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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第4章 エルフの呪詛編

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207話 エルフの味、自然との調和

「異世界の方にお会いできるとは!なんという光栄でしょう!」

 エルフの歓喜の声が街路に響き渡る。


 その声を合図にしたかのように、あちらこちらから優美な姿が集まってくる。

 銀髪、金髪、漆黒...様々な髪の色を持つエルフたちが、次々と遥斗たちを取り囲んでいった。


「まさか今日このような出会いが!」

「異世界からいらした方とお話できるなんて!」

「人族と同じ姿をしていらっしゃるのですね!」

「お噂は伺っておりました!」


 興奮した声が飛び交い、瞬く間に一行は人だかりの中心となっていた。


 マーガスは警戒し、ガントレットに手を添える。

 エレナは困惑しながらも遥斗の傍に寄り添う。

 ユーディも真剣な眼差しで、剣の柄に手がかかっていた。


 その時、群衆が自然と道を開いた。

 そこには、これまでのエルフたちとは一線を画す気品を漂わせた女性が立っていた。

 銀色の長い髪は光を受けて神々しく輝き、深い緑の瞳には知性の光が宿っている。


「私はヘスティア・ヴァーヴァーと申します」

 その声には、どこか神々しさすら感じられた。

「この街、ナチュラスの長を務めております」


 遥斗たちが驚きに目を見開く中、ヘスティアは優雅に一礼した。


「ここではなんですから...どうか私の家にお越しください。ゆっくりとお話など...」

 彼女は柔らかな微笑みを浮かべる。


 ヘスティアの態度からは敵意は感じられない。

 しかし、これほどまでの歓迎は却って不自然だ。


 ユーディに目を向けると、僅かに顎を引いて頷いた。

 危険察知に長ける彼女が警戒を解いているということは、少なくとも脅威はないと判断したのだろう。


 ここで誘いに応じるのは危険かもしれない。

 しかし、ここで断れば、エルフたちとの関係が悪化してもおかしくない。

 街の長を、公衆の面前で侮辱するに等しいのだから。


 遥斗はシエルに目を向けた。

 彼女はまだ途方に暮れている。

 宿も決まっていない今、この状況で街の支配者の善意を断る選択肢はない。


 遥斗たちは顔を見合わせ、静かに頷いた。

 好奇の目を向けるエルフたちに囲まれながら、一行はヘスティアの後に続いていった。


 長の家は、ナチュラスの中心に聳える巨大な樹を改造したものだった。

 樹齢千年はあろうかという大樹の幹には、優美な曲線を描く階段が巻き付き、枝々には調和を保つように建物が設えられている。

 使用人らしきエルフや人族が、忙しそうに往来していた。


 広間に通されたそこは、木の香りと陽光に満ちた空間だった。

 大きな窓からは濃緑の葉越しに光が差し込み、木目の美しい床に柔らかな影を落としている。


 メイド服姿のエルフと人族の給仕が、静かな足取りでお茶とお菓子を運んできた。

 銀の茶器に注がれた琥珀色の液体からは、独特の香りが立ち昇る。


 遥斗は差し出されたカップを手に取り、一口すすった。

「...!」

 思わず眉をひそめる。

 苦みが強く、これまで味わったことのない風味が口の中に広がった。


 クッキーのような形をした菓子も、人族の知る味とは大きく異なっていた。

 甘くもなく、塩気もない。

 ただ素材そのものの風味だけが、素朴さを演出している。


「ふふふ、人族の口には合わないでしょう」

 ヘスティアが愉しそうに微笑む。

 その表情には、異文化との出会いを楽しむような余裕が浮かんでいた。


「いえ、そんなことは...」

 遥斗は慌てて否定した。

 しかし、ヘスティアは優しく首を振った。


「エルフは自然との調和を何より大切にします。ですから、食べ物にも余計な手は加えないのが一般的なのです」

 そう説明しながら、人族の給仕が小さな瓶と、蜂蜜のような黄金色の液体の入った器を運んできた。


「これらで味を調えてください。お茶には調味料を、お菓子にはこちらの蜜を」

「では...失礼します」

 エレナが恐る恐る調味料をお茶に加え、一口すすった。

「あ...!」

 その瞳が驚きに見開かれる。


「この味...すごいです!」

 エレナの声には、心からの感動が込められていた。

 遥斗も真似てみる。

 まずはお茶に調味料を加え、クッキーに蜜を塗って口に運んだ。


「これは...」

 先ほどまでの素朴な味わいが、まるで魔法のように変化している。

 お茶の苦みは芳醇な味わいとなり、クッキーの素材の風味は蜜と溶け合って驚くほど豊かな味を生み出していた。


「不思議ですね。全く別のものみたいです」

 遥斗が感嘆の声を上げると、ヘスティアは嬉しそうに微笑んだ。

「エルフは自然を変えることはしません。ただ、引き出すのです」


 ユーディも満足げに頷いている。

 深い緑の瞳には、エルフの文化への理解と敬意が浮かんでいた。


「まことに素晴らしい味わいです。アストラリア国王でも、これ程の物には滅多に出会えません」

 マーガスがお茶を啜りながら、風味を愉しんでいる。

 彼は美しいエルフの長を前に、すっかり騎士然とした物腰で振る舞っていた。

 背筋を伸ばし、優雅にカップを掲げる姿は、さながら社交界の華と見紛うばかりだ。

 その金髪の容姿と相まって、確かに絵になる光景だった。


(素を出さなければ、誰もが認める王国貴族なんだよな...)

 遥斗はマーガスの意外な一面に、少し感心してしまう。


 シエルはといえば、相変わらず帽子の陰に顔を隠すように俯いたまま。

 しかし、彼女の前に置かれたお菓子は、少しずつ減っていた。


 遥斗は横に控える人族のメイドに目を向けた。

「こちらでは、人族もエルフ族と同じように働いているのですね」

「異種族が同じように生きていくのは...おかしいことなのでしょうか?」

「いえ、素晴らしいと思います」

 遥斗は心からの感動を込めて答えた。


「この国では、エルフ族であれ人族であれ、自由に働き、自分の望む生き方を選べます」

 ヘスティアの声には誇りが滲んでいた。


 その時、遥斗は先ほどの疑問が未だ解消されていないことを思い出した。

「すみません...先ほどの質問の答えを聞けていませんでした。エルフの方々には職業というものは...」

「ありません」

 ヘスティアは遥斗を見つめながら答える。


「人族のような、神から与えられる職業やスキル...そのようなもの、私たちにはありません。というより...それを持つのは、人族だけなのです」

「じゃあ、魔法やスキルは...」

「勿論私たちも使えます。ただし、それは努力によって誰もが身につけられるもの。個々によって得意不得意はありますが...」


 ヘスティアの声が真摯さを帯びる。

「神の力で生き方を決められるのは、おかしいことだと思いませんか?それでは生まれによって、生き方に差が出てしまう。全ての生き物は平等なのに...」


 遥斗は深い感銘を受けた。

 この考えは、元居た世界では至極当たり前のものだった。

 しかし、この世界でそれを感じたのは初めての事だった。


「では」

 ユーディの、冷静ではあるが力のこもった声で問う。

「モンスターとは...一体誰が戦うというのだ?」


 その問いかけに、広間の空気が一瞬で緊張に包まれた。

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