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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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312話 奇跡の生成

 視力を失っても余裕を見せる遥斗を見て、周囲の誰もが彼の精神状態を心配していた。

 常人なら絶望に打ちひしがれてもおかしくない状況で、なぜこれほど冷静でいられるのか。

 その異常さが、逆に不安を掻き立てる。


「おい、大丈夫か?しっかりしろよ?」

「あ、はい」

 アリアが心配そうに声をかけるが、遥斗の反応は薄い。


 まるで別世界の出来事であるかのような、飄々とした態度。

 その様子が、アリアをさらに不安にさせる。


「呪いは心も蝕むんだ……気が触れても不思議じゃないぜ」

 グランディスが暗い表情で呟く。

 理外の刃で倒して来たモンスターの姿を思い出しているのか、その声は沈んでいた。


「馬鹿な事言わないで!」

 エレナが涙を浮かべながら怒鳴った。

「遥斗くんに限って!大丈夫よ!そんなことになるわけない!」


 しかし、ルシウスが重い表情で首を振る。

「遥斗君の精神状態は兎も角として、理外の刃の呪いは絶対……それは現実なんだよ」


 その言葉に、希望を抱いていた者たちの表情が曇る。

「私のMPが僅かに回復したのは、レベルアップでMP上限を上げたからだ」

 続けて説明する。

「失った部分そのものは元に戻っていない。何をどうやってもね」


「なんて理不尽なんだ……そんなのって……あんまりだろ……」

 ケヴィンが槍を握り締める。

 その手は怒りで震え、血が滲むほど強く握られていた。


 その時、遥斗が突然口を開いた。

「いえ、失われてなんていませんよ?多分」

 静かで確信に満ちた声。

 その言葉に、一同が振り返った。


「しかし、現に目が見えておらんのではないか?」

 エーデルガッシュが困惑しながら尋ねる。

 現実と遥斗の言葉があまりにもかけ離れていたからだ。


「僕はオカートは魂に作用していると考えています」


 遥斗が語り始める。

「現実に影響は与えられるけれど……物理的な力を持っているわけではない」

「例えるなら……そう、強力な暗示」


「何を言ってるのか、さっぱり分からねぇぜ」

 ガルスが首をかしげる。

 その困惑した表情は、多くの者が抱いている感情を代弁していた。


 遥斗がマジックバッグに手を入れ、シャドウサイズを取り出す。

 黒いチャクラムの刃が不気味に光る。


 その行動に皆が不安な表情を見せた。

「まさか……」「おい、何をするつもりだ……」

 ざわめきが起こる。


「遥斗くん、『最後の実験』て何をするつもりです?変な事考えてないです?」

 リリーが心配そうに問いかけた。



 ***



 一方、教団側ではアマテラスとツクヨミが、戦場から少し離れた場所で向かい合っている。


「酷いことするのね……あんな子供に」

 ツクヨミが兄を非難する。

 その声には、珍しく感情があった。

「必要以上に痛めつける必要があったの?」


「甘く見ない方がいい」


 アマテラスが答える。

「あの少年、只者ではない。見た目で判断すると痛い目を見るぞ」

「……おそらく目が見えないくらいでは、利用価値は下がらない」


 その言葉には、遥斗への警戒と共に興味が宿っていた。


「それでも……あまりにも残酷よ」

 ツクヨミは眉をひそめる。

 彼女は兄の冷徹さに、時として嫌悪感を抱くことがあった。


「簡単に殺すこともできたが、価値を見極めていたのだ」

「十分な使い道がある。早めに終わらせてこい。長引かせる必要はない」


「そうね……見せかけの希望に縋る姿は見ていられないもの」

 ツクヨミが同意し、戦場に向かって歩き始める。

 その足取りには、僅かな躊躇いが見られた。



 ***



 遥斗がシャドウサイズを手に取る姿を見て、グランディスが絶望に暮れた。


「おい!まさか!遥斗……自殺するつもりなんじゃ……」

 震え声で呟く。


 最悪の想像が、彼の脳裏へ溢れる。

「やめろよぅ!そんなことしたって何も解決しねぇぞーーー!」

 グランディスが泣き喚く。

 その声は悲痛で、必死さが痛いほど伝わってくる。

「お前が……お前が死んだって……何にもならねぇんだーーー!」


「変な事言うなっす!お前はモンスターと一緒に泥の中にでも潜ってろっす!」

 シエルが叱責する。


 その小さな体のどこにそんな力があるのか。

 想像も出来ない迫力で、グランディスを怒鳴りつけた。

「師匠に限って絶対そんなことはしないっす!みんな師匠を信じてくださいっす!」


 遥斗は仲間たちの心配を感じ取り、苦笑いを浮かべる。

「……そんなに心配しないでも……大丈夫だから」


「遥斗くん……私は信じるからね!あなたなら……きっと……」

 エレナが涙声で訴える。


「何を考えているかは余には分からん!だがお主ならきっと大丈夫!余も信じているぞ!」

 エーデルガッシュが遥斗の手を握る。

 小さな手に込められた温かさが、遥斗の心に染み入った。


 深呼吸をした遥斗が、静かに唱える。


「ポップ!」


 素材として指定するのは——「シャドウサイズ」と……

 自身の身に潜むオカート。

 

 一同が息を呑む。


 まさか呪いそのものを素材にするとは、誰も想像していなかった。


 シャドウサイズが一度分解され、光となって消える。

 同時に、遥斗の中に巣食っていた呪いも、素材として抽出されていく。


 黒い霧のような何かが彼の体から離れ、光の中に溶けていった。


 生成されたのは——完全な理外の刃「デスペア」。

 グランディスが持っていたものとは比較にならない、真新しい輝きを放つ武器。

 それは光に包まれて、遥斗の手に現れた。


 皆が驚愕する。


 理外の刃を、アイテム士が生成するなど前代未聞。

 そして、素材として使用されたことで、遥斗のオカートが完全に消失する。


 その証拠に、遥斗の視界がゆっくりと戻り始めた。


 白い霧が晴れるように、世界が再び色を取り戻していく。


「よかった……成功だ」

 遥斗が安堵の表情を見せる。


 皆の顔がはっきりと見え、その景色に心が温まった。


 奇跡が起こった瞬間だった。

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