36話 翠緑の丘陵
研究所の中で、ルシウスは遥斗に魔力銃の感想を尋ねた。
「どうだった、遥斗くん?使い心地は?」
遥斗は少し考えてから答えた。
「そうですね...魔力は多少必要ですが、予想以上に反動がなくて使いやすいです。それに、狙い通りに当たるのがすごいですね」
ルシウスは満足げに頷いた。
「ほう、そうか。それは良かった。よし、それなら次のステップに進もう。みんなに実戦で試してもらおうかな?」
3人は驚いた表情を見せる。
「え?実戦って...」
エレナが不安そうに言った。
「おじさま、さすがにそれはちょっと...」
遥斗も眉をひそめた。
「確かに。まだ十分なテストもしていないのに...」
ルシウスは説明を続けた。
「いやいや、心配することはない。君たちの安全は十分に考慮している。それに、これは重要な実験なんだ。魔力銃でもレベルが上がるか確認してほしいんだよ。それに、耐久性のテストも必要でね」
「でも、それなら安全な場所で...」
エレナは納得できない様子で言った。
しかし、トムが目を輝かせていた。
「待ってよ、エレナ。おもしろそうじゃない?新しい武器を試せるなんて、滅多にないチャンスだよ。それに、レベルも上がるかもしれないんだ。やってみようよ!」
やはりどこの世界でも銃は男の子を虜にするらしい。
「確かに、実戦での効果を確認するのは重要かもしれません。でも、安全面は大丈夫なんですか、ルシウスさん?」
遥斗もトムのあまりのはしゃぎように仕方なく同意する。
「もちろんだ。万が一の時のために、即座に帰還できる方法も用意してある。心配はいらないよ」
結局、3人はルシウスの言う通りするとに決めた。
ルシウスは遥斗に転移のペンダントを渡した。遥斗は初めてそれに触れ、不思議そうに眺めた。
「これは...アリアさんが使っていたものと同じですね」
「よく覚えていたね」ルシウスが感心した様子で言った。
「そう、同じものだ。魔法陣の上で魔力を流せば自動的に転移するぞ。使い方は簡単だが、慎重に扱うんだ」
魔力銃と弾丸を3人に渡しながら、ルシウスは注意点を伝えた。
「弾丸は十分に用意したが、無限ではないからな。弾切れには気をつけろ。それと、この銃には耐久力があって、使用を続けるといずれ壊れる。そこも確認してほしい」
「何発くらい撃てるんでしょうか?」遥斗が尋ねた。
ルシウスはニヤリと笑った。
「それを今から確かめるんじゃないか。データが欲しいんだ。まあ、いざとなったら逃げるんだぞ。それと、モンスターの素材回収もよろしく」
ルシウスが魔法陣に魔力を流し、目的地を設定する。
「目的地は翠緑の丘陵地帯だ。適度に危険で、かつ君たちのレベルに合ったモンスターがいる場所を選んだ」
「ちょっと、おじさま...」
エレナが不安そうに言いかけた。
しかし、その言葉は魔法陣の起動と共に消えた。
「いってらっしゃい。気をつけるんだぞ」
ルシウスの声が届くことなく、3人の視界が歪んだ。
気が付くと、彼らは翠緑の丘陵地帯にいた。周囲には緑豊かな草原が広がり、遠くには小さな森が見える。清々しい風が3人の髪を揺らす。
エレナが怒りの言葉を吐く。
「もう!おじさまったら...こんな所にいきなり送り込むなんて!」
トムは興奮気味に周囲を見回している。
「すごいな...転移、初めての経験だ」
「みんな、注意して。この辺りには主に3種類のモンスターがいるはず。まず、グラスウルフ。草原を素早く駆け抜ける狼みたいな生き物で、背中に草の毛が生えてるんだ。体当たりと噛みつきに気をつけて」
「次にサップサーペント。これは木に擬態する大きな蛇で、体が樹液で覆われてるんだ。絡みつきと毒液の噴射が厄介」
「最後がストーンタートル。岩みたいに固い甲羅を持つ巨大な亀。甲羅での体当たりと、岩を打ち出してくるらしい。この3種類がメインのモンスターだ」
遥斗は本で読んだ情報を思い出し、モンスターの特徴と名前を共有した。
エレナとトムは真剣な表情で聞いている。
トムが質問した。「レベルはどのくらいなんだ?」
遥斗は答えた。
「グラスウルフが15から20、サップサーペントが20から25、ストーンタートルが25から30くらいだったはず」
「私たちのレベルより高いじゃない...大丈夫かしら」
エレナが不安そうに言った。
遥斗は励ますように言った。
「大丈夫だよ。僕たちには魔力銃があるし、それにみんなの力を合わせれば、きっと対処できる」
そして、遥斗は銃の使い方とフォーメーションを指示し始めた。
「まず、基本的な事を確認しよう。横一列に並んで戦う。お互いをカバーしやすいからね。それと、魔力銃を使う時は必ず『ファイア』と声をかけてから引き金を引くこと」
「了解。でも、なぜ声をかける必要があるんだ?」
遥斗は説明を続けた。
「フレンドリーファイアを避けるためさ。つまり、味方を誤って撃っちゃダメ。それと、シリンダーには4発まで装填できる作りになっているみたい。今何発残っているか常に覚えておいて。3発撃ったらリロードしよう。これ、とても重要だからね」
「3発撃ったら必ずリロード...覚えておくわ」
「そうそう。あと、銃の耐久性のことも忘れずに。いつ壊れるか分からないから、おかしな動きや音がしたら即座に使用を中止して」
遥斗は真剣な表情で続けた。
3人は緊張しながらも、冒険への期待を胸に秘め、丘陵地帯の探索を始めた。
遥斗は心の中でつぶやいた。
(ゲームをやっていてよかった...でも、これは絶対言えないよね)
風に揺れる草の向こうに、何かの影が見えた気がする。3人は警戒しながら、ゆっくりと前進を始めた。