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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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184話 死の輪舞(12)

 炎に包まれ消え去るジェスター・コープス。

 その光景に、バートラムの思考が凍り付く。


(嘘だ...嘘に...決まっている...)

 彼の傑作の一つが、あっけなく灰燼に帰していく様を、ただ呆然と見つめることしかできない。


 魔力やステータスの高い者の魂を、死体の一部という器に封じ込める。

 その死体を継ぎ接ぎにし、より高位の存在へと昇華させる。

 そうして生まれたジェスター・コープスは、魔法をも自在に操れる特異なアンデッドだった。


 通常のアンデッドとは一線を画す火炎耐性。

 致命傷を受けても自己修復できる能力。

 これらの特性を持つアンデッドを作り上げるまでに、バートラムがどれほどの失敗を重ねてきたことか。

 数え切れない実験体。

 数限りない犠牲。

 その全てを踏み越え、ようやく辿り着いた境地だった。


(許されない...)

 バートラムの中で、何かが音を立てて壊れていく。

(こんな事は...許されるはずがない...!)

 紫の瞳が狂気の色を越え、殺意が渦を巻いていく。


(だが...ここだ...ここからが...)

 冷静さを取り戻したバートラムは、状況を分析し始める。

 遥斗は魔力銃を失った。

 これは大きな好機となる。

 接近戦を余儀なくされる状況。

 そうなれば、ジェスター・コープスの火炎球の代わりにレギオンの怨霊讃歌を使えばいい。


 バートラムは遥斗の攻撃を待ち構える。

 完璧な態勢。万全の備え。

 しかし――


 遥斗の黒い瞳には、最初からバートラムを仕留めようという意思が微塵も感じられない。

 いくら殺しても蘇生できる相手に、とどめを刺す意味などないことを彼は理解していた。

 遥斗はゆっくりとマジックバックから、一振りの短剣を取り出す。

 その刀身はネクロマンサーの力に呼応しているのか、僅かな輝きが漏れていた。


 トスッ


 軽い音が夜気に溶ける。

 バートラムは不思議そうに自分の腹を見下ろした。

 そこには先ほど取り出していた短剣が突き刺さっている。


 遥斗が投げる素振りなど見せずに、手首の力だけでバートラムにフェイトシェイバーを放っていたのだ。

 短刀は自分の役目が分かっているかのように、一直線に獲物を捉えていた。


 痛みは全くない。

 しかし、言い表せない不快感が全身を這うように広がっていく。

 まるで魂そのものに触れられているような感覚。


「何だ...これは...」

 バートラムが嫌悪感を示す。


「アルケミック!」

 遥斗の掛け声と共に、銀の槍が細く長く変形していく。

 光の粒子が散りばめられたような銀のムチが、月明かりに妖しく輝く。


 バートラムの動きが止まる。

 痛みのない傷。不快な感覚。そして見たこともない短剣。

 判断に迷う一瞬の隙を突き、銀のムチが舞った。


 その軌道は、バートラムの体を狙ったものではない。

 ムチは短剣の柄を捉え、まるで蛇が獲物を締め付けるように巻きついた。


「な...!?」

 バートラムが声を上げた時には遅かった。

 銀のムチは短剣を引き抜くと同時に、一瞬で収縮していく。

 

 遥斗は手元に戻ったフェイトシェイバーを見つめる。

 刃には確かな手応えがあった。

 死を統べる者、ネクロマンサーの魂が、確かに刀身に封じ込められている。


 フェイトシェイバーに魔力を流し込み、職魂を光球に変化させる。

 それは小さな灯のように、ふわふわと空中に揺らめいていた。


 遥斗は中級HP回復ポーションをマジックバックから取り出し、一口だけ飲む。

 体の傷が修復されていく感覚。

 残ったポーションは既にその効力を失い、ただの液体と化していた。


「アルケミック!」

 二つの素材が光に包まれる。

 死を統べる力を秘めた魂と、無色の液体。

 それらは渦を巻きながら溶け合い、漆黒のポーションへと姿を変えていく。

 遥斗は即座にポーションを鑑定する。


 -ネクロマンサーのポーション-

 ネクロマンサーの職業が追加される。能力値には職業補正がかかり、ネクロマンサーのスキルを得る。

 効果時間:1時間。警告:常人が飲用した場合、肉体をアンデッドに変質させる危険性がある。


 禁忌の職業を宿したそれは、まさに死の色をしていた。

 一瞬の躊躇いもなく、遥斗はネクロマンサーのポーションを飲み干した。


 直後、異質な力が体内を這い回り始める。


 全てを死へと導く欲望。

 命あるものを無へと還そうとする狂気。

 アンデッドへの共感と憧憬。

 それは常人であれば、たちまち精神を侵食し、死者へと貶めてしまうほどの力だった。


 血が滲み出る。

 遥斗の体の至る所から、赤黒い血が零れ落ちていく。

 三つ目の職業を得た代償は、想像を遥かに超えるものだった。


 もはや立っているのがやっとの状態。

 しかし、漆黒の瞳には一片の迷いも映っていない。

 その目は、ただ冷たく、バートラムを捉えていた。


 バートラムは軽く指を鳴らす。

「何をしてるかは...知らんが...消えろ!」


 その声を合図に、レギオンの百の顔が恐ろしい形相を浮かべ、デュラハン・ナイトメアの四本の腕が一斉に武器を構える。

 二体の最強のアンデッドが、遥斗に向かって襲い掛かる。


 血を流し、立っているのがやっとの遥斗には、もはや避ける術もない。

(終わりだ...)

 バートラムの顔に、勝利の色が浮かぶ。


「好き勝手やらせるかよ!アルケミック!」

 マーガスの声が響く。

「マルチショット!」

 五本の矢がオーラを纏い、首なしの騎士の背中に直撃する。


 しかし漆黒の甲冑は、傷一つ付かない。

 デュラハン・ナイトメアの進軍は、止まる気配すら見せない。


「無駄だ...私の最強の僕たちを...止める術を持つ者など...!」

 バートラムの高笑いが、戦場に木霊する。


 その時。


 パチン。


 遥斗が指を鳴らした。


 二体のアンデッドの動きがピタリと止まる。

 まるで時が止まったかのように、その場に凍り付いていた。


「...何!?」

 バートラムは焦りの色を滲ませながら、再度命令を下す。

「動け!その小僧を...八つ裂きにしろ!」


 確かに二体は動き出した。

 しかし――


「止まれ」

 遥斗の声が、どこか虚ろに響く。


 その一言で、レギオンもデュラハン・ナイトメアも完全に動きを止めた。

 遥斗を主人と仰いでいるかのように、その命令に従っている。


 遥斗の体には新たな力が宿っていた。

 死を統べる者――ネクロマンサーの力が。

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