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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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361話 母の愛


 バハムスの背中に乗った一行が、闇の境界に到達した。


 目の前に広がる闇の巨大さに、一同が言葉を失う。

 世界の十分の一を覆い尽くした闇が、まるで生き物のように蠢いている。


「こんな……以前見た時とは……比べ物にならない……」


 シューデュディの声は震えていた。

 かつて見た穴とは、もはや次元が違う規模だった。


「まるで深淵そのものが這い出してきたようだな。これが終焉の光景か」

 竜王ですら、その異常さに戦慄を禁じ得ない。


「前は穴だってわかったのに、もう全容が見えないわ……」


 セレシュルムが全体を見渡す。

 闇は地平線の向こうまで続き、空をも飲み込んでいる。


 シューデュディが膝をつく。


「やはり……もう手の施しようがないではないか」


 心が完全に折れてしまった。

 この世界の終末を前に、もはや抗う気力も残っていない。


 しかし、加奈の闘志だけは衰えない。


「白狼があれば突入に問題無し。でも長時間は無理ね。空気も圧力もない。完全に真空、いえ、これはもはや宇宙空間ね」


 あくまでも冷静に分析を行う。

 解決策を模索し続ける。

 諦めの、という言葉はない。


「まずは自重で崩壊しないようにするのが最優先か。次に闇を拡大させない方法を考えないと。でも回復が先か……」

 白狼のバイザーに表示されるデータを確認しながら続ける。

 論理的な手順を頭の中で整理していく。


「物質がイドに蓄積されているなら、イドから物質を取り出せばいいんだ。これは実現可能」


 しかし、この方法には問題があった。


「でも障害は魔力消費量。取り出す量より消費する量の方が多いから」


 一瞬希望が見えたかに思えた。

 だが、シューデュディが「そうか、それでは意味がないな」と落胆する。


 加奈が「大丈夫……解決策を考えてあるから。でも……」と言葉を濁した。


 その時だった。

 ハルカが突然加奈にしがみつき、大泣きし始める。


「お母様!だめぇ!」

 加奈の心を視てしまったハルカが、半狂乱になっていた。

「お母様のぉ考えてること、全部ぅわかっちゃった!そんなのだめぇ!だめなのぉ!」


 涙を流しながら必死に加奈を引き留める少女。


 加奈がハルカの頭を優しく撫でる。


「ハルカは可愛いわね……本当に。まったくもう……」


(このまま一緒に死ぬのも悪くないのかも……)

 内心考える加奈。


 しかし、幼い頃の遥斗の笑顔が脳裏に浮かんだ。

 無邪気に笑う息子の姿。

 まだ小さかった頃の、温かい記憶。

 

 それがハルカに重なった。

 

「遥斗……」

 小さく呟き、決意を固める。


 シューデュディに向き直り、深々と頭を下げた。


「ハルカのことをお願いします。不出来な母で申し訳ありませんでした」


 セレシュルムが「加奈、まさか……」と青ざめる。


 加奈がバハムスにも深々と礼を述べる。


「陛下、あなたに来ていただかなければ、本当に世界は終わっていました。ですが、ギリギリ何とかなりそうです」


 感謝を込めた別れの挨拶。


「やめろ!一人で逝くなど許さん!」


 シューデュディが引き留めようとする。

 加奈がシューデュディを強く抱きしめた。


「ありがとう。あなたに会えて良かった……それだけで……私の人生は報われた」


 涙を浮かべながら告げる。


「後の事は任せます!この世界を救って!」


 最後の言葉。


 白狼を最大出力にして、一人で闇の中へ飛び込む加奈。


「加奈ぁぁぁぁあああ!」


 シューデュディが絶叫する。


「ミズチ!お願い!お母様を追って!」


 ハルカが必死にミズチを闇に飛ばした。



***



 ヤタノカガミに真っ暗な何もない空間が映し出される。


 加奈が中心部に向かって進む様子が映る。

 白狼の光だけが、無の空間を照らしていた。


 加奈がディスプレイバイザーで情報を確認する。


「……ここが中心部ね」


 呟きながら、最後の作業を開始する。


「ゴッド・クリエイト!」


 叫びと共に、巨大な機械を創造した。

 惑星の崩壊を防ぐフィールド発生器。


「お願い!星を!皆を救って!」


 フィールド発生器から無数のビットが射出される。

 ビットは超高速で移動し、闇の境界で停止する。

 そして、それぞれが力場を形成し、惑星崩壊を防ぐシステムが起動した。


「これで第一段階クリア……」


 ひとまず安堵の表情を見せる加奈。


 ここからが正念場だ。

 進化の実を取り出し、分析結果を確認する。


「これは……自分が望んだ姿に進化できる奇跡のアイテム。例えそれが進化と呼べなくても……」


 最後の希望を手に、決意を固めた。

 しかし、その手は僅かに震えている。


 加奈がバイザーを解放し、何もない空間に顔を晒す。


「うっ、苦しい……」


 真空の苦痛に耐えながら、進化の実を口に運ぶ。


 シューデュディたちが鏡でその様子を見て「加奈!」と叫ぶ。


 実を口にした加奈の体が光に包まれ、急速に変化を始める。

 音は聞こえない。

 しかしハルカだけは加奈の心が視える。

 まるで加奈とリンクしたかのように「痛い!痛いよぉ!」と半狂乱になった。


 人の形から異形のモノへ。

 者ではなく物。

 それは植物。

 人が植物へと変貌を遂げていく。


「これで……何もない空間でも……存在できる……永遠に……」


 激痛を耐え、必死に歯を食いしばる加奈。


 巨大な樹の姿になり、フィールド発生器を体内に取り込んだ。


「システムエネルギーは私自身が……供給する!」


 その間も、全身の骨が砕け、肉は千切れ、皮膚が変容していく。

 それでも遥斗の顔を思い出し耐え続ける。


 最初は激痛、そして無限の苦しみ、恐怖。

 最後には意識が希薄になっていった。


 ハルカがその感覚を全てを共有し「お母様ぁ!お母様ぁ!苦しいよぅ!」と泣き叫ぶ。


 加奈が最後の力でイドの奥深くに意識を向けた。


 そこで見たものは——


 加奈の人として、最後の意識がハルカに伝わる。


 ハルカが涙を流しながら呟いた。


「クロノス……」


 感情を失った少女の口から、言葉が漏れた。


 闇の中心で、加奈は巨大な樹となった。


 世界を支える柱として、彼女は存在し続ける。

 これから先何百年と。


 母の愛が、奇跡を生み出した。

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