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202話 コンビネーション

 遥斗達がいなくなった馬車の周りでも、激しい戦闘は繰り広げられていた。


「ファイア!」

 エレナの凛とした声が戦場に響く。


 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!


 乾いた銃声が連続して轟き、魔力銃から放たれた弾丸が大気を切り裂いていく。

 空中で旋回するブラッドパラサイトの群を標的に、エレナは引き金を引き続ける。


 4発中2発が命中。

 漆黒の体躯を閃光が貫く。

 エレナの射撃の腕も決して悪くはないが、遥斗ほどの命中精度は望めない。

 クリティカルヒットが狙えず、一体を倒すには2発の命中が必要だった。


「...リロード!」

 エレナの焦る声が漏れる。

 魔力銃の装填を急ぐが、その僅かな隙を見逃すはずもない。

 真上から、鎌のような前肢を振り下ろしながら、ブラッドパラサイトが襲いかかってきた。


「エレナ!下がれ!」


 キンッ

 鍔鳴りが響く。


 誰の目にも捉えられぬ速度で、繰り出された抜刀術。

 気付いた時には、ブラッドパラサイトは真っ二つに切断されていた。


「ハヤブサの太刀...」

 サンクチュアリの刀身を、見る事もすらも叶わない。

 自分が死んでいることにも気付かぬまま、モンスターは光の粒子となって虚空へ消え去った。




「ポップ!」

 遥斗の生成の呪文で、魔力銃に次々と弾丸が装填された。

 片手では救出した魔術師の少女を支えながら、もう片手で次々と襲い来るブラッドパラサイトの頭部を撃ち抜いていく。

 魔力銃は止まる事を知らず、弾丸を吐き出し続ける。


「見せてやるぜ、王国騎士の真骨頂!オーラブレード!」

 マーガスの雄叫びと共に、ミスリルの剣身が青白いオーラに包まれる。

「これでも食らいやがれーーー!」

 走りながら、遥斗に迫るモンスターを軽快に両断していく。

 斬撃の度に放たれる閃光が、戦場を青く照らす。


「もう少し...!」

 光の粒子が舞い散る中、何とか馬車まで辿り着き、少女を内部へと退避させた。


 その時、不気味な音が地面を震わせた。

 ズルリ、ズルリという粘液質な音と共に、地面が揺れる。

「あれは...」

 エレナの声が震える。


 他に獲物がいなくなったせいか、メルティスロウムが馬車へと這い寄ってきた。

 その体表に浮かぶ巨大な人の顔が、より狂気的な表情へと歪んでいく。

 それは単なる模様に過ぎないはずだが、見る者の心に本能的な戦慄と嫌悪を呼び起こす。

 まるで地獄から這い上がってきた悪夢そのものが、獲物を求めて進んでくるかのようだった。


「あれは僕が相手をする」

 遥斗は全く冷静さを失っていなかった。

「エレナ、援護を頼める?」

「他の奴らを近寄らせなければいいのね?」

 阿吽の呼吸。

 たった一言で、エレナの青い瞳が理解の色を浮かべる。


(さすがエレナだな...)

 遥斗は満足げに頷きながら、ユーディの方を向いた。

「極光輪で馬車を守ってもらえないかな」

「長くは持たんぞ?そんなに早く倒せるのか」

「多分、大丈夫」

 遥斗の落ち着いた表情に、ユーディは安心したように見蕩れた。

 戦いを重ねるごとに増していく、遥斗への信頼。

 それは決して裏切られることのない確信へと変わっていた。


「俺は!?俺はどうする!?」

 マーガスが目を輝かせながら声を上げる。

 まるで命令を待ち望む飼い犬ような姿に、遥斗は苦笑を浮かべた。


「マーガスには一番大事な仕事がある」

「おお!なんだ!?」

 マーガスの目が期待に輝く。


「エレナの護衛」

 その言葉に、マーガスの表情が一瞬固まった。

「エレナの...護衛か?」

 その声には僅かな失望が混じる。


 しかし、遥斗の真剣な眼差しに、次第に理解が芽生えていく。


 エレナの援護射撃なしでは、メルティスロウムとの戦いに専念することが出来ない。

 意識を逸らせば、敗北は免れないだろう。

 遥斗が負ける、それはメルティスロウムへの対抗手段を失う事を意味する。

 その時には、ここにいる全員の死は避けられない。


 遥斗を守るエレナが倒されれば、ゲームオーバーが確定するのだ。

 エレナの護衛は、この戦いの勝敗を左右する最重要のポジション。

 マーガスの双肩に、チーム全員の命運が託されている。


「ふっ...」

 理解と共に、マーガスの体が武者震いを始める。

 強大な敵の前で、仲間の命を守る――それこそが、彼の理想とする騎士の在り方。

 プレッシャーは、むしろ彼の闘志を燃え上がらせる。


「うおおおおお!任せておけ!アストラリア王国の誇りにかけて、エレナは絶対に守り抜く!」

 彼らの信頼関係は、もはやこれ以上の言葉を必要としなかった。


 遥斗は満足げに微笑むと、戦場を見渡した。

 巨大な人の顔を持つメルティスロウム。

 空を覆い尽くすブラッドパラサイトの群れ。

 絶望的な戦況の中で、チームメイトの存在だけが確かな希望。


「いくよ!」

 遥斗の声を合図に、四人が一斉に動き出す。


 エレナとマーガスが遥斗に続く中、ユーディは馬車の前でサンクチュアリを構えた。

「我が剣に宿りし聖なる光よ、天より降り注ぎし神威の息吹よ、今此処に顕現せよ!聖剣奥義・極光輪!」

 皇帝の詠唱と共に、薄紅色の光の壁が馬車を包み込んでいく。


 遥斗は一気に加速する。

 次々と襲い来るブラッドパラサイトを、まるで障害物でも避けるかのように軽々とかわしていく。

 メルティスロウムへ最短距離で近づくための動き。


 背後から迫るブラッドパラサイトの羽音。

 遥斗は振り向きもせず、その存在を無視する。


「そこ!」

 パンッ!パンッ!


 エレナの放った弾が、見事に命中。

 襲撃者は光の粒子となって消え去った。


「エレナに近づくんじゃない!双蛇漸!」

 エレナを狙おうとしたブラッドパラサイトの群れは、マーガスの剣技の前に両断される。


 メルティスロウムが遥斗の姿を捉えた。

 体表の巨大な人の顔が、喜びに歪んでいく。

 

 粘液質な体表からは透明な体液が滴り落ちる。

 その一滴一滴が地面を溶かしていく様は、あまりに不気味だった。

 ズルリ、ズルリという音を立てながら蠢く姿は、この世のものとは思えない。


 しかし、遥斗は全く怯む様子はない。

 なぜなら化け物の動きは予想以上に緩慢だったからだ。

 絶対防御と引き換えに、他の能力を犠牲にしているのは明らか。

 だからこそブラッドパラサイトとの共生が必要だったのだろう。


 大きく口を開き、遥斗を丸呑みにしようとするメルティスロウム。

 その瞬間――


「ポップ!」

 遥斗の呪文が炸裂した。


 遥斗の手に最上級HP回復ポーションが握られている。

 そのポーションには、マジックバックにあった小瓶と――メルティスロウムのHPそのものが素材として使われていた。

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