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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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285話 最下層、そして

「さて……お前たちは、どうする?」


 重い沈黙を割って、アマテラスが低く問いかけた。

 その瞳は静かで、なおかつすべてを見透かすような光を宿していた。


「我々クロノス教団は、世界を救うと誓った者たちの集まりだ。たとえ自分たちが滅びようとも、それを厭わぬ覚悟がある」


 その言葉に、遥斗は無意識に辺りを見回した。

 この会話を聞いているはずの衛兵たちは誰一人として眉一つ動かさず、沈黙を守っている。

 彼らの瞳は、諦観ではなく、確信に満ちていた。


(この場にいる者全員が、教団の構成員……あるいは、それに準ずる思想を持つ者なんだろう)


 遥斗はそう確信した。

 全てのエルフがこの過激な思想に賛同しているとは考えにくい。

 だが、ここに集っているのは選ばれし者たちだ——迷いのない「覚悟ある者」たちなのだ。


 一方、エーデルガッシュの表情はみるみる曇っていった。

 彼女の思考は、矛盾と葛藤に苛まれていた。


 クロノス教団に屈すれば、帝国は滅亡の道を辿る。

 だが、武力で抗えば、魔法の行使が世界をより早く滅ぼす引き金になりかねない。


「人族抹殺にモンスターやアンデッドを用いたのは……世界への負荷を抑えた『効率的な淘汰』だったの」


 ツクヨミの静かな言葉に、エーデルガッシュの瞳からは光が失われていく。

 小さな肩にのしかかる二重の責務。

 帝国を守ることと、世界を守ること。

 その両立は不可能だと、彼女は理解してしまった。


「おいおい、ふざけんなよ!」


 その空気を切り裂くように、グランディスが声を上げた。

 憤りと焦燥がその顔にありありと浮かんでいた。


「世界がどうだとか、そんな話はどうでもいい! 俺が知りたいのは、親父のことだ! 親父はどこにいるんだよ!」


 場違いなほど直情的な叫びだったが、それこそがグランディスの「らしさ」だった。


 アマテラスの眉がわずかに動いた。


「……彼はデュランディスの息子よ」

 ツクヨミの声には、微かに哀しみが滲んでいた。


 アマテラスはじっとグランディスを見つめ、静かに頷いた。

「そうか。ならお前には知る権利がある」


 そして今度は、遥斗に目を向ける。


「異世界からの来訪者よ。お前もまた、知るべきだ」


 ツクヨミは無言のまま、ただ床を見つめていた。

 その眼差しには、深い痛みと後悔が混じっているように見えた。


「ついてこい」


 短く告げると、アマテラスは王宮の奥へと歩き出した。


 遥斗たちは一瞬、顔を見合わせる。

 だが誰一人として、その後を追わないという選択肢を選ばなかった。


 長い廊下を進む中、遥斗はエーデルガッシュの隣に歩み寄り、そっと声をかけた。


「……大丈夫?」


 その問いに、エーデルガッシュは何も言わず、ただ彼の手を握った。

 その手は冷たく、小刻みに震えていた。


(ああ……この子はまだ、十二歳の女の子なんだ)


 遥斗は、ぎゅっと手を握り返した。

 言葉よりも、その温もりが今の彼女に必要だと信じて。


 やがて彼らは、転移魔法陣の刻まれた広間に辿り着いた。

 床には深い青の魔力が流れ込み、複雑な紋様が静かに光っている。


「乗れ」


 アマテラスの促しに従い、五人は魔法陣の中央へ立つ。


 アマテラスが手をかざすと、光が奔流のように溢れ出し——


 五人の姿は、一瞬のうちに掻き消えた。


 ―――


 転移した先は暗い空間だった。


 壁と天井に埋め込まれたエーテルライトが、微かに周囲を照らしている。

 冷たい空気と石の匂い。

 僅かに感じられる反響。


「エーテルライトがある……ここはダンジョン内?」


 遥斗が呟いた。


「正解だ」


 アマテラスはそれだけ言うと、再び歩き出した。

 ツクヨミもまた無言で彼の後を追う。


 足場はしっかりと舗装されており、移動に不便はなかった。

 少し歩くと、突如として空間が広がった。

 大きなホールのような場所に出た彼らの前に、やはり間違いなくダンジョンの内部と分かる光景が広がっていた。


「ここは最下層だ……」

 エーデルガッシュが息を呑む。

「ダンジョンの最下層にあるボス部屋を改造したものだろう」


 ホールからは幾つもの通路が分岐していた。

 壁には張り巡らされた魔法陣が微かに光を放ち、空間全体を安定させているように見える。


「ここがクロノス教団の本部だ」


 アマテラスの言葉に、遥斗たちは周囲を改めて見回した。


 通路を行き交う人々——エルフだけでなく、意外なことに人族の姿も見える。

 彼らはアマテラスとツクヨミに会釈をしつつも、慌ただしく仕事を続けていた。

 どうやら高圧的に支配されているわけではなさそうだ。


「おい、人族を嫌ってるんじゃなかったのかよ?」

 グランディスが困惑したように問いかける。


「人族はどこまでいっても自分の保身ばかり」

 アマテラスは冷静に答えた。

「それは彼らが、自分たちが神に愛された特別な存在だと思い込んでいるからだ。そのような傲慢さがこの世界を破滅に導いている。蔑まれて当然ではないか?」


「でも、それに気づいた者たちは私たちの仲間よ」

 ツクヨミが柔らかく付け加えた。

「種族は関係ないわ。命は全て平等だもの」


 その言葉に、遥斗は微かな違和感を覚えた。

「命は平等」。

「アマテラス」に「ツクヨミ」。

 ——現代日本にある単語に似ていた。

 あまりにも遥斗の良く知る価値観だ。


 しかし、彼はその疑問を口にはしなかった。

 僅かでも自分の情報を相手に与えたくなかったからだ。

 今は徹底して情報収集に努める。


(目的はマーガスを救出して、全員で脱出すること。それを忘れちゃいけない……)


 遥斗の脳裏には当初の計画が浮かんでいた。

(でも状況が変わった。例え今生き延びたとしても……世界は……)


 彼は暗い考えを振り払いながら、現実を直視しようとしていた。

(自分たちよりも世界に詳しいクロノス教団とは敵対すべきではないのかもしれない)


 しかし、打開策は見つからなかい。


 アマテラスに導かれ、一行は分岐した通路の一つを進んでいった。

 やがて目の前に強固な門が現れる。

 アマテラスが手をかざすと、魔力に反応して扉がゆっくりと開いていく。


 扉の中は、洞窟内とは思えないほど明るく清潔な空間だった。

 壁には美しい織物が飾られ、床には柔らかな絨毯。

 部屋の奥には部分的にカーテンが降ろされ、視界が遮られていた。


 そして——


「遅かったな。待っていたぞ」


 カーテンの前に立っていたのは、攫われたはずのマーガスだった。


 彼は武装こそしていなかったが、縛られたり傷つけられたりした様子はない。

 むしろ健康そのもので、若干不満げではあるが、元気いっぱいに見える。


「マーガス!?」

「マーガスじゃねぇか!」

 グランディスと遥斗が同時に声を上げた。


「それにしても遅すぎだろお前ら!何やってたんだ?」

 マーガスは腕を組み、まるで待ち合わせに遅れた友人を責めるような口調で言った。


 エーデルガッシュは固まったように、その場に立ち尽くしていた。

 彼女の瞳は、混乱と疑惑に満ちていた。

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