321話 血の味
サンクチュアリを装備した瞬間、遥斗の全身から更なる光のオーラが立ち上った。
シュトルムバッハーとサンクチュアリ——二つの聖剣が呼応し合い、強烈な魔力の渦を生み出す。
ステータス強化効果が重なり合い、遥斗の能力値が飛躍的に向上していく。
「アイテム理解」スキルにより、武器装備効果が通常の2倍に増幅されているのだ。
遥斗が二刀を構え直す。
右手にシュトルムバッハー、左手にサンクチュアリ。
その佇まいは、伝説の剣聖を彷彿とさせる。
「二刀流だと?あの少年、そんな技術があるのか?」
観戦者たちが驚愕の声を上げる。
ブリードが解説した。
「二刀流は高難度の剣スキル。扱える職業は限られている」
「しかも片手でシュトルムバッハーを操るなど……並大抵の技量では不可能だ」
一方、マーガスは自信に満ちた表情で遥斗を見つめていた。
彼自身も天賦の才で、二刀流を独自に習得した経験がある。
しかし、遥斗には自分以上の可能性を感じていたのだ。
「付け焼刃でどこまで出来る?」
言葉とは裏腹に、アマテラスの瞳には先ほどまでの余裕はなかった。
***
時は少し遡る。仲間たちとの作戦会議の中。
「痛くないから大丈夫です」
「うわっ気持ちわりー」
遥斗がアリアの腕にフェイトシェイバーを突き立てていた。
その刃にはアリアの魂が転写される。
短剣に魔力を流すと、淡い光となって魂が浮かびあがった。
「職魂」だ。
職魂には、その人の職業補正、スキル、魔法、経験、知識が刻まれている。
「エレナ、お願い」
遥斗が振り返ると、エレナが錬金術の準備を整えていた。
「アルケミック!」
エレナが抽出された「職魂」と「ポーションだったもの」を素材に、特殊なポーションを錬成する。
「ソードマスターのポーション」、それは一時的に職業を付与する奇跡の薬。
遥斗がそれを鑑定後、飲み干した。
ソードマスターの職業を一時的に獲得する。
遥斗はすでに「神子(目)のポーション」をエーデルガッシュから作成し使用していた。
「シエル、魔力増幅」
「はいっす!」
シエルが呪文を唱え、遥斗の魔力を増強する。
さらに、シエルからも「魔術師(風)」のポーションを生成し、それも飲む。
結果として遥斗は——
アイテム士、神子、ソードマスター、武道家、魔術師。
5つの職業を同時に保有することとなった。
「ポップ!」
エーデルガッシュとアリアの職業を素材に「神子(目)のポーション」、「ソードマスターのポーション」を生成。
追加で能力強化を行う。
「ゴッドアイが……発動していない……」
「なんだこりゃあ?なんか調子が悪いぞ!」
エーデルガッシュとアリアは能力減退に困惑していた。
「みなさん、師匠のために我慢して欲しいっす……時間が経過すれば元に戻るっすから」
シエルが申し訳なさそうな表情を見せる。
5つの職業、ステータス上昇のポーション、装備アイテム効果。
これらの相乗効果により、アマテラスに匹敵する戦闘力を実現していたのだ。
***
サンクチュアリの装備効果を得て、遥斗が初めて攻勢に出る。
「エアリアル・カリバー!」
「烈風剣・空破!」
風魔法を発動しながら、同時にアリアの必殺技を二刀で放つ。
十字に交差する斬撃と嵐の刃がアマテラスに襲いかかった。
アマテラスは、華麗に身を翻して回避。
攻撃直後の遥斗目掛け、瞬時に接近する。
「竜牙脚!」
しかし、遥斗は攻撃直後でも隙は見せない。
武道家スキルの蹴り技で迎撃した。
龍の牙のように鋭い蹴りが、アマテラスの顎を掠める。
アマテラスが態勢を崩しながらも、クサナギで反撃の一閃を放つ。
しかし、遥斗は神子のスキル「ゴッドアイ」で攻撃を見切り、サンクチュアリで防御。
金属同士がぶつかり合う音が響く中、二人は距離を取った。
「ゲイルバインド!」
遥斗が魔術師のスキルで、風の楔を打ち込む。
動きを封じて接近し、アリアの技「月光剣・幻影!」を発動する。
二刀が舞い踊り、無数の斬撃がアマテラスを包囲した。
「ふんっ!」
アマテラスが気合だけで、風の鎖を引きちぎる。
そして、クサナギで遥斗の斬撃を全力で防御。
ついに、太陽神が完全防戦に回らされた瞬間だった。
クサナギを縦横無尽に操り、遥斗の攻撃を次々と受け流していく。
しかし、5つの職業の技を駆使する遥斗の攻撃は、予測困難だった。
「ストームブレード!」
魔術師のスキルで風の刃を生成。
アマテラスの足場を狙って、魔法を放つ。
同時に「氷霧剣・絶華!」で斬り付けるが、アマテラスは空中に跳躍して回避。
しかし、遥斗は既に次の攻撃を準備していた。
「ブレスオブゼファー!」
空中のアマテラスに風の壁を放ち、強制的に落下させる。
着地の瞬間を狙って「幻鳳脚!」で追撃。
アマテラスが必死にクサナギで受け止めるが、その勢いで後退を余儀なくされた。
「遥斗が……アマテラスと互角?いや、むしろ……」
観戦者たちが信じられない光景に釘付けになる。
「そんな……アマテラス様が……」
クロノス教団の兵士たちも動揺し始める。
絶対だと信じていた太陽神が、人間の少年に押されているのだから無理もない。
ツクヨミも心配そうに戦いを見つめる。
兄の劣勢を目の当たりにして、複雑な感情が胸を支配していた。
しかし、一見互角に見える戦いの裏で、遥斗の体内では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
5つの職業が激しく反発し合い、暴れまわっている。
それぞれの職業が己の主導権を主張し、遥斗の精神を引き裂こうとしていた。
常人なら発狂するほどの激痛が遥斗の全身を襲う。
内臓が破壊され続け、血管が断裂し、神経が焼き切れていく。
それでも遥斗は表情一つ変えない。
格闘家のスキル「息吹」で破壊される内臓を繰り返し修復しながら、戦い続けていた。
絶好のチャンスが何度も訪れる。
アマテラスの虚を突けば、勝利を掴めるかもしれない瞬間。
しかし、内臓の破壊が激化し、止めを刺しきれない。
治癒が間に合わず、遥斗の口に血の味が広がる。
それでも——遥斗は戦い続ける。
その先に失望しかなくても。
その後に悔恨しかなくても。




