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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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341話 自由という名の権利

 加奈への講義は、いつの間にか立場が逆転していた。

 最初はエルフの学者たちから世界の仕組みを教わっていたのに、今では加奈が講師となっていた。

 ソラリオンの学者や知識人が、学びに来るようになっている。


 大きな講義室に沢山のエルフたちが集まってくる光景は、もはや日常と言って差し支えない。

 美しいエルフたちが真剣な表情で席に着き、加奈の言葉に耳を傾ける。


 加奈が教えるのは、科学の基礎や社会制度について。

 最初は緊張していたが、今では堂々と教壇に立っていた。


 エルフたちの真剣な眼差しと熱心なメモ取りに励まされ、加奈自身も次第に自信を持つようになった。

 質問も活発に飛び交い、学問的な議論が盛り上がる。


 加奈自身も教えることで新たな発見がある。

 この世界の人たちに説明するために、当たり前だと思っていた概念を見直すことになる。


 その結果、より深い理解に到達することも多かった。



 特に大きな反響を呼んだのは、加奈が語った人権の概念だった。


「誰しもは自由に生きる権利があり平等なんです」


 その言葉に、講義室がざわめいた。


「自由意志こそが人の基本です」


 加奈が続けると、多くのエルフが感銘を受けた様子を見せる。

 しかし同時に、困惑の表情も浮かべていた。


 この世界では神の与えた役割を全うするのが絶対の原則だった。

 それを組み込んだ階級制度は、種族を問わず当たり前の社会構造として受け入れられている。


 命は消費するもの、数で数えるものという価値観が根強く、死を悼むという習慣さえ希薄な文化だった。


 加奈の思想は、エルフたちの世界観を根底から揺るがすものだったのだ。


「自分で人生を決められるのですか?神の定めた道ではなく、自分の意志で?」

 白髭の学者が驚愕しながら問いかける。


 その質問に、加奈が頷く。


「はい。誰もが自分の人生を、自分で選ぶ権利があります。種族や職業、スキルも個性でしかありません。絶対ではないのです。例え苦手としてる事も、それを諦める理由にはなりません」


 講義室に静寂が流れた。

 あまりにも革新的な思想に、エルフたちは言葉を失っている。


 エルフは職業を持てないため、人族に対してコンプレックスを抱いていた。

 その代わりに長寿を授かっているのだと、無理やり納得していた部分がある。


 しかし最近、モンスターの出現が多くなり、全ての種族の平均レベルも上がっていた。

 人族の台頭が目覚ましく、エルフ族は脅威にさらされている。


 それさえ宿命と諦めていたエルフたち。

 しかし、生き方は自分で決めて良いという思想。

 そして神の定めは絶対ではないという発言。

 それは衝撃だった。


「しかし、現実には魔法やスキルでしか得られないものもある。その格差はどう解決するのか?」


 若いエルフの学者が質問する。


「科学を使えば、自分能力以上のことができると実験で証明されました。それを応用すれば誰でも同じ結果が出せます」


 その通りだった。

 レンズを使った実験は、魔法に頼らない新しい可能性を示していた。


「努力や工夫次第で、制約を超えることができるかもしれません」


 加奈が答える。


 エルフたちの瞳に、希望の光が宿った。



***



 加奈の講義は毎回満席の盛況ぶりとなっている。

 立ち見が出るほどの人気で、エルフたちの知的好奇心を大いに刺激していた。


 その講義には、ガリムデュス兄妹も必ず参加していた。


 シューテュディは真剣にメモを取りながら聞いている。

 王子としての立場でありながら、一学生として熱心に学ぶ姿勢が印象的だった。


 セレシュルムも興味深そうに聞き入っていた。

 最初は物珍しさから来ていたようだが、今では本当に興味を持って参加している。


 講義が終わると、セレシュルムが加奈に纏わりついてくる。


「お疲れ!加奈!」


 いつの間にか加奈にべったりと懐くようになっていた少女エルフ。

 最初の失礼な態度はどこへやら、今では甘えるような口調で話しかけてくる。


「ねぇー、この後お話を聞かせてよ!」


 セレシュルムがせがむ。


 加奈は童話やおとぎ話、神話に至るまで色々聞かせてあげている。

 エルフの国には娯楽が存在しないらしく、物語に夢中になっているセレシュルム。


 加奈も悪い気はしないが、ちょっと困っている。

 複雑な心境だった。

 まるで、やんちゃな妹ができたような不思議な感覚。


 セレシュルムの純粋な好奇心と、屈託のない笑顔に心が和む。


 そこにコホンと咳払いをして、シューデュディが割り込んできた。


「佐倉殿を困らせてはいかん」

「お兄様だってあんなに楽しみにしてたのにズルい!ズルい!」


 セレシュルムが膨れる。


 その言葉に、シューテュディがワタワタと慌てている。

 王子らしからぬ動揺ぶり。

 その光景がおかしくなり、加奈が笑いを堪えきれない。


「ふふっ、それじゃ部屋に戻ってお話しましょうか?」


 加奈が提案すると、二人とも目を輝かせて喜んだ。


「それでは、ニホンの神話をまた聞かせて欲しいのだが!」

 シューテュディが思わず口走ってしまう。

 セレシュルムが自分よりも図々しい兄に呆れている表情を浮かべた。


 加奈はこんな風に友人と過ごした経験がなかった。

 日本では味わえなかった人間関係の豊かさ。

 エルフたちの純粋さと優しさに心が温まる。


 まるで本当の家族のような親密さに包まれ、孤独だった日本での生活とは正反対の充実感を味わっていた。


 しかし、ふと遥斗のことを思い出すと、胸が締め付けられる。


 あれから半年。

 もう秋になっている頃。

 遥斗は元気に幼稚園に通っているだろうか。


 元の世界に帰る手掛かりは、皆目見当がついていない。


 息子への愛情と、帰りたいという気持ちは変わらない。

 しかし、この世界での生活に、愛着が湧いている複雑な心境だった。


 不安が、胸の奥に重くのしかかる。


(遥斗……ママはここで頑張ってるよ)

 心の中で息子に語りかけた。

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