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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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266話 遥斗の奇策

 ルインブリンガーの秘密を見抜いた遥斗は、魔力銃をマジックバックに戻した。

 異常なほど冷静な判断。

 彼の漆黒の瞳には、もはや何の感情も宿ってはいない。

 ただ機械のように行動するだけ。


「ぐぉおおおおっ!」


 獣と化したダクソは、ただ破壊の限りを尽くす。

 斧の一振りが地面を裂き、空気を震わせる。

 その威力は確かに圧倒的だ。


 遥斗は斧の攻撃を身軽にかわしながら、視線を周囲に走らせる。

 彼の目的は唯一つ。

 適切な「武器」となる木を探していたのだ。


 森の中を移動しながら、遥斗は先ほど飲んだ「力のポーション」の効果を実感する。

 レベルアップで向上した基礎ステータスに、ポーションの効果が相乗的に働き、かつてない力が全身に満ちている。


 遥斗の視界に、都合の良い物が映った。

 程よい大きさと重さ。

 人の背丈の長さの倒木だ。


「がぁあああ!」


 ダクソは黒紫のオーラをまとい、斧を振りかざして迫る。


 遥斗は落ち着いて倒木に近づくと、強化された腕力でそれを持ち上げた。

 常人なら持ち上げることは不可能な重量だが、今の彼にはそれが可能だった。


「ほら、プレゼントだよ!」


 軽く言い放ち、巨大な倒木をダクソに向かって投げつける。

 回転しながら飛来する物体を見て、ダクソはニヤリと嗤う。


「うがぁああああ!」


 斧の一閃。

 それは鮮やかに両断され、ダクソの脇を通り過ぎていった。


 遥斗の悪足掻きを一蹴する。

 それは狩猟者にのみ許された愉悦。

 だが、それは一瞬のことだった。


 視界が遮られた間隙を突き、遥斗が木の影から躍り出てきたのだ。

 両手には小瓶を握りしめ、ダクソの懐に飛び込む。


「!?」


 ダクソが反応するより早く、鎧の隙間に手を差し込んだ。

 その刹那、遥斗の腹部に膝蹴りを叩き込む。


 ドゴッ!


「ぐふっ!」


 遥斗の口から血が噴き出す。

 内臓が損傷したことは明らかだった。

 しかし、彼の表情は一切変わらない。

 むしろ余裕さえ伺える。


 膝蹴りの衝撃で体勢を崩したように見せかけながら、遥斗は両手の小瓶の中身をダクソに注ぐ。

 液体がダクソの鎧を伝って全身に浸透していった。


 眩い緑色の光がダクソを包み込む。


「ぐわぁあああ、何をしたァァァ!?」


 ダクソの声に、初めて混乱の色が混じる。

 彼の身体から黒紫のオーラが急速に薄れていった。

 体を覆っていた狂気が、まるで波のように引いていく。


「貴様、一体何を——」


 ダクソの言葉は、もはや獣の咆哮ではなく、理性を取り戻した人間のものだった。


「最上級HP回復ポーションを使っただけだよ」


 遥斗は血の混じった唾を吐き出しながら、淡々と答える。


「HP回復だと?なぜそのようなものを敵に——」


 ダクソの思考が急速に冴え始める。

 しかし、それは彼にとっては不幸だった。


 遥斗と目が合った瞬間、彼の全身が凍りついた。

 少年の瞳には、漆黒の闇が渦巻いている。

 喜びも怒りも恐怖も、何一つ宿っていない。

 あまりに冷たく、あまりに深い虚無。


(何だ?……この目は)


 未知の恐怖がダクソを戦慄させる。


「HPを回復させれば、ルインブリンガーの力は失われるでしょ?違う?」

「君は最大HPと現在HPの差で力を得ていた。HPを全回復させれば、その差はゼロ。力の源が失われたわけだ」


 ダクソの顔から血の気が引いた。

 まさか自分の力の仕組みを、こんな短時間で見抜かれるとは。


「くっ……まだだ!」

 必死に斧を振り上げる。しかし——


「あ?重い……」

 斧が驚くほど重く感じる。

 以前なら片手で振り回せた斧が、今は両手でも持ち上げるのがやっとだった。


 よろめきながら斧を振り下ろすが、遥斗から離れた場所に叩きつけただけ。


「器用さと力量、両方奪ったからね。そんな重い武器、扱えないと思うよ」


 遥斗の言葉に、ダクソの目が見開かれる。


 そう言えば、先ほど体から力が抜けていくような感覚があった。

 まさかステータスを直接奪われていたとは。


「ポップ」


 遥斗の掌から青い輝きが生まれる。

「ほらほら。ぼさっとしてる場合じゃないよ。加速のポーション。今度は君の素早さを素材にしたよ」


 ダクソの体がさらに重くなる。

 動きが鈍くなり、まるで水中を動くような感覚だ。


(なんだれは……ルインブリンガーのスキルがあれば!)


 そう思ったのも束の間、彼は事実に気づく。

 HPが全回復している今、ルインブリンガーのスキルは何一つ発動しない。

 傷つけば傷つくほど強くなる——裏を返せば傷ついていない今は何の力もない。


 ダクソは無力だった。


「何なのだ……お前は……」


 ダクソに恐怖の色が濃くなる。

 ようやく目の前にいる少年の正体を理解し始めたのだ。


「そうか!ゲオルグ様を倒したのもお前……人ならざる者……」


 かつて得た情報が頭をよぎる。

 マテリアルシーカーには、異世界人の落ちこぼれアイテム士がいると。

 そんな取るに足らない存在のはずだった。


「またか……また異世界からの者か!」


 怒りと恐怖が入り混じった声を、ダクソは絞り出した。


「あの勇者も、モンスターテイマーも、そして今また……」

「お前らさえいなければ……この世界の救済は成し遂げられたはずだったのに!」


 呪詛の言葉を吐き出すダクソ。

 彼の心の奥底では、異世界から来る強者たちへの恐怖が膨れ上がっていた。

 自分たちの計画を、次々と挫く存在。

 そして今、自分自身までをも追い詰める存在。


(駄目だ……逃げなければ!そしてあの方に!)


 ダクソの心が焦りに支配される。

 彼はつたない動きで逃走を始めた。

 しかし重い鎧が体に纏わりつき、移動を妨げる。


 遥斗はマジックバックから魔力銃を取り出し、弾丸を装填した。


「これで終わりだね」


 その声には感情の欠片すら感じられない。


 パンッ!


 発射された「恐怖心の弾丸」がダクソの背中に命中した。

 彼の精神を直撃するそれは、ダクソが最も恐れるものを見せる効果がある。


「あ……ああ……やめろ……やめろぉ……!」


 ダクソの瞳に、恐怖の幻影が映し出される。

 そこには崩れ行く神殿の中、勇者たちに取り囲まれるゲオルグの姿。

 かつての主は、一度ならず、何度も何度も殺される。

 剣で貫かれ、魔法で焼かれ、そして—モンスターに食い破られる。


 死に際のゲオルグが、ダクソを見つめる。

「助けてくれ」と口にする。

 しかし彼は何もできない。

 ただ見ているだけ。何度でも繰り返される惨劇を。


「やめろぉぉっ!もう見せるなぁぁ!」


 ダクソは地面を這いながら耳を塞ぎ、目を閉じる。

 だが幻影は彼の脳裏に直接焼き付けられ、決して逃れることはできない。


 永遠に続く主の死の連鎖。

 彼にとっての最大の恐怖—失敗と無力。

 その地獄から逃れる術はなかった。


 ダクソは何かに追われるかのように震え始める。

 理性を取り戻した彼には、この弾丸の効果は絶大だった。


 遥斗は続けて「赤竜鱗の弾丸」を魔力銃に装填した。

 鱗のような質感を持つ赤い弾丸を4発、ダクソの鎧に向けて撃ち込む。


 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!


 鎧に赤い亀裂が走り、跡形もなく砕け散る。

 ルインブリンガーの予備のHPがなくなり、もはやそのスキルを活かす事もできない。


 抵抗することなく、彼は頭を抱えて蹲った。


 戦いは終わった。

 しかし、あまり時間は残されていない。

 遠くの空に、大きな火柱が立ち上がるのが見えたからだ。


(みんな……)


 仲間たちの身を案じ、遥斗はマジックバックから中級HP回復ポーションを取り出す。

 一気に飲み干し、体の痛みを押し殺すと、遥斗は火柱の方角へと走り出した。

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