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23話 湖畔の戦い

挿絵(By みてみん)

 ルシウスの研究室に集まった一行は、床に描かれた複雑な魔法陣を不思議そうに眺めていた。

 ルシウスが魔法陣の一部を指さしながら呟いた。


「この魔法陣、私の意思で他の場所と繋がるゲートになるんだ」


 アリアは眉をひそめた。


「へえ、随分と便利な代物じゃない。でも、そんなものを自分の研究室に設置するなんてね」


 ルシウスは軽く肩をすくめ、ニヤリと笑った。


「まあまあ、細かいことは気にするな。それより、これを受け取ってくれ」


 彼はポケットから小さなペンダントを取り出し、アリアに手渡した。

「これは何?」アリアが怪訝そうに尋ねる。

「ああ、それはね」ルシウスが得意げに説明を始める。


「念じるとゲートの向こうに転移するためのキーアイテムさ。目的地のミストヴェール湖の近くまで一瞬で行けるんだ」

「ミストヴェール湖?」遥斗が首をかしげる。


 エレナが小声で説明した。


「この国で最も神秘的な湖のよ。霧に包まれていて、周囲にはたくさんの伝説があるの」


 アリアはため息をつきながら、ペンダントを首にかけた。


「はいはい、用意周到なところは相変わらずね。まったく、あなたって人は...」


 ルシウスは満足げに頷くと、今度は遥斗に近づいた。


「さて、遥斗くん。これを持っていくんだ」


 彼は大量のMPポーションと空き瓶を遥斗に渡した。

「えっと、これは...」遥斗が戸惑いながら受け取る。


「ミストヴェール湖の近くには、アイアンシェルクラブというモンスターがいてね。かたい殻に覆われていて、普通の攻撃じゃびくともしないんだ。でもHPは低くて、倒すと経験値がたっぷり手に入る。できるだけ多く討伐するといいよ」


 アリアの顔が引きつった。


「ちょっと待ちなさいよ!そんな話、聞いてないわ!」


 ルシウスは意地の悪い笑みを浮かべた。


「おや?言わなかったかな?まあ、今言ったからいいじゃないか」


「この...!」アリアが怒りに震える声を上げかけたその時、ルシウスが魔法陣を起動させた。


「さあ、行ってらっしゃい!」


 眩い光に包まれ、気がつくと2人はミストヴェール湖のほとりに立っていた。

 霧に包まれた神秘的な湖面が広がり、周囲には鬱蒼とした森が広がっている。


「くそっ、あのルシウス...完全に騙されたわ」


 アリアが歯ぎしりしながら呟く。


「ここが...ミストヵェール湖?なんだか、物騒な雰囲気だなぁ。でも...なんだか、神秘的で美しいとも思う」


 遥斗は湖面を見つめながら、小さな声で言った。

 アリアは遥斗をジロリと見た。


「おい、小僧。どうやってそのアイアンシェルクラブってやつを倒すつもりなんだ?」


 遥斗は少し躊躇いながら説明を始めた。


「えっと...僕の能力で、モンスターのHPを奪って、それをポーションに変換するんです」

「はぁ?何言ってんだ、お前。さっぱり意味が分からん」


 アリアは眉をひそめた。


 その時、湖面が大きく波打ち、巨大な影が水中から現れ始めた。

「な...なんだ!?」遥斗が驚きの声を上げる。

 湖から這い上がってきたのは、想像をはるかに超える巨大なアイアンシェルクラブだった。濃紺の金属光沢を放つ殻に覆われ、車ほどもある巨大なハサミを持っている。


 遥斗は思わず後ずさった。「こんなの聞いてないよ...」


「ふん、大きいだけじゃないか」アリアは鼻で笑いながら、盾を構えた。


 アイアンシェルクラブの巨大なハサミが襲いかかる。アリアは一歩も引かず、盾でその攻撃を受け止めた。衝撃で大地が揺れる。

 アリアの剣にオーラが宿る。しかし、彼女は躊躇した。


「くっ...倒しちゃいけないんだったわね」


 代わりに、彼女は反対側にもっている盾でアイアンシェルクラブを強くはじいた。


「シールドバッシュ!」


 モンスターが吹き飛ばされる。しかし、その時、湖から新たに2匹のアイアンシェルクラブが現れた。


「チッ...こいつら、群れで行動してやがる」


 突如、3体のアイアンシェルクラブが同時にプロテクションの魔法を発動。その殻が赤く輝き、さらに硬化した。


 アリアが舌打ちする。「こりゃあ、厄介だな...小僧、下がってろ!」


 アリアは歯を食いしばった。

 彼女の身体が青白い光を放つ。一瞬の静寂の後、アリアの姿が消えた。

 次の瞬間、彼女は最も近いアイアンシェルクラブの背後に現れ、盾で強くモンスターの殻を叩いた。


「シールドバッシュ!」


 鈍い音が響き、アイアンシェルクラブが数メートル吹き飛ばされる。しかし、その硬い殻にはほとんど傷一つついていない。

 アリアは冷静に状況を観察する。そして彼女の足が地面を蹴る。風のごとく今度は正面からアイアンシェルクラブに突進する。


「シールドバッシュ!」


 盾で殴りつけるが今度は微動だにしない。


「チッ、かってえな」アリアが息を整える間もなく、残りの2体が一斉に襲いかかってくる。

 彼女は華麗に舞い、次々と攻撃をかわす。片方の足で蹴りを入れ、もう一方の手で剣の柄を使って打撃を与える。しかし、3体を相手に戦うのは容易ではない。

 アリアの動きが徐々に鈍くなっていく。彼女の頬に小さな傷が付く。


「くっ...」


 遥斗は、アリアの壮絶な戦いを目の当たりにして、震える声で叫んだ。


「アリアさん!」


 アリアは一瞬、剣を振り上げかけたが、ルシウスの言葉を思い出して急停止した。


「くそっ...倒しちゃいけないんだった」


 彼女は剣を鞘に収め、素手での戦いに切り替えた。しかし、モンスターの硬い殻に対して、素手での攻撃はほとんど効果がない。

 アリアは苦戦を強いられながらも、巧みな動きでモンスターたちの攻撃を避け続ける。しかし、その動きにも限界が見えてきた。


「これじゃあ、キリがないな...」

 そんなアリアの姿を見て、遥斗の中で何かが芽生えた。


「ポップ!」


 遥斗の声が響き渡る。

 突如、最も近くにいたアイアンシェルクラブが光に包まれ、消滅した。


 アリアは目を見開いた。「な...何!?」


 遥斗の手には小さな瓶が現れ、中には青い液体が入っている。

 突然、遥斗の体が赤い光に包まれた。


「これは?レベルアップ...」遥斗の声が小さく漏れる。


 アリアは目の前で起こっている出来事を理解しようと必死だった。彼女の頭の中は混乱に支配されていた。


(何が起きている?あの硬い殻のモンスターが一瞬で?)


 彼女の目は遥斗と消滅したモンスターがいた場所を行ったり来たりしていた。長年の戦いの経験を持つアリアでさえ、この状況を把握することができない。

 遥斗は再び目を閉じ、集中する。


「ポップ!」


 2体目のアイアンシェルクラブも光となって消えた。

 遥斗は再び赤い光に包まれてレベルアップした。

 アリアは剣を構えることも忘れ、ただ呆然と立ち尽くしている。彼女の口が開いたり閉じたりを繰り返すが、言葉が出てこない。


(これは幻覚か?いや、私は確かに目の前でモンスターが倒されるのを見た。でも、どうやって?)


 最後の1体に向かって、遥斗は静かに呟いた。


「ポップ」


 3体目も光となり、消滅した。

 湖畔に静寂が戻る。


 遥斗の体が三度赤い光に包まれる。3回連続でレベルアップし、彼の顔には少し疲れた表情が浮かんでいた。

 アリアは一息つき、まるで幻を見たかのように目を擦った。彼女の中で、驚きと混乱、そして少しの恐れが入り混じっていた。長年の戦士としての経験が、目の前で起きた出来事を受け入れることを拒んでいるかのようだった。


「お、おい...今の、なんだ?」


 彼女の声は、珍しく動揺を隠せていない。


「お前...一体何者なんだ?」


 アリアの目には、理解できない現実を目の当たりにした者特有の、困惑と畏怖の色が浮かんでいた。

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