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30話 新緑の試練洞窟(後)

挿絵(By みてみん)

 激しい戦いの余韻が、湿った洞窟の壁に残る。倒れたプラントウォーカーの残骸が、一行の勝利を物語っていた。全員が息を切らせ、疲労の色を隠せない。


 突如、赤い光が五人を包み込む。

「これは...」美咲が声を上げる。

「ああ、レベルアップだ」涼介が満足げに答える。


 戦いの緊張から解放され、喜びの声が上がる。しかし、その表情には不安の影も見え隠れする。


「みんな、よく戦った」大輔が仲間たちを見回す。

「これはまだ始まりに過ぎない。もっと先へ進もう。次の階層が俺たちを待っている」

 涼介が前を向き、さらに奥へと続く道を指さす。


 その言葉に、さくらが眉をひそめる。彼女の腕の中で、るなが不安げに鳴く。

(このまま進んで...本当に大丈夫なの?)

 さくらは心の中で呟く。しかし、レベルアップの高揚感が、その不安を押し流していく。

「ルナ、大丈夫よ。必ず、無事に帰れるわ」

 さくらが愛獣を撫でる。

 その言葉は、自分自身への言い聞かせにも聞こえた。


 一行は休む間もなく、次の階層への道を進み始める。通路を降りていく足音だけが、静寂を破る。


 さらに2日の激しい戦いと探索を経て、一行は9階層に到達した。疲労の色が濃く出ているものの、各々の目には力強さが宿っていた。


「ここまで来たか...」涼介が呟く。その声には、達成感と昂揚感が混じっていた。


 広い通路を進みながら、美咲が周囲を警戒する。

「みんな、気をつけて。ここまで来ると、モンスターの気配も変わってきているわ」

 さくらはルナを抱きしめながら、周囲を観察していた。突然、彼女の目に奇妙な構造物が映った。


「あれは...」さくらの声が震える。

「ネクロ・スウォームの巣よ」


 一同が息を呑む。ネクロ・スウォーム――人間の拳ほどの大きさの蜂に似た昆虫型モンスター。群れで行動し、毒や麻痺効果のある攻撃を持つことで知られる危険な存在だ。

 大輔が低い声で言う。

「やばそうだな。できれば関わりたくないけど...」


 その言葉が終わらないうちに、一匹のネクロ・スウォームが彼らの気配に気づいた。

「まずい!」さくらが叫ぶ。

「倒しちゃダメ!このモンスターは――」

 しかし、涼介はすでに動いていた。一瞬の閃きと共に、彼の剣がネクロ・スウォームを両断する。

「よし!」


「違う!」さくらの悲鳴のような声が響く。

「このモンスター、倒されると仲間を呼ぶ習性がある!早く逃げないと...」


 だが、時すでに遅し。巣から無数のネクロ・スウォームが湧き出てきた。その数はおびただしく、洞窟内を埋め尽くさんばかりだ。


「くっ...みんな、態勢を整えろ!」涼介が歯を食いしばる。

「ライトプロテクション!」涼介の声と共に、光のバリアが一行を包み攻撃のダメージを軽減する。


 美咲が杖を掲げる。

「雷よ、天より降り注げ!サンダーボルト!」

 雷光が洞窟内を走り、ネクロ・スウォームの群れを薙ぎ払う。焦げた虫の臭いが立ち込める。


 さくらがルナに指示を出す。「るな、月光の矢お願い!」

 銀色の狐が口から光の矢を放つ。それは次々とネクロ・スウォームを貫いていく。


 しかし、敵の数は尽きることを知らない。

「ぐっ...」大輔が膝をつく。

 彼の腕には、ネクロ・スウォームが残した傷跡がある。

「麻痺か...動けない...」


「大輔!」千夏が駆け寄る。

「ピュリファイ!」

 緑の光が大輔を包み、麻痺の効果が消えていく。

「ありがとう、千夏!よし、反撃だ!」大輔が立ち上がる。


 今度は千夏にネクロ・スウォームが襲い掛かるが、先に拳を構える。

「百烈掌!」

 その拳は風のように速く、次々とネクロ・スウォームを打ち砕いていく。


 激しい戦いが続く中、一行の動きは徐々に息を合わせていった。涼介の剣撃、美咲の魔法、千夏の格闘術、大輔の防御、さくらとルナの連携。それぞれが持てる力を最大限に発揮し、互いをカバーしながら戦う。


 やがて、最後のネクロ・スウォームが倒れ、洞窟内に静寂が戻った。

「はぁ...はぁ...」全員が肩で息をする中、赤い光が彼らを包み込んだ。


 一同が自分の体に宿る新たな力を感じ取る。それは、単なる数値の上昇ではない。この激しい戦いを乗り越えたという実感、そして仲間と共に困難を克服したという確信。それらが、彼らの内なる力となっていた。

「すごい...こんなに強くなれるなんて」千夏が自分の拳を見つめる。

 大輔も頷く。

「ああ、まるで別人になったような感覚だ」

 さくらはルナを撫でながら、静かに微笑む。


 美咲は周囲を見回し、感慨深げに言う。

「みんな...私たち、本当に強くなったわ」

 涼介は剣を鞘に収めながら、仲間たちを見た。

「ああ、でもこの先には、もっと強い敵が待っているはずだ」

 その言葉に、恐れと期待が入り混じった空気が流れる。彼らの冒険は、まだ続いていくのだ。




 息も絶え絶えの一行が、ついに10階層に到達した。そこは予想外に広く、天井が高い空間だった。しかし、その簡素な造りは、何か不吉なものを感じさせた。


「ここは...」美咲が周囲を見回す。


 大輔が盾を構えながら言う。

「警戒を怠るな。ここまで来れば、相当な強敵が待ち構えているはずだ」


 その言葉が的中するかのように、突如として巨大な影が現れた。人間の背丈をはるかに超えるほどの大きさ、カマキリに似た姿。鋭利な鎌状の前肢が、おぞましい光を放っている。


「キラーマンティス...!」さくらが震える声で叫ぶ。

 その姿を目にした瞬間、全員が息を呑んだ。放たれる威圧感は、これまでに遭遇したどの敵をも凌駕していた。


 涼介が剣を構えながら、低い声で言う。

「間違いない...こいつがこのダンジョンのボスだ」


 キラーマンティスは一瞬で姿を消し、次の瞬間には一行の真ん中に現れていた。

「速い!」千夏が叫ぶ。


 大輔が即座に盾を掲げる。

「シールドバッシュ!」

 突き出された盾がキラーマンティスを押し返す。しかし、それはあまり効果的とはいえなかった。


 美咲が杖を掲げ、詠唱を始める。

「焔よ、我が敵を焼き尽くせ!ファイアブリッド!」


 炎の弾がキラーマンティスを打ち貫く。キラーマンティスが苦しげな鳴き声を上げる。

「効いてる!」美咲が叫ぶ。


 涼介が剣を振りかざし、キラーマンティスに斬りかかる。

「フォトンエッジ!」

 光の刃がキラーマンティスの体を切り裂くが、その傷はすぐに塞がっていく。


「再生能力まで...!」美咲が驚きの声を上げる。


 さくらがるなに指示を出す。

「フロストブレス!」

 銀色の狐が吐き出した冷気が、キラーマンティスの動きを鈍らせる。


「私が近接戦で!」

 千夏が前に出る。


「百烈掌!」

 彼女の拳がキラーマンティスの体を打ち付ける。

 無数の打撃がキラーマンティスに直撃するが、意に介することなく、すぐさま反撃が来た。

 鋭い鎌が千夏の体を切り裂く。


「千夏!」美咲が駆け寄る。

 千夏は自分自身にヒールをかけて出血を止める。

 回復魔法で傷が塞がっていく中、キラーマンティスが再び攻撃態勢に入る。


「個別の攻撃じゃ勝てない!」大輔が盾を構えながら言う。

 涼介が叫ぶ。「みんな、力を合わせるぞ!」

 全員が頷き、それぞれの持ち場に散る。


「ライトプロテクション!」涼介の声と共に、光のバリアが一行を包み込む。

 大輔が盾を突き出す。

「シールドバッシュ!」


 キラーマンティスが一瞬怯んだ隙を突いて、美咲が詠唱を始める。

「雷よ、天より降り注げ!サンダーボルト!」

 雷撃がキラーマンティスを直撃する。その隙を突いて、千夏が飛びかかる。

「百烈掌!」

 連続の打撃がキラーマンティスの体を揺るがす。

 さくらとルナも攻撃に加わる。

「るな、フロストブレス!」

 冷気がキラーマンティスの動きを更に鈍らせる。そして最後に、

「ブレイブオーラ!」涼介の身体が光に包まれ、自身の能力が最大限に解放される。


「フォトンエッジ!」


 閃光と共に、涼介の剣がキラーマンティスの体を両断する。


 巨大な体が地面に崩れ落ちる。一瞬の静寂の後、キラーマンティスの体が光に包まれ、消滅した。

「やった...」美咲が安堵の声を漏らす。

 その瞬間、全員の体が赤い光に包まれる。


「レベルアップだ!」大輔が勝利の声を上げる。

 みんなの顔に笑顔が広がる。激しい戦いを乗り越えた達成感と、新たな力を得た喜びが入り混じる。


「私たち...本当にダンジョン攻略しちゃったんだね」

 千夏が涼介を見つめながら言う。

 さくらもルナを抱きしめ、安堵の表情を浮かべる。


 涼介が剣を鞘に収めながら言う。

「ああ、みんなよく頑張った。これで...」

 その言葉が途切れた瞬間、突如として大きな揺れが起こった。


「な...何!?」


 地面が激しく揺れ、天井から岩が落ちてくる。

「みんな、危険だ!」大輔が叫ぶ。

 一行が身を寄せ合う中、揺れはますます激しくなっていった。

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