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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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186話 死の輪舞(14)

 目の前で繰り広げられる光景は、もはや現実とは思えなかった。

 彼の最高傑作たるアンデッドが、まるで糸の切れた操り人形のように倒れていく。

 デュラハン・ナイトメア、ジェスター・コープス。

 長年の研究の結晶が、たった一人の少年によって覆されていった。


「なぜだ...」

 バートラムは震える声で問いかける。

「なぜ私が...このような子供に...」


 その時、彼の脳裏に一つの記憶が蘇る。

 ゲオルグ――かつての友が、帝都で野望を砕かれた。


(そうだ...何故...あの男が打ち破られたのだ...)

 思考が、氷壁が融解するように繋がり始める。


 五人の傑物。

 モンスターテイマーとしての卓越した技術と、強大な僕を持つ配下たち。

 そしてゲオルグ自身が持つ禁忌の力、モンスターフューザー。

 古の神獣すら操れるその存在が、なぜ敗北を喫したのか。


 バートラムは、ゆっくりと遥斗を見つめる。

 少年の瞳に宿る漆黒の色は、死を統べる者の象徴。

 そして全く未知の力をも宿している。


「わかったぞ...」

 バートラムの紫の瞳が揺らめく。

「全ては貴様が...原因だったのだな」


 世界の理を覆す存在。

 一つの器に複数の力を宿す異形。

 それは人の分を超えた、神に近い領域。


「ゲオルグが敗れた理由も...全て分かった」

 バートラムの声が冷たさを帯びる。

「貴様は...人族の希望などではない。むしろ...」


 遥斗は無言で、バートラムを見つめ返す。


「なんと皮肉な...世界を救うはずだった我々の野望を...打ち砕くのが...世界の理を蹂躙する化け物とは...」

 その瞼に、これまでの研究の日々が映し出される。

 失われた命の重み。

 流された血の色。

 全ては世界の救済のため。

 人族という穢れを浄化するため。

 そう信じていた。


 しかし、その全てを覆す存在が目の前にいる。

 自らが人に仇成す存在に近づこうとした果てに、本当の"異形"を目の当たりにする皮肉。


 バートラムは遥斗の瞳を覗き込んだ。

 そして、全身の血が凍り付く。

 そこには何もなかった。

 怒りも、侮蔑も、無関心ですらない。

 感情という概念そのものが存在しない空虚。

 まるでそこだけ世界に穴が開いているかのような、異質な空間。


(これは...死ですらない)

 ネクロマンサーである彼にも理解できない何か。

 あまりにも純粋な虚無。

 遥斗の漆黒の瞳は、まるで実験材料を観察するように、バートラムを見つめていた。


「あ...ああ...」

 彼の喉から、震える声が漏れる。

 これまで死を統べ、禁忌の術を究めてきた者でさえ、底知れぬ恐怖を覚えずにはいられなかった。

 自分たちが目指した先に待ち受けていたもの。

 それは想像をはるかに超えた無、そして闇そのものだった。


 バートラムはゆっくりとレギオンに近づきながら、静かに語り始める。

「もう...手遅れなのだ」

 その声には、諦観と決意が混ざり合っていた。


「この世界は既に...破滅への道を辿っている」

 百の顔を持つ巨大な亡霊の傍らで、バートラムは続ける。

「人族がモンスターと共にある限り...魔法やスキルを手放したところで、人は滅びゆく運命にある」


「そして...お前たちの存在が...全てを加速させる...神の力を宿す者たち。帝国の皇帝、そして世界に点在する神子たち...」

 遥斗に向けられた視線には、もはや恐怖すら超えた何かが宿っていた。


「貴様たちの力は...この世界を支える理すら食い尽くす...闇への変貌を...決定的なものとするのだ」

 死を崇める狂気の中にも、確かな信念が垣間見える。

 それは世界の終焉を見据えた者の、最後の告発だった。


「だからこそ...死への道を選ぶしかない。人族は生を捨てることで...初めて生き延びられるのだ...」

 矛盾した言葉を紡ぎながら、その紫の瞳はレギオンを捉えていた。


「しかし、その理屈が合っないよね?」

 遥斗の冷静な声が、バートラムの持論を遮る。


「物質からエネルギーへの変換なら、この程度の魔法やスキルでは足りなさすぎる」

 遥斗は淡々と語り続ける。

「エネルギー保存の法則。質量とエネルギーは等価。それらを考えれば、世界の質量がエネルギーに変換されたのなら、そのエネルギーはどこへ行ったの?発動する魔法の規模を考えればエネルギーの消失が起こってるんだよ」

 その声には感情がない。

 それはただ、純粋に論理的な矛盾を指摘する声。


「計算が合わない。絶対におかしい」

 遥斗の言葉は、研ぎ澄まされた刃のように、バートラムの信念に突き刺さる。

「君のその結論は、どこから来たの?」

「...クロノス教団の教えだ」

「その教えが正しいと、誰が決めたの?」

「ふん...面白い質問をする」

 バートラムは一瞬沈黙の後、静かに口を開く。


「心で理解したのだ...それこそが信仰というものだ。理屈では説明できぬ...真実というものが存在する」

 遥斗とバートラム。

 論理と信仰。

 その対極にある二つの「真実」が交錯していた。


「では...我が信仰の証を見せよう」

 バートラムはレギオンの前に立ち、両手を月に向かって掲げる。

「我が身を捧げ...更なる高みへ至らん!」


 その言葉と共に、百の顔を持つ巨大な亡霊がバートラムの体を飲み込んでいく。

 黒い瘴気の渦の中から、肉が引き裂かれ、骨が砕かれる音が響き渡る。


「ああぁぁぁーーーーッ!」

 生きながらにして喰らわれていく男の悲鳴が、夜空に木霊する。

 それは激痛の絶叫なのか、歓喜の雄叫びなのか。

 もはや誰にも判別がつかない。


 バキバキバキッ!

 人の体が引き裂かれていく不快な音と共に、レギオンの体が歪な変貌を遂げ始める。

 百の顔が蠢き、その形を変えていく。


「おい...アイツ、何をする気だ?」

 マーガスが遥斗の傍らに走り寄る。

 緊張に満ちた声で問いかける騎士に、遥斗は静かに答えた。


「多分...ネクロマンサーを取り込んで、新しい何かになるつもりです」

 漆黒の瞳は、まるで興味深い実験結果を観察するかのように、レギオンの変容を見つめていた。

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