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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第4章 エルフの呪詛編

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242話 突破口を開け

「シエルちゃん、シエルちゃん……」


 グランティスの囁くような声がシエルに届く。

 エメラルドオーガが威圧感を増す中、場違いな軽薄さを含んだその声に、シエルの眉がピクリと動いた。


「なんなんっすか!?今忙しいっす!」


 シエルは目に苛立ちを滲ませながら振り返る。

 怒りが込めらた視線を受けても、グランティスは悪びれる様子もなく彼女に近づいてきた。


「あのさぁ」彼はさらに声のトーンを落とし、遥斗に聞こえないよう小声で言う。

「ここは一旦撤退した方がよくね?」


「は?」シエルの表情が一瞬で硬直した。


 グランティスは片手を口元に当て、真顔で続ける。

「俺たちの攻撃、全然効いてないじゃん?このままじゃマジで命に関わるぜ」

「魔法も物理攻撃も弾かれるエメラルドの鎧。俺たち、完全に相性最悪だよぅ」

 彼の指先がディスチャージャーに触れ、心なしか青白い光が震えているように見えた。


 シエルは戸惑いの表情を浮かべながらもチラリとエメラルドオーガを見た。

 確かに、全身をエメラルドで覆われたその怪物は、これまでのどのモンスターよりも強固な防御能力を誇っていた。


「でも......素早いと噂のオーガから、逃げられる気がしないっすよ?」

「だからさ、秘策があるんだって」

「秘策?」

「遥斗君に頑張ってもらってる間に、俺たちは戦略的撤退っていうのはどう?」

 グランティスは肩を竦める。


 その言葉を聞いた瞬間、シエルの瞳から火花が散った様に見えた。


「師匠を置いていけるわけないっすーーーー!!」


 その声は小さな体から想像もつかないほどの大音量で、グランティスは思わず両耳を手で塞いだ。


「しーしーっ!静かに!バレるって!」

 グランティスは慌てて人差し指を口元に当て、シエルを制しようとする。


「うるさいっす!仲間を置いて逃げるなんて言葉を口にする奴は、冒険者失格っす!」

 シエルは勢いよく杖を振り回す。

 その瞳には烈火のような怒りが宿っていた。


「お前だけ逃げればいいっす!自分は師匠と共に戦うっす!」

「おいおい……」

 グランティスの困惑した顔を横目に、遥斗は静かに二人の会話に割り込んだ。


「グランティスさんに居なくなられると困るんだけど」

 遥斗の声は落ち着いているようでいて、その中に微かな軽蔑が混ざっていた。


「冗談だって、冗談」

 彼は前髪をかき上げながら、キリッとした表情で言い放つ。

「仲間を置いて逃げるわけねぇだろ!俺はエルフの戦士だぜ?」


「こいつ本当にいい加減にしろっす!」

 シエルが侮蔑の表情で睨む。

「エルフ族の面汚しっす!」


 グランティスの自信に満ちた態度とは裏腹に、遥斗はエメラルドオーガの様子がおかしいことに気づいていた。

 オーガが静止していたのは、何か理由があるはずだ。


 その時、エメラルドオーガが突如として動いた。


「来るぞ!」


 遥斗の警告と同時に、オーガが地面を蹴った。

 巨体とは思えない俊敏さで、一気に距離を詰める。

 その速度は肉眼で追うのが難しいほどだった。


「くっ……!」


 遥斗は素早く魔力銃を構え、連射を開始した。

 パンッ、パンッ、パンッ!と鋭い銃声が響く。

 弾丸はエメラルドオーガに向かって飛ぶ。


 しかし、オーガは見事に銃弾を避け、驚異的な跳躍力で宙に舞い上がった。

 月明かりに照らされたエメラルドが、夜空で星のように瞬く。


「うわぁぁぁぁっ!?空から来るっす!」

 シエルが上を指差して叫んだ。


 三人の頭上から、重力に身を任せたエメラルドオーガが落下してくる。

 その姿はさながら隕石、このまま直撃すれば間違いなく命に関わる。


「二人とも避けろ!」

 遥斗の叫びに、三人は必死で飛び退いた。


 ドゴォォォォォォン!!


 エメラルドオーガが地面に着地すると、衝撃で大地が揺れ、砂埃が舞い上がる。

 その足跡は地面に深く刻まれ、周囲の木々が振動で揺れ動いた。


(何て攻撃だ……見た目よりも遥かに重いぞ!)


 遥斗は衝撃の大きさに目を見開いた。

 エメラルドの硬度と重量が相まって、オーガはまるで動く鉱石のようだった。

 あの重量に踏みつぶされれば、一瞬で命を落とすだろう。

 回復がどうの、という話ではない。


 砂埃の中から、エメラルドオーガの姿が浮かび上がる。

 オーガは周囲を見回すと、近くに生えていた大木に手を伸ばした。


「おい!あれ……まさか!まずいぞーーー!」

 グランティスの絶叫を聞いた時には既に遅かった。

 エメラルドオーガは巨木を根元から引き抜き、まるで投擲武器のように三人に向かって投げてきたのだ。


「ひぃっ!」

 突然の攻撃に、避ける時間はない。

 巨木の影が三人に迫る中、シエルが咄嗟に杖を振り上げた。


「嵐よ、全てを飲み込む渦と成れ!ストームブレイド!」


 彼女の詠唱と共に、風の刃が形成され、飛来する巨木に向かって放たれた。

 風の刃が木を真っ二つに切り裂き、分かれた幹が三人の両脇を通り過ぎていく。


「危なかったっす……」

 シエルの額から汗が流れ落ちる。


 しかし息をつく間もなく、エメラルドオーガが再び動き出した。

 オーガはダッシュで距離を縮め、シエルに向かって巨大な拳を振り下ろす。


「シエル!」


 遥斗は反射的に彼女の前に飛び出し、身体を盾にした。

 オーガの拳が遥斗の腕を直撃する。


 ドゴッ!


 強烈な衝撃と共に、遥斗とシエルは吹き飛ばされた。

 それは想像を絶するものだった。

 遥斗の腕から骨の折れる音が聞こえ、胸部にも激痛が走る。

 内臓のいくつかが損傷したことを、彼は直感的に理解した。


 遥斗は空中で体勢を整え、シエルを抱きかかえたまま着地しようとする。


 バキッ!


 なんとかシエルを守り続け、自分の体を緩衝材にしながら地面に倒れこんだ。


「師匠!師匠!」


 必死の叫び声が遥斗の耳に届く。

 意識を保とうと努めながら、シエルの様子を確認した。

 少し擦り傷はあるものの、遥斗が衝撃を受け止めたおかげか、彼女に大きな怪我はなかった。


「良かった...」遥斗の口から血が溢れる。


 エメラルドオーガを見ると、追撃して来る様子はなく、むしろ戸惑ったように立ち止まっていた。

 その碧い瞳には、わずかな驚きの色が宿っている。

 人族がこれほど脆いとは思わなかったのだろう。


「この野郎ーーーーっ!」

 グランティスの怒号が響き渡る。

 彼の表情は激怒に歪み、手にしたデスペアが震えている。


「許さねぇぞ!よくもシエルちゃんを!」


 グランティスはデスペアを思い切り投げつけた。

 チャクラムは空気を切り裂きながら、エメラルドオーガに向かって飛んでいく。


 しかし、オーガは片手で顔をガードしただけで、逃げる様子も見せない。

 先ほどの攻撃でデスペアの威力を見切ったのだろう。

 デスペアはオーガの肩口に当たったが、やはり本体に傷をつけることはできなかった。


「ちっ!」グランティスの舌打ちが聞こえる。


 遥斗はこの隙を逃さず、マジックバックから最上級HP回復ポーションを取り出し、一気に飲み干した。

 全身が緑の光に包まれ、折れた骨が繋がり、損傷した内臓が修復されていく。

 彼は素早く立ち上がり、シエルを見下ろした。


 シエルの瞳には涙が溜まっていた。

「師匠……自分のせいで申し訳ないっす……」


 彼女の声は震えており、小さな拳が強く握られている。

 魔導士の帽子が傾き、その下から覗く表情には罪悪感と悔しさが入り混ざっていた。


 遥斗は優しくシエルの頭を撫でた。

「大丈夫だよ、シエル」

 遥斗の声は穏やかだが、その目は鋭い光を宿していた。


「これから指示を出すから、すぐに反応して欲しい。できる?」

 シエルは涙を拭い、力強く頷いた。

「出来るっす!」


 遥斗は振り返り、大声でグランティスにも同じ言葉をかけた。


「グランティスさん!これから指示を出します。すぐに反応できますか?」


 シエルを傷つけられたことに怒り心頭のグランティスは、デスペアを握りしめたまま振り返った。

 彼の顔には珍しく冷酷な表情が浮かんでいた。


「作戦があるならとっととやれ!」彼は息巻く。

「このクソ野郎、絶対に八つ裂きにしてやるからな!」


 遥斗は二人の意思を確認すると、素早く作戦を説明した。


「合図をしたら、デスペアをオーガの喉元に投げてください」

「喉?」グランティスが疑問に思ったようだ。

「はい!生物であれば、ほとんどの種族は喉が弱点です!」


 遥斗は冷静に説明する。

「エメラルドの覆いがあったとしても、呼吸のためにどこかに隙があるはずです。そしてオカートを発動して、動きを完全に封じてください」


 遥斗の言葉に、グランティスの目が輝いた。

 彼はデスペアを手に取り、軽くくるりと回した。


「任せとけ」

 彼の声には殺気が混じっていた。


 三人の視線がエメラルドオーガに向けられる。

 オーガもまた、三人を見据えていた。

 次の瞬間、決着がつくことを、全員が感じていた。

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