表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/494

268話 炎の支配者

 空から降り注ぐ紅蓮の猛火。


 ドラゴン・インフェルノの炎が、マテリアルシーカーの面々を飲み込もうとしていた。


「高き風よ、今舞い降りて禍から守れ!ストラトシェル!」


 シエルの細い腕が空に向かって伸び、彼女の杖から青緑色の光が広がった。

 魔力をまとった風が渦を巻き、まるで天蓋のように広がっていく。

 空気そのものを圧縮し、対流により強固な壁を形成するシエルの防御魔法。


 ドラゴン・インフェルノが咆哮と共に、防御壁に衝突した。

 炎竜はストラトシェルに弾かれ、その軌道が変わる。


「やっ、やったっす!」


 シエルから歓喜の声が漏れた。

 しかしそれも束の間のこと。


「甘いねー。甘すぎ」


 彼の手の仕草一つで、逸れた炎が方向を変え、再びシエルを狙って急降下してきたのだ。


「シエル!」

 ユーディが小さな体で躊躇なく飛び出し、シエルの前に立ちはだかる。

 皇帝の鎧を纏った彼女は、炎の竜の猛攻を真正面から受け止めた。


 ユーディの鎧は耐物理・耐魔法の両性能を高く備えている。

 通常の攻撃ならば容易く防ぎきれるはずだった。


 しかし、イグナスの炎はあまりにも強大すぎた。


「うあぁぁぁっ!」


 ユーディの痛ましい叫び声が夜空に響き渡る。

 鎧の隙間から炎が侵入し、彼女の全身を焼き尽くしていく。

 苦悶の表情を浮かべたユーディが炎に包まれるその姿は、あまりにも残酷だった。


「ユーディーーー!」


 エレナが悲鳴を上げながら、両手で魔力銃を構える。

 彼女の銃口から青白い閃光が飛び出し、ユーディの体を覆う炎に向かって撃ち込まれた。

 氷結の弾丸が命中し、一瞬で炎が消える。


 しかし、炎の下から現れたユーディの姿は、見るも無惨だった。

 全身に大火傷を負い、白銀の鎧は黒く焼け焦げていた。


 シエルはその惨状を目の当たりにし、腰が抜けてしまう。

 彼女は震える手で顔を覆い、立ち上がることすらできなかった。

 もしユーディが盾にならなければ、シエルは今頃消し炭だっただろう。


「くくくっ……結局皇帝様が犠牲になっちゃったね?臣下の役目果たせてないじゃん!」


 イグナスの含み笑いが、シエルの心を深く抉る。


 エレナはマジックバックから最上級HP回復ポーションを取り出し、ユーディの体にかけた。

 緑色の光がユーディの体を包み込み、即座に傷が癒えていく。

 だが、それでもすぐには完全に回復するには至らない。


「アルケミックゥゥゥゥ!」


 マーガスの雄叫びが闇を切り裂く。

 掌からミスリルの光が溢れ出し、魔を滅するような白き輝きを放つ剣が形成されていった。


「俺は!絶対にお前を許さない!俺の誇りにかけてお前を倒すーーー!」


 彼の瞳には憎悪・決意・憤怒が宿っていた。

 仲間を傷つけられたことで、これまでにない感情の昂ぶりが湧き上がる。


「氷霧剣・絶華!」


 マーガスが振り抜いた剣から、白い結晶の軌跡が煌めく。

 氷の斬撃がイグナスを包み込んだ。

 それは彼が師と仰ぐアリアの必殺剣。

 瞬時に敵を凍らせ、即死に至らしめる恐るべき奥義。


 幾度となく見てきたその技を、マーガスは今まで一度も成功させたことがなかった。

 しかし、仲間の危機に直面し、彼は新たな境地に達していた。


 イグナスの体が凍りつき、炎が消えていく。

 氷の彫像のような姿になったイグナスを見て、マーガスが一瞬安堵する。


「ふぅん、やるじゃん」


 凍り付いた氷柱の中から、声が漏れ出た。

 次の瞬間、彼の体の内側から赤い光が噴出し、氷を内側から溶かし始める。


「でも、この程度じゃね……俺を止めるのは無理だよ!アッシュボルケーノ!」


 イグナスの体が今までの何倍もの勢いで燃え盛り、氷を溶かすどころか爆発的な熱量を一気に放出した。

 爆風と共に、マーガスの体が吹き飛ばされる。


 マーガスの体を炎が包み、彼もまた火だるまとなった。

 悲鳴を上げながら地面を転がり、何とか身体の炎を消そうとする。


 グランティスはこの一部始終を目の当たりにして、恐怖で凍りついていた。

 生まれて初めての命のやり取り。

 今まで強者の立場で過ごしてきた彼は、本当の戦いに直面し身動きが取れなくなっていた。


「エルフのお兄ちゃん、大人しくしときなよ。命は惜しいんでしょ?」


 イグナスの嘲笑に、グランティスは顔を強張らせた。

 彼はデスペアを握りしめながらも、腕が震えて投げることすらできない。


「じゃあ次いっくよー」


 イグナスが両手を合わせ、その間から赤い光が溢れ出す。

 光が形を成し、瞬く間に炎の烏が十羽現れた。


「行け!ヘルファイア!」


 彼の命令で、炎の烏がシエルに向かって一直線に飛んでいく。

 彼女はまだ腰が抜けたままで、避けることすらできない。


「シエルちゃん!危ない!」


 エレナが思わず彼女に駆け寄り、身体を盾にした。

 炎の烏がエレナの背中に直撃し、彼女は絶叫と共に炎に包まれる。


「一羽、二羽、三羽……命中っと!」


 イグナスは指を折りながら、愉しそうに数えた。

 なおも降り注ぐ炎の攻撃に、全身火傷のマーガスが再び立ち上がる。


「アルケミック!」


 今度は彼の手から、ミスリルの盾が形成された。

 マーガスは盾を抱え、エレナとシエルを庇う。

 ミスリルの盾に炎の烏が次々と命中し、マーガスは更なる熱波に耐え続けた。


「く……そっ...」


 マーガスの手から血が滴り落ちる。

 盾は熱で赤熱し、その熱さが彼の肌を焼き続けていた。


 シエルは泣きながらも、マントでエレナの体の炎を払おうとしていた。

 必死の行動で、かろうじて火を消し止める。


「可愛そうだね。もう終わりにしてあげるよ」


 イグナスの口元に、残酷な笑みが浮かぶ。

 彼はドラゴン・インフェルノを再び空へと放った。

 巨大な炎の竜が上空に舞い上がり、マテリアルシーカーの面々に向かって狙いを定める。


「いっけーーー!まとめて片付けろーーー!」


 イグナスは両手を振り下す。

 それが、ドラゴン・インフェルノへの攻撃開始の合図だった。


 もはや避けることも防ぐこともできない絶体絶命の状況。

 エレナは焦げた髪の間から空を見上げ、心の中で祈りを捧げていた。


(遥斗くん……どうか無事でいて欲しい……)


 彼女の心に浮かぶのは、遥斗の穏やかな笑顔だけだった。


(せめて……もう一目だけでも……会いたかった)


 灼熱の竜が、彼らに向かって急降下し始める。

 全てが終わるかに思えたその瞬間。


「……ポップ」


 それは確かに暗闇の中から聞こえた。


 イグナスの炎の体が突如として揺らめき、彼の顔に痛みの感情が浮かぶ。

「痛い……何……だ……何で……?」


 彼が反射的に振り返った時、炎を操るための集中力が途切れる。

 ドラゴン・インフェルノの軌道が大きく逸れ、空の彼方へと飛んでいってしまった。


 イグナスの後方には一人の少年が立っていた。

 彼の手にはポーションの瓶が握られている。

 漆黒の瞳が、闇の中でさえ確かな存在感を放っていた。


「遅くなってごめん」


 遥斗の声が、絶望が支配する戦場に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ