てて3発連射した。しかし、その焦りが狙いを妨げ、全ての弾が空をきってしまう。


「し、しまった!」彼の声には後悔の色が滲んでいた。


 最後の1匹のグラスウルフが、トムに向かって牙を剥いて突進してくる。トムは慌てて引き金を引くが、空っぽのシリンダーがカチカチと虚しい音を立てるだけだ。彼の顔から血の気が引いていく。


「うわっ!」トムは弾切れで絶体絶命の状況に陥った。彼の目に恐怖の色が宿る。


 その瞬間、遥斗の冷静な声が響いた。「ファイア!」


 遥斗の魔力銃から放たれた弾が、トムに迫っていたグラスウルフを貫いた。モンスターの体が光に包まれ、風に舞う粒子となって消えていく。最後のグラスウルフも姿を消し、辺りに静寂が戻った。


 トムは安堵の息をつきながら、感謝の言葉を口にしようとした。「ありが...」


 しかし、その言葉は遥斗の鋭い指示で遮られた。


「リロード!」


 遥斗は素早く弾を装填した。その動作は無駄がなく、まるで体が自然と動いているかのようだった。トムもあわてて装填作業を行う。彼の手は少し震えていたが、何とか弾を込めることができた。


 3人は警戒しながら、あたりを見回した。風に揺れる草の音だけが聞こえる。敵の気配はない。徐々に緊張が解けていく中、突然の変化が起こった。

 エレナとトムの体が赤い光に包まれた。


「レベルアップしたわ!」

 エレナが嬉しそうに声を上げる。彼女の顔には達成感と喜びが溢れていた。


 エレナの声に続いて、トムも興奮気味に叫んだ。

「僕も上がったよ!」彼の目は喜びで輝いていた。


 遥斗は笑顔で2人を見つめた。その表情には、仲間の成長を喜ぶ気持ちと、無事に戦闘を乗り越えた安堵感が混ざっていた。

「お疲れさま。2人ともよく頑張ったね」


 エレナとトムは、まるで糸が切れたかのように地面に腰を下ろした。緊張から解放された彼らの顔には、疲労と達成感が入り混じっていた。風が草原を撫でていき、その心地よい音が3人を包み込む。


 遥斗は立ったまま、周囲を警戒しながら軽く反省会を始めた。

「みんな、よく戦えたと思う。でも、いくつか注意点があるんだ」

 彼の声は優しかったが、その目は真剣だった。


 エレナとトムは息を整えながらも、真剣な表情で遥斗の言葉に耳を傾けた。


「まず、『ファイア』を叫ぶ癖をつけよう。これは安全のためだけじゃなく、仲間に合図を送る意味もあるんだ」遥斗は丁寧に説明した。

「次に、リロードを忘れずに。あとトム、危機が迫ったら棒立ちにならないでね」


 エレナとトムは少ししょんぼりとした表情を見せた。彼らの顔には、自分たちの未熟さを痛感した様子が浮かんでいた。


 遥斗はそんな2人を見て、優しく言った。

「でも、気にしすぎないで。初めは誰でも難しいものだから。慣れればみんなできるようになるよ」

 彼の言葉に、2人の表情が少し和らいだ。


 エレナが不思議そうに遥斗を見た。彼女の目には、尊敬と好奇心が混ざっていた。

「でも、遥斗くんはどうしてそんなに冷静にできるの?」


 遥斗は一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。

「アリアさんとの特訓で慣れたんだ。彼女は厳しい先生だったからね」

 彼の頭の中では、ゲームでの経験を語るわけにはいかないという思いが駆け巡った。


 2人は感心した様子で頷いた。彼らの目には、遥斗への尊敬の色が深まっていた。


「ちょっと休憩しよう」遥斗が提案した。

 3人は小さな丘の上に腰を下ろし、遠くに広がる景色を眺めた。


 休憩中、遥斗は魔力銃の耐久度が気になり、アイテム鑑定をしてみた。すると、まるで目の前に浮かび上がるように、アイテムの詳細が表示された。耐久度も確認できた。

 次に弾丸も鑑定してみる。これも同じように成功した。

(鑑定できたものは登録できるのかな?)

 遥斗は疑問に思い、試しに登録してみた。彼の心臓が高鳴る。すると、予想外のことに、魔力銃も弾丸も登録できてしまった。


「えっ!?」遥斗は驚きの声を上げた。その声に、エレナとトムが不思議そうな顔を向ける。


(ポーション以外も登録できるんだ!)


 遥斗の興奮を見て、エレナは不思議に思い首を傾げた。その間、トムはグラスウルフのドロップアイテム(グラスウルフの牙)をせっせと集めていた。


 遥斗は興奮して、こっそり「ポップ」を唱え、魔力銃と弾丸を生成しようとした。しかし、何も生成できない。

(そうか、素材がないんだから当たり前か...)

 遥斗はがっかりしながらも、新たな可能性に心を躍らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ