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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第4章 エルフの呪詛編

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254話 風雲急を告げる

 アルワース高原での戦いから2日、アルカディアの首相官邸。


 優美な調度品に囲まれた執務室に、バレーン魔術総監の姿があった。

 彼の額にはうっすらと汗が浮かび、隠しきれない疲労の色を漂わせている。

 

 その前に座るエレノア・シルヴァーン首相は、静かにお茶を口に運びながら、部下の報告を待っていた。


「それで、バレーン。詳細を聞かせてもらいましょうか?」

「中核結晶は破壊されました。そして実験は……ほぼ成功です」


 エレノアの唇に、満足げな微笑みが浮かぶ。


「素晴らしいです」

 彼女はゆっくりとカップを机に置く。

「十分な量の紫水晶が手に入りました。想定通り、これで計画を進める事が出来ます」


 バレーンには、なおも複雑な想いが残っていた。

 首相が推し進める計画の全容を知る数少ない人間として、彼の心には様々な葛藤が沸き上がっていた。


「いえ、想定外の事が数多く起こってしまいました」

 バレーンは苦々しく告げる。

「魔石獣共は、予想をはるかに超える強さに成長しており……純度の高い紫結晶の製造には成功しましたが……」


「ええ、そうね。勇者たちの力が無ければ、計画は水泡に帰していたでしょう」

 エレノアは事も無げに、淡々と言った。

「魔力鉱石を凝縮するため魔石獣を作り出し、それらが互いに吸収することで精錬する……その計画は成功したわ」

「はい……」

「でも、中核結晶が失われた今、計画をやり直す事は出来ません。何としても成功させる必要があります」

「……心得ております」


 エレノアはわずかに目を細めた。

「想定外の事態もあったけれど、結果は良好……というわけね」


 その時、執務室の扉が突然開かれる。


「失礼します!」


 デミット・ラスコーリが厳しい表情で部屋に入ってきた。

 彼の目には、エレノアへの非難が浮かぶ。


「デミット殿、どうされましたか?ただならぬご様子」

 エレノアは取り乱した様子も見せず、冷静に対応を行う。

 この訪問は予想していたのだろう。


「戦争でも仕掛ける気ですか?この不安定なご時世で!」


 デミットの問いかけは、刃物のように鋭かった。

 エレノアは一瞬だけ不快な表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻す。


「この期に及んで隠し通せるとは思っていません」

「これほどの物を、同盟国にも秘密にするとは心外ですね!」

 デミットの声には、怒りの感情が混じっていた。

「これが共和国流の友好関係の証という訳ですか?」


 エレノアは深いため息をついた。

「全ての事情を説明しても、理解が得られるとは思っていません。ですが、事態は急を要するのです」


 デミットとエレノアの間に緊張が走る。


「これは単なる武器開発ではありませんね?何なのですか一体」

 デミットが静かに言った。

「あなたの真の目的を話してください」


 エレノアはお茶をひと口含み、バレーンに指示を出す。

「ファラウェイ・ブレイブの皆様も呼んでください。彼らにも説明する必要があるでしょう?」


「すでに扉の外に待機しております。私が呼んでおきました」

 バレーンが口を開いた。


「あなたが?」

 エレノアは意外そうな表情を浮かべた。

「はい」バレーンは頷く。

「勇者殿の戦いを見ました……彼らに真実を伝えるべきかと」


 エレノアは少し考え込むようにしたが、すぐに決断を下す。

「わかりました。それでは招き入れなさい」


 バレーンが扉を開くと、そこには涼介を先頭に、美咲、千夏、さくら、大輔の姿があった。

 彼らは戦いの疲れを完全には癒していないようだったが、その目には強い光が宿っていた。


「どうぞお入りください」

 バレーンが彼らを案内する。


 涼介たちが執務室に入ると、エレノアは立ち上がり、彼らを丁寧に迎え入れた。


「勇者の皆様、素晴らしい活躍だったと伺っております」

彼女の声には、以前には感じられなかった敬意のようなものが混じっていた。


「それでは。まずは紫水晶についてお話ししましょう」


 エレノアは手を軽く動かすと、空中に魔力で作られた映像が現れた。

 そこには紫色に輝く結晶が映し出されている。


「これは純粋な紫水晶。特殊な性質を持ち、魔力を蓄積することができます」

「しかも、ある一定量以上の魔力を加えると、強大な爆発を起こす性質があります」


「蓄積と爆発……」

 美咲が思わず声を上げた。


「そう、そしてこれを同じ場所に固めておくと、爆発した魔力で、隣の紫水晶が爆発する……」

「連鎖的に爆発する『無限連鎖魔力爆発』という現象を起こすことができるのです」


 映像が変わり、紫水晶の爆発の様子が示される。

 次々と連鎖的に爆発する光景は壮絶だった。


「さらにそこは高濃度魔素で満たされ、モンスターですら棲息できない死の場所になります」


 美咲の表情が青ざめる。

「そんな……まるで核兵器だわ……」


「核兵器?」

 エレノアは首を傾げた。

「残念ながら異世界の事はよくわかりませんが、この破壊力は人に生み出せる限界を遥かに超えています」


 大輔が眉をひそめる。

「それで?その武器をどうするつもりなんですか?」


 エレノアは映像を変え、闇の領域を示した。

「私の真の目的は、闇の消滅と魔物の排斥です」


 涼介の目が鋭くなる。


「闇は閉ざされた別世界です。そこで無限連鎖魔力爆発を起こしても、この世界への影響は限定的です。闇の中で爆発を起こし、闇と魔物を同時に消滅させるのが私の計画なのです」


 彼女は深刻な表情で付け加えた。

「闇の範囲は加速度的に広がっています。スタンピードの規模も大きくなり、間隔も短くなっています。さらにヴァルハラ帝国は不穏な動きを見せており、闇に対抗するどころか、スタンピードに便乗して他国を攻撃するやもしれません」

「この国のため、世界のため、決断せざるを得なかったのです」


 美咲が懸念を示す。

「でも、技術的に難しい問題がありますよね。安全のため簡単には暴発しないこと。敵陣の中で簡単に爆発させること。両立は難しいのでは?」


 大輔も続ける。

「それに、どうやって闇の中心に持っていくんだ?下手すれば国が丸ごと吹き飛ぶぞ」


 エレノアは美咲に視線を向けた。

「その問題を解決するのが『虚空の扉』です」


「虚空の扉……」

美咲の瞳が大きく開かれる。

(私たちはそのためにここまで来たんだ……)


「ええ、お約束した通り、虚空の扉の知識をあなた方に与えるつもりです」

「ですが……正直に言うと、虚空の扉は決死隊に使用させるつもりだったのです」

「決死隊……ですか?」

 美咲が首を傾げる。


「闇の最奥に突入し、虚空の扉で紫水晶を転移させる特殊部隊です」

 バレーンが説明する。


「私たちは当初、あなた方の力は不足していると判断していました」

「しかし」バレーンが続ける。

「あの戦いを見て、私の考えは変わりました。いや、完全に圧倒されました」


 彼は涼介に深々と頭を下げる。

「闇突入のために、禁呪級呪文の開発も進めました。それでも最奥に行くのは無理だと……」

「魔石獣との戦いを見て確信しました。最奥へ行けるのは、あなた方しかいない」


「私自身も、決死隊として参加するつもりです」

 エレノアの告白に、部屋中が静まり返る。

「それが首相として、私のできる最大限……」


 デミットが進み出た。

「勇者様方の協力が得られるなら、ドワーフの国に技術協力を求めましょう。彼らなら紫水晶の技術的問題を解決できる可能性があります」


 エレノアは涼介に向き直り、真剣な表情で言った。

「勇者よ、闇を倒して世界を救ってはくれませんか?」


 涼介はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。

「……その為に俺はここにいる」


 その言葉に、部屋中から歓声が上がった。

 希望の光が、差し込んできたかのようだった。


「スタンピードを防いだアストラリア国王に協力を求めれば、決死隊は盤石なものになるでしょう!」

 バレーンが嬉々として提案する。


 その時、突然ドアが開き、兵士が慌てた様子で飛び込んできた。


「首相!重大報告です!」


「何事か?」

エレノアが尋ねる。


「アストラリア王国とヴァルハラ帝国が同盟を結びました!」

 部屋中に衝撃が走った。


「なんですって?ヴァルハラ帝国とアストラリアが同盟?」

 エレノアの顔から血の気が引く。


「そんな……」

 美咲が声を詰まらせる。


 エレノアの手が震えていた。

「ヴァルハラ帝国が王国に何かをしたに違いありません!犬猿の仲だった、あの2国がこんなに簡単に……」


「遥斗君たちは大丈夫なの……?」

 美咲の声に不安の色が混じる。


 事態は風雲急を告げていた。

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