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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第4章 エルフの呪詛編

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222話 オカート

(オカートを宿すもの...?)

 未知の言葉が、エレナの好奇心をくすぐる。


「それはどのような武器なのですか?」

 エレナの声は弾んでいた、

 武器や防具の鑑定、素材の分析、そして道具の作成――彼女は生粋の錬金術師であり、その知識欲は尽きることを知らない。


 ヘスティアはエレナの反応に、満足げに笑みを浮かべた。


「オカートとは、異世界からもたらされた知識。それを宿す武器は、私たちの間では『理外の刃(トランスディング)』と呼ばれています」

「理外の...刃...」


 遥斗が小さく呟いた。

 その名称に何かを感じるが、今はまだ思考が繋がらない。


「初めてお聞きしました!アストラリア国王にもヴァルハラ帝国にも...ありません!」

「それでは...お見せてあげましょうか?」

「えっ!ここにあるんですか!」


 ヘスティアはメイドに向き直る。


「アイラ、お願いできますか?」

「承知いたしました。それでは失礼します」

 アイラは小さく頷くと、両手で裾を持ち上げ、スカートをたくし上げる。


「あ、ちょっと...!」


 エレナが思わず制止しようとした瞬間、アイラの太ももに装着されたナイフホルダーが一瞬目に飛び込んできた。


 視認できないほどの速さで、アイラの手が動く。

 いつの間にかテーブルの上に、一振りの短剣が置かれていた。


「これが...」


 遥斗の言葉が喉で詰まる。

 ごく普通の短剣のように見えるそれは、異様な存在感を放っていた。

 黒よりも昏く、光を吸い込むかの如き光沢を持つ刃。

 柄の部分には、見る者が視線を逸らしたくなるような、不気味な髑髏の意匠が施されている。


理外の刃(トランスディング)、忌避の短剣『ドレッド』です」


 アイラの静かな声が、食堂に響いた。


 遥斗は鑑定スキルを発動させる。

 情報が脳裏に流れ込んできた。


(攻撃力:50。切られた対象は呪いがかかる。ステータスダウン:ステータス値は永続的に半分になる」


 衝撃的な内容。

「呪い!?永続!?ステータス半分!?何だこれ!」


 思わず叫んだ遥斗。

 エレナも同じく鑑定したのか、戸惑いの表情を浮かべる。

「嘘でしょ!呪い?そんなものが武器に付与されているなんて聞いた事ない」


「ノロイ?呪いか?武器に付与されているのか!」

 ユーディが即座に問いかける。

 緊張した面持ちで、その禍々しい短剣を注視していた。


 一方マーガスとシエルはキョトンとしている。

 全く意味が分からないようだ。


(みんな...呪いが武器に付与できるのは...知らないのか?)


 遥斗の脳裏で、閃光のような閃きが走った。

 堕ちた英雄、銀髪のルシウス。

(その呪いは、彼から全ての能力を奪った...神に与えられし力さえも)

(そうだ。エルフの国で、何かがあったのではないかと我は睨んでおる)

 ユーディの言葉を思い出す。


 遥斗はエレナに尋ねた。

「この世界では呪いは実体化しないの?魔法みたいに」

「しないわ。神に近い存在が使う...神獣を無残に殺した後、残った力でバッドステータスを受ける...みたいな。そんな話は聞いた事がある...目が見えなくなるとか、腕が動かなくなるとか」

「ステータスで確認は無理?」

「ええ、魔法とは違うから。どうやって発動するのか分からないわ」

「人が呪う方法は、この世界にはないんだね...」

「異世界にはあるの!」

「うん、まあ...でも効果は無いと...思う...」


 この世界で死んだ者はアンデッドになる。

 また思念は魔法で具現化される。

 それゆえ「呪う」という概念が存在しないのだ。

 そう遥斗は推論する。


(ということは、呪いを武器化する発想は...異世界人の思考?)

 オカート。

 科学と相対するもの。根源であり、可能性。


「オカート...呪い...オカルトか!」


 その言葉が、口から滑り出た瞬間、遥斗は愕然とした。

 魔法やスキルが質量保存の法則に縛られるなら、それに囚われないオカルトを利用すれば抜け道になる。

 まさに可能性。

 魔法というオカルトがあるなら、呪いというオカルトも使える。


「そんなの...無茶苦茶だ...」


 遥斗の顔から血の気が引いていく。

 しかし、目の前に存在する刃を認めざるを得ない。

 全身から力が抜けていくような感覚に襲われた。


「何でも有りじゃないか...」


 頭を抱えた遥斗だったが、ふと気づく。

(違う...違う!そうじゃない!)


 遥斗今まで、魔力=エネルギー=物質という等式で考えていた。

 しかし、そこに新たな可能性が加わった。


 根源。


 例えばステータスは実際に物質として存在する訳ではないが、現実世界に影響を及ぼす。

 それを「根源」というものと仮定すれば...


 例えば加速のポーション。

 根源に作用して奪ったものを別のものに与える。

 その途中にはポーションという物質にも変化する。

 世界をエネルギーに変換して相手を倒すのではなく、相手の根源に影響を与えて倒す。


 職業やスキルといったものも同じだ。

 フェイトシェイバーを利用して、増やしたり、減らしたりする事が出来る。


「今までずっとやってきたことなんだ...」


 遥斗の呟きに、一同が不思議そうな視線を向ける。


「何ら矛盾はない...新しい可能性...」

「遥斗くん?大丈夫?」

 エレナの心配そうな声が耳に入るが、遥斗の頭の中は新たな思考で満ちていた。


「あの...永続効果ということは、二度と元には戻らないのですか?」

 エレナの質問に、ヘスティアは静かに頷いた。

「はい。それゆえに、多くは出回っておらず、使用者も厳選されています」


 彼女はテーブルの上の短剣を見つめながら続けた。

「他にも様々な効果のある武器がありますが、私たちが持つものは、全て月の女神様から与えられたものばかり。私共に作ることは出来ません」


「確かに、こんなものが大量に出回っていれば世界は終わりだな。ステータスが半分とは」

 ユーディの言葉には、深い警戒心があった。

 帝国皇帝として、敵対した時の対処を考えているのだろう。


(違う...ステータスが半分になるのは理屈に合わない)

 遥斗は心の中で反論した。

 消えたステータスはどこに行ったのか。

 おそらく消えていない。

 ただ使用が制限されているのだ。


(つまり...呪いを解くことができれば...元に戻る!)


 解呪。その方法が分かれば...

 遥斗の視線が鋭く変わり、短剣を凝視する。


「師匠?」


 隣でシエルが心配そうに声をかけ、遥斗は我に返った。

 帽子の陰から覗く彼女の瞳には、不安の色が浮かんでいる。


「あ、ごめん...大丈夫だよ」


 遥斗は笑顔を作り、ヘスティアに向き直った。


「大変参考になりました」

 にこやかにお礼を告げると、ヘスティアも微笑み返す。


 マーガスは既に食べ終わった皿を前に、少し難解な話題に飽きたような表情を浮かべていた。

 無意識に腕を組み、椅子の背もたれに深く身を預けている。

 この辺りが潮時だろう。


「暫くはこの街でお世話になりますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ。ナチュラスでの滞在が、皆様の旅の糧となりますように」


 窓の外では、夜の闇が深まり、エルフの街の輪郭を優しく包み込んでいた。

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