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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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279話 誘拐

 酒場には、温かな香りが漂っていた。

 運ばれてきたのは、どんぶりいっぱいの森の恵みシチュー。

 表面には香草がたっぷり振りかけられ、隣には茶色いコウ麦パンが添えられている。


「うわぁーい!シルバーミストの料理だぁ!」

 グランディスは大はしゃぎでシチューをすくい、口に運んだ。

 その瞬間、顔がぱっと明るくなる。


「うまい!最高!さっすが都会の味ってやつだな〜!」


 エルフの料理は素材の味を活かすため、シンプルな味付けが基本。

 それゆえ、人族には少し物足りなく感じることが多い。


「……薄いな」

 マーガスがスプーンを置き、残念そうに呟いた。

「まぁ、エルフ流だしな……」


 一方で、ユーディは淡々と食事を進めていた。

 小さな体で、ひたすらスプーンを口に運んでいく。


「チビ助、よく食えるな。味、薄くないのかよ?」


 マーガスが訊ねると、ユーディは一瞬だけ手を止め、静かに答えた。

「慣れた」


 それだけ言うと、また黙々と食事に戻る。


「そういやお前、サバイバル中もずっと平気そうだったもんな……」


 遥斗は思い返す。

 道中、彼らの食事は森で採った植物や果物ばかり。

 しかも、調味料を節約するため、最後の方はほとんど味付けをしていなかった。


「実はね……」

 そう言って、遥斗はマジックバックから小さな瓶を取り出した。


「これ最後の調味料、取っておいたんだ」

 瓶から数滴、シチューに垂らすと、ふわりと香りが立ち上る。


「おおっ!」


 マーガスは目を輝かせ、急いでシチューをすくう。

「うんまっ!これならいけるぞ、遥斗、さすがだ!」


「明日、道具屋でまた調味料を仕入れよう。もうこれで最後だから」

 遥斗の言葉に、マーガスは無言でうなずいた。

 目の端に光るものが見えた。

 彼にとってここまでの道のりは、余程過酷だったのだろう。


 一方ユーディは、相変わらず黙って食べ続けている。


「ユーディって、味付けとか気にならないの?」

 遥斗が尋ねると、彼女はスプーンを口に運びながら答えた。


「食事は腹を満たすためのもの。それ以上は求めない」


 その割り切った言葉に、遥斗は感心する。

(さすが皇帝……覚悟のレベルが違うな)


 食事をしながらも、遥斗は時折周囲を確認していた。

 客のほとんどはエルフで、人族はほとんど見かけない。

 ソラリオンのエルフたちが出ていった後も、微妙な視線がいくつか刺さっていた。


 そんな中、ユーディがわずかに身を乗り出す。


「佐倉遥斗。後で一人で部屋に来てくれ」


 誰にも聞こえないような、小さな声だった。

 遥斗は目だけでうなずく。

(……やっぱり何かあるんだね)


 食事を終え、遥斗とマーガスは部屋に戻る。

 グランディスだけは、にやにや笑いながら酒場に居残った。


「俺っち、もうちょいナンパ……じゃない情報収集してくっから!エレナ姫様いないし、モテ期到来かもなー!」


 視線の先には、どう見ても店の女性スタッフがいる。


ーーー


 部屋に戻ったマーガスは、荷解きもそこそこにベッドに倒れ込み、あっという間に寝息を立てた。


(長旅だったもんね。無理もないか)


 遥斗はそっとマーガスに毛布を掛けると、ユーディの部屋へ向かった。

 木製の扉を軽くノックする。


「……誰だ?」

「僕だよ」


 扉が開き、ユーディが顔を出した。

 すでに鎧は脱ぎ、白いインナースーツ姿。

 だが腰には、しっかりとサンクチュアリの剣が下げられている。


 室内には木の良い香りと、彼女自身の微香りが混じって漂っていた。


「わざわざすまんな、座ってくれ」


 ユーディはベッドに腰を下ろし、遥斗に椅子を示す。

 遥斗が腰を下ろしても、彼女はなかなか口を開かなかった。

 普段ははっきりしている彼女が、珍しく言葉を探している。


「どうしたの?」


 遥斗が促すと、ユーディはようやく顔を上げた。


「……礼を言いたかった」


「え?」


「ここまで、ついてきてくれて……助かった。ありがとう」


 拍子抜けだった。

 そんな当たり前のことで、と。

 もはや「護衛任務」などではなく、自然に彼女と並んで歩いていた自分に、遥斗はふと気づく。


 だが、それだけではないはずだ。


「ユーディ。本当は、何かあるんだろ?」


 ユーディは小さくため息をつく。

「……察しがいいな」


 彼女はベッドの下から小箱を取り出し、開く。

 中には小さな指輪――魔道具だった。


「これを持っていてくれ」

「これ……は?」

「位置探知用魔道具だ。私の居場所が常にわかる」


 遥斗は指輪を手に取り、眉をひそめる。


「どういう意味?」

「我々の情報は、すでに漏れているはずだ。シルバーミストへの到着も、余の存在も」


 ユーディの瞳には、強い覚悟が宿っていた。


「敵は、動くだろう。それも近いうちに」

「……まさか」

「わざと一人部屋を取った。囮になるためだ。襲われれば反撃し、情報を得る。万が一攫われた場合でも、この指輪で追跡できる」


 遥斗は目を見開いた。


「待ってよ!ユーディ、囮になるなんてダメだ!」

「……」

「殺されるかもしれないんだぞ!」

「可能性は低い」


 彼女は淡々と答える。


「敵は、我々の目的を知りたいはずだ。殺しては意味がない」

「それでも……」

「これが最善の策だ」


「なら、僕がやる」

 遥斗の言葉に、ユーディが目を見開いた。


「なんだと?」

「僕が囮になる。皇帝である君に、そんな危険は背負わせたくない」


 ユーディは黙り込み、しばらく遥斗を見つめた後、そっと訊ねた。


「なぜ、そこまでする?」


 護衛だから?

 守ると誓ったから?


 ――違う。


 遥斗自身、説明できない感情が胸に渦巻いていた。


「それは……」


 言葉を探していると、ユーディの緑の瞳が、わずかに潤んでいるように見えた。


 その瞬間――


 バンッ!


 扉が勢いよく開かれた。


「おい!大変だ!リーダー気取りがいねぇ!」


 グランディスの焦った声。

 顔には明らかな緊迫の色が浮かんでいる。


「えっ?」


 二人は即座に立ち上がった。


「部屋に戻ったらさ、窓が開いてて、ベッドはグチャグチャ。装備もそのまんま!間違いねぇ……誰かに攫われたんだ!」


 グランディスの叫びに、遥斗とユーディは顔を見合わせた。


 ――ユーディの読みは完璧に正しかった。

 ただし、攫われたのは、違う人物だったようだ。

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