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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第4章 エルフの呪詛編

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231話 デスペア

 ラージホーンタウロスに貫かれたエルフの体を、ガクガクと揺さぶる。

 ショック状態で意識を失っていたが、角が体を抉る痛みで目を覚まし悲痛な叫びを上げた。


「うぎゃぁぁっ!」


 血に染まった唇から放たれた絶叫は、ダンジョンの壁に反響し、全員の恐怖を駆り立てる。


「撃てーーー!」

 セフィルの鋭い指示が飛ぶ。


 隊員が一斉に弓を引き絞り、ラージホーンタウロスの背中に矢を打ち込む。


 しかし巨体は微動だにしない。

 肩を少し震わせて不快感を示すだけだ。

 その防御力は予想を遥かに上回っていた。


「くそっ...効いていないぞ!」

 エルフの一人が焦りの声を上げる。


 ラージホーンタウロスは低く唸りながら、壁に突き刺した角をゆっくりと引き抜いた。

 その動きに伴い、傷口から大量の血が噴き出す。

 重傷を負ったエルフは力なく地面に崩れ落ちた。


 怪物は全身の筋肉を膨張させ、地面を蹄で強く蹴り、轟音を立てて威嚇する。

 その赤い眼は、一人一人を値踏みするように辺りを見渡した。


「もう一度!狙えーーーー!」

 セフィルの二度目の指示で、今度は怪物の胸部に矢が突き刺さる。

 しかし致命傷には程遠い。

 むしろ怒りを煽るだけの結果となった。


「ブモオオォォ!」


 ラージホーンタウロスは再び前傾姿勢を取り、討伐隊全体に向かって突進を開始した。

 しかし今度は不意打ちではないため、全員が間一髪で回避する。


 空振りしたラージホーンタウロスの角はダンジョンの壁に深々と突き刺さり、その一部を破壊してしまった。

 衝撃でダンジョン全体が振動し、天井から小さな岩が落下する。


「これは...1階で出てくるレベルのモンスターじゃないぞ!」

 セフィルの声に明らかな焦りが混じる。


 どうやらラージホーンタウロスは、ナチュラス周辺に出現するモンスターの中でも強敵に分類される存在らしい。

 そして、比較的弱いモンスターの討伐を目的とした今回の部隊では、このような敵と戦う準備も心構えもなかった。


 全員の目がラージホーンタウロスに釘付けになる中、遥斗だけは瀕死の状態で倒れたエルフへと駆け寄っていた。


「今助けます、もう少しだけ待っててください」

 遥斗はマジックバックから中級HP回復ポーションを取り出し、エルフの傷口に注ぎかけた。

 緑色の光がエルフの体を包み込み、傷が徐々に閉じていく。

 致命的な胸部の穴は完全には回復しなかったが、命の危機からは脱したようだ。


 パタパタという小さな足音が背後から聞こる。

 シエルが駆けつけてきた。


「どうっす?助かりそうっすか?」

「命に別状はないと思う。でも戦線に復帰はちょっと無理そうかな」

 遥斗の言葉にシエルは安堵の表情を浮かべた。


 一方、討伐隊はラージホーンタウロスと交戦を続けていた。

 個々のエルフの能力は確かに高い。

 動きも俊敏で無駄がない。

 しかし、遥斗は彼らの戦い方に致命的な問題を見出していた。


(職業が無いせいで役割分担ができてない...)

 人族なら戦術は明確だ。

 攻撃を受け持つタンクが最前線に立ち、バフ・デバフで補助職がサポートする。

 そして大火力の魔法・スキルを放つアタッカーが決定打を与える。

 ——そんな連携が一般的だ。


 しかしエルフたちは皆が同じような戦い方をしている。

 個々の回避力、命中率、攻撃力は優れているものの、ラージホーンタウロスの厚い防御を破るほどの一撃を繰り出せていないのだ。


 対するラージホーンタウロスは、その圧倒的な防御力を活かし、単純な角での直線攻撃を繰り返す。

 一撃必殺級の威力を持ち、食らえば一人ずつ脱落していくだろう。

 このままではジリ貧だ。


「シエル」

 遥斗は小声で尋ねた。

「アレはここで使える?」


「もちろんっす」

 シエルの瞳が輝いた。


 アレ——それは昨日習得したばかりのシエルの新魔法だ。

 遥斗の特訓の成果で、シエルのレベルは67まで上昇していた。

 その火力は既に魔力銃を上回っている。


(いざとなれば...シエルと僕の連携で...)

 遥斗が援護の準備を考えていた時、戦況が一変する。


 セフィルとグランティスが前に踏み出したのだ。

 セフィルは腕に特殊なボウガンを装着し、グランティスは「デスペア」を手に取っていた。


 遥斗は思わず息を呑んだ。

(理外の刃を持つ二人...)


 他のエルフたちは自然と二人の邪魔にならないよう距離を取った。

 彼らには明確な信頼関係があるようだ。


「お先に!隊長!」

 グランティスが軽快な声を上げ、ラージホーンタウロスに向かって急接近する。

 その動きはジグザグに飛び跳ねながらの高速移動。

 まるで空を切り裂くかのようだった。


 直線的な攻撃しかできないラージホーンタウロスは、予測不能な動きに狼狽を隠せない。

 しかし、さすがに至近距離まで迫られれば、狙いを定める必要がないため攻勢に出る。

 グランティスめがけて突進を開始した。


「まぁそう来るよね!」

 グランティスの体がふわりと浮き上がる。

 そして突進してきたラージホーンタウロスの頭に片手をおき、まるでマタドールのように片手伸身宙返りで攻撃をかわした。


 さらに空中で身体を捻り、「デスペア」を放つ。

 漆黒のチャクラムが空気を切り裂きながら飛ぶ。

 その一撃はラージホーンタウロスの背中を深く切り裂いた。

 傷口からは黒い煙のようなものが漏れ出してくる。


「デスペア、戻れ!」

 グランティスの命令でチャクラムが彼の手に戻ってきた。

 まるで目に見えない糸でつながれているかのようだ。


 黒い煙はラージホーンタウロスの体を覆う。

 煙は次第に死神のような形となり、モンスターの体内に吸収されていった。


 次の瞬間、巨大な牛頭の怪物は膝から崩れ落ちた。


「どうだ!こいつに切られた奴は歩けなくなるのさ!二度とな!」

 グランティスが高らかに叫ぶ。


 遥斗の目は「デスペア」に釘付けになっていた。

 これが理外の刃の力——「オカート」が実体化した姿だった。

 強敵を一瞬で無力化する恐るべき能力。


「これが...理外の刃...本当に理から外れている」

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