339話 ゴッド・クリエイト
「どうだ?言語理解の魔法は効いているか?」
壮年のエルフがさらに問いかける。
その声が、確かに日本語として頭に響いている。
加奈が驚いて頭をぶんぶんと振った。
「分かります!効いてます!聞こえてます!」
興奮のあまり声が上ずる。
まるで夢でも見ているかのような、信じられない体験だった。
壮年エルフが満足そうに頷く。
「魔法で言葉が理解できるなんて……」
加奈が感動に震える。
これまでジェスチャーと表情だけでコミュニケーションを取っていたのが、嘘のようだった。
意思疎通ができる喜びに胸が熱くなる。
この世界に来てから、ずっと一人だった。
言葉の壁がどれほど孤独感を深めていたか、今になって実感する。
自分を救ってくれたエルフも、安堵の表情を見せていた。
彼もまた、加奈と話したいと思ってくれていたのだろう。
言葉の壁がなくなったことで、希望が湧いてくる。
(これで色々聞ける!情報があれば!)
加奈が期待を抱く。
この世界のこと、元の世界に帰る方法のこと。
息子の遥斗に会うための手がかりを、少しは掴めるかもしれない。
壮年エルフが玉座に戻り、マントを翻して優雅に席に座った。
「我はエルフの国『ソラリオン』の王、オルミレイアス・ガリムデュスである」
その威厳ある声と存在感に、加奈が圧倒される。
まさに王の風格を備えた人物。
金の髪に翡翠色の瞳、長い年月を生きてきた深い知性が宿っている。
「良く無事に来られた、異世界人の娘よ」
その言葉に加奈が驚愕する。
「異世界のことを知っているのですか?」
加奈が身を乗り出す。
その瞬間、護衛のエルフたちが警戒し、武器に手をかけた。
剣の柄に手を置き、いつでも抜けるような構えを取る。
王への無礼な態度と受け取られたのだろう。
「よい」
王が片手で制する。
その一言で、緊張が一瞬で解ける玉座の間。
護衛たちも手を武器から離し、再び直立不動の姿勢に戻った。
「稀に異世界の者が迷い込むことがあるのだ」
オルミレイアス王が説明する。
「詳しくは分からないが、そのような事例は存在する」
続けて語る王の表情に、深い憂いが浮かんでいた。
「最近では何故か頻発していてな」
その情報に加奈が興味を示す。
「私の他にも異世界から来た人がいるのですか?」
「ああ。だが、この国にはいない」
王が即座に答える。
「それでは、私が助かったのは偶然?」
加奈が尋ねる。
偶然なら、そんな奇跡そう起きるはずはない。
ならば、目の前の人物が何か関わっているのではないか、と推察するのは自然な流れだった。
しかし王が静かに首を振った。
「私には未来を垣間見る力がある。おぼろげだが。」
予想外の言葉に、加奈の心臓が跳ね上がる。
「あの時、あの場所に異世界人が来ることが分かっていたのだ。そこで王子を保護に向かわせた」
救出の経緯を語る王。
全ては必然だったことに加奈が驚く。
何かの運命なのか。
それとも、この世界に導かれたのか。
隣にいたエルフが立ち上がり、優雅に一礼した。
「ソラリオン第一王子、シューテュディ・ガリムデュスです。どうぞよろしく」
穏やかな笑顔を向けながら挨拶する王子。
父王に似た気品があるが、より親しみやすい雰囲気を持っている。
加奈が感謝を込めて頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございました。本当に命拾いしました」
心の底からの感謝の言葉だった。
この人がいなければ、モンスターに惨殺されるか、森で野垂れ死んでいただろう。
「王子様。初めて会話ができて光栄です」
「ふふっ、こちらこそ。しばらく一緒にいたのに、話をするのは初めてなんて変な気分だ」
その優しい口調に、加奈の緊張が少しほぐれる。
「名前を聞かせてもらっても構わないかい?」
「佐倉加奈と申します」
加奈が自己紹介する。
この世界で初めて、自分の名を名乗った。
元の世界を代表しているようで、何とも言えない不思議な気分だった。
意を決して、加奈が懇願する。
「王様、無礼を承知でお願いします。私は偶然この世界に来てしまったのです。元の世界に帰していただけませんか?」
その瞬間、王の表情が急に曇った。
先ほどまでの穏やかな雰囲気が一変する。
「残念だが、帰す方法は分からない」
王が厳しい声で答える。
加奈の希望が一瞬で打ち砕かれた。
やはり、そう簡単にはいかないのか。
「それに、帰ってもらっては困る」
王が続ける。
加奈が驚いて立ち上がった。
「どうして!どうしてですか!」
思わず声を荒らげてしまう。
息子に会いたい一心で、礼儀を忘れてしまった。
王が重い口を開き、理由を説明し始める。
「異世界人はこの世界に来ると特別な力が与えられる。その力は世界を救うことも、破滅させることもできる。今、世界の未来が揺らいでいるように我には見えるのだ。破滅か存続か……そのカギを握るのがお前なのだ」
恐ろしい言葉に、加奈の血の気が引いた。
王が加奈を見つめる。
その視線に、鋭い重圧が込められている。
「そんな……勘違いです。私は唯の人間です。とても、そんな力があるとは思えません」
加奈は普通の人間としての自覚がある。
ジャーナリストとして取材をしていただけの、平凡な主婦に過ぎない。
過去も現在も、特別な力が発揮された事などない。
ドクン!
しかし、内側から何かの力を感じた。
心の奥底で、蠢いているような感覚。
ドクン!
「えっ、な、何これ……」
加奈が呟く。
頭の中に突然言葉が響き始めた。
『お前の力は創造の力。イメージせよ。全ては望むままに……』
誰の声なのか分からない。
しかし、確実に頭の中に響いている。
加奈の体に異変が起こり始めた。
黄金の魔力が天より降り注ぐ。
玉座の間全体が、神々しい光に包まれる。
まるで神の降臨でも起こったかのような、荘厳な光景だった。
右手に魔力が収束し、光を放つ。
手のひらが熱くなり、何かが生まれようとしている感覚に包まれる。
異常事態を察知した側近エルフが即座に叫ぶ。
「オルミレイアス王、危険です!お下がりください!」
庇うように前に出る。
「下郎め!王に指一本も触れさせん!」
剣を抜きながら叫び、加奈に斬りかかる。
護衛としての本能が、未知の力を敵と判断したのだ。
「やめろ!」
王が叫ぶ。
しかし、側近は止まらない。
王を守ることが最優先。
例え、王の命に背くとしても。
剣が加奈に向かって振り下ろされる。
冷たい刃が、首筋を狙って迫ってくる。
その瞬間——
「ゴッド・クリエイト!」
加奈が叫んだ。
剣がぶつかる直前、加奈の体を何かが覆い始める。
光る物質が全身を包み込み、鎧のような形を成していく。
剣が鎧に当たり、逆に弾かれてしまった。
カキィィィィン
金属音が玉座の間に響く。
側近エルフが驚愕し、後ずさった。
「な、何だこれは……」
よく見ると、それは鎧ではなく未来的なスーツだった。
滑らかな曲線を描く装甲に、赤く光る線が走っている。
アニメで言えばパワードスーツの完成。
SF映画から抜け出してきたような、洗練されたデザイン。
加奈のイメージを形に変える究極のスキル。
「ゴッド・クリエイト」の力が初めて発動した瞬間だった。
玉座の間に神の魔力が満ちる。
全員が息を呑み、この奇跡の光景を見つめていた。
加奈自身も、自分の身に起こった変化に困惑している。
これが、異世界人に与えられる特別な力なのか。
全てはここから始まった。
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